球史に残る「大炎上」試合、審判が初めて告白「言い出せなかった誤審」…「10年間ずっと謝りたかった」

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 高校野球史に残る「大炎上」試合として知られる、2012年の夏の全国高校野球・神奈川県大会1回戦「日大藤沢VS武相」。前代未聞の「サヨナラインフィールドフライ」で幕を閉じ、判定に納得いかない選手らが審判にくってかかったことが波紋を呼んだこの試合で、審判を務めていた男性が読売新聞の取材に応じた。「選手たちに謝罪したい」――。あの炎上事件は、野球を愛する一人の男の人生も変えていた。(デジタル編集部 文・古和康行、写真・秋元和夫)

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「あの試合の真実を……」記者に届いた情報提供

 「記事を読みました。あの試合の真実をお伝えしたい」

 8月下旬、記者のもとに一通の情報提供が寄せられた。記者はこの夏、「日大藤沢VS武相」で起きた炎上事件を取材し、試合に出場していた選手の今について記事にしていた。情報提供には、その試合で審判を務めていた一人がその後、野球の審判を退いた旨が記されていた。

 唐突な情報提供に若干、戸惑ったが、文面は極めて丁寧で、審判のその後という話も気になった。情報提供に書かれていた情報をもとに、元審判の男性に連絡を取ると、男性は「名前を出さないなら」との条件で取材に応じてくれた。

当時の状況に図を描きながら説明する男性。丁寧に、真摯に言葉を選び誤審を語った(8月下旬、男性の自宅で)=古和康行撮影
当時の状況に図を描きながら説明する男性。丁寧に、真摯に言葉を選び誤審を語った(8月下旬、男性の自宅で)=古和康行撮影

 それからしばらくして、神奈川県内の自宅を訪ねた。「今は審判はやめられたそうですが、あの試合と何か関係があるのでしょうか」。記者が切り出すと、男性はこう打ち明けてくれた。

 「あの試合では、(炎上した)武相側に不利な誤審があったんです。積もり積もったフラストレーションが爆発した。試合終了後、彼らにあんな態度をとらせてしまったのは、僕は今も審判の責任だと思っています」

10年越しに語られる「誤審」

 あの試合は、当時の読売新聞神奈川県版でも「1回戦屈指の好カード」と紹介された強豪校同士の試合だった。特に前年の秋季大会で県ベスト4に入っていた武相にとっては、甲子園出場への期待が高まる中で迎えた初戦だった。

 男性はこの試合で二塁の塁審を担当した。当時34歳。自身も神奈川で白球を追った元高校球児で、高校卒業後も草野球を楽しんでいた野球好き。高校野球の審判も、地元の野球協会の役員だった父や野球仲間にすすめられ、「少しでも後輩たちの役に立てるなら」と始めた。

 だから、試合前、保土ヶ谷球場の門をくぐるときは、テレビ放送も決まっていたこの好カードの審判ができることに、「大事な試合を任せてもらった」と嬉しさがこみあげていたという。だけど……。

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