車いすユーチューバー渋谷真子が恋愛や排せつのリアル発信するわけ
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車いすユーチューバーとして活動する渋谷真子さん(32)。事故で26歳の時に下半身不随となってから、「車いすの人も当たり前に社会に溶け込んでいたい」と恋愛や排せつ、旅行など様々な「車いす生活のリアル」を包み隠さず発信している。
前向きな情報の少なさに驚き
それまで自分自身、車いすの人の生活を見たことがなく、情報を得ようとしたこともありませんでした。ケガで車いす生活になった時、まず浮かんだのが「どうやって生活しているんだろう」という単純な疑問です。SNSが発達しているネット社会なのに、「脊髄損傷」と検索してみても、ほとんど情報を見つけることができませんでした。
重度、軽度の違いはあっても脊髄損傷を負う人は毎年いるし、先天性や中途障害によって車いす生活をしている人はいます。それなのに情報がないのはつらいし、不安でした。情報を見つけてもマイナス要素が多く、もっとためになる情報、いろんなことができるんだという前向きな情報をまずは当事者の人たちに発信しようと思いました。
動画の撮影や編集の経験はほぼない状態からのスタートです。登録者数が多いユーチューバーの動画を見ながら、タイトルや言葉のチョイスはどんなものがいいのか、どうしたらクリックしたくなる動画になるか、研究しました。
恋愛、旅行…何でも挑戦
オープンには話しづらい性に関することなども含め、「私が疑問に思うんだったら誰かも知りたいはず」と同じ悩みを持つ人たちに回答できるような動画を作っています。国内外に一人旅したり、スカイダイビングに挑戦したりもします。自分がやりたいことをやってみて、同じように挑戦したい車いすの人の参考になって、まねすればできるようにしたいんです。
ユーチューブで発信を始めてまもなく5年になります。車いすの彼女がいる男性から「一緒に動画を見て、いろんなことが話せる環境ができてよかった」とコメントをもらえた時は、きっかけ作りになれたことがうれしかったです。
健常者との壁なくしたい
「動画を見るようになってから、車いすの人がいるんだなって気づくようになりました」というコメントもありました。みんな普通に生きているし、車いすの人との間に壁なんてないという感覚になってほしい。
自分が伝えたいと思うことが発信できていることに手応えを感じる一方で、問題提起をしたいなと思う時は伝え方が難しいです。配信を始めたばかりの頃、公共機関で不便に感じたことを発信したら批判コメントが相次ぎました。それからは言葉の使い方や映像の撮り方も工夫し、自分の意見だけを押しつけないように気をつけています。
活動を続けることで「車いすの人が普通にいる」という視点を持つ人が少しでも増えてくれることが目標です。社会には子どもやお年寄り、障害のある人など、健常者だけではない「みんな」がいます。「みんな」のくくりが広がるように、いろんな道を私がかき分けながら進んでいけたらいいなと思っています。
【取材後記】
松葉づえの苦労 思い出す
取材中に、渋谷さんの「『みんな』がいるという考えの中で、もの作りがされているか」という言葉を聞いて、思い出したことがある。
大学生の時に右足首を骨折し、入院と手術をして約3か月間松葉づえで生活した。バスや電車では優先席にも座れないことがあり、揺れる車内で片方の足と松葉づえで踏ん張るのに苦労した。駅ではエレベーターが見つけられず時間をかけて階段を上り、外出が嫌になった。社会はこんなに生活しづらいのかと感じた出来事だった。
世の中には当事者にならないと気がつかないことも多い。自分を基準に物事を考えがちだが、社会にはいろんな状況の人がいる。それぞれの当たり前に思いを巡らせてほしいという渋谷さんの強いメッセージを感じた。(読売新聞運動部 浜口真実)
「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちに、キャリアの転機とどう向き合ったかを読売新聞の同世代の女性記者がインタビューする企画です。