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 全国約1700の地方自治体の情報システムを標準化・共通化する動きがいよいよ本格化する。2022年8月31日、対象となる20業務の「標準仕様書」が出そろった。同日、デジタル庁は標準化推進の方向性を定める「基本方針」案を示し、2022年9月末にも閣議決定される見通しだ。

 デジタル庁が発足した2021年9月1日に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」に基づき、同庁は基本方針の策定や共通機能の標準仕様の策定などを進めてきた。ただこの1年、デジタル庁と、自治体やITベンダーなどステークホルダーとの情報共有やコミュニケーション、合意形成は十分とは言えず、試行錯誤が続いた。できたこととできなかったことを検証する。

「本当に現場が回るようなシステムを実装できるのか」

 「本当に全ての業務で現場が回るようなシステムを実装できるのか」――。埼玉県戸田市の大山水帆企画財政部次長兼デジタル戦略室長(CDO)は標準仕様書を見て、こう漏らした。戸田市は早期に標準準拠システムへの移行計画の策定を進め、ITベンダーと調達の方針やスケジュールなどを調整してきた。

 「ITベンダーが標準仕様書をシステムに実装するには国の支援が必要だ。デジタル庁が中心となりITベンダー向けの説明会を開いて、実装に向けたFAQ(よくある質問と回答)集を作成すべきではないか」(大山氏)。

 政府は全自治体に対し、2026年3月までに20業務の情報システムを標準準拠システムに移行するよう求めている。移行に際しては、各府省庁と自治体が共同利用しデジタル庁が整備するマルチクラウドから成る「ガバメントクラウド」を原則として利用する。

 標準仕様書に基づき、ITベンダーは今後1年半で標準仕様に準拠した業務アプリケーションなどを開発しガバメントクラウド上で稼働させる。自治体は、政府が「集中移行期間」と位置付ける2023年度から2025年度までの間に、20業務の個別システムを標準準拠システムへと一斉に移行させる。

自治体ごとにバラバラに開発・運用していた自治体システムを標準準拠システムに移行する。移行後はできるだけガバメントクラウド上のアプリケーションを利用する
自治体ごとにバラバラに開発・運用していた自治体システムを標準準拠システムに移行する。移行後はできるだけガバメントクラウド上のアプリケーションを利用する
(出所:デジタル庁と総務省の資料を基に日経クロステック作成)
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 標準仕様書を作成したのは各府省庁だ。それぞれが所管する範囲に応じて20業務を分担した。

 一方デジタル庁はデータ要件や連携要件、共通のシステム機能など、全20業務に共通する仕様について、総務省と連携して策定した。ただ、それぞれの仕様書の精度や作成過程はまちまちだ。自治体やITベンダーが参加・対話する検討会を複数回開いて、参加者のコンセンサスを得て作成したものもあれば、そうした対話やコンセンサスが不十分のものもある。

 例えばデータ要件や連携要件は、自治体がシステムを移行する際の全体設計に欠かせない要件だが、戸田市の大山氏は「この仕様書では十分にシステム間で連携が可能なシステムを実装するのは難しい」とみる。同様に、国が要件を提示して進めたマイナンバーの情報連携では、ITベンダーごとに項目の格納内容が異なったことで連携が延期された。大山氏はこうした経験を踏まえて「項目セットなどのルールの統一が必要だ」とする。

基本方針策定を半年遅らせ自治体やITベンダーの声を聞く

 自治体システム標準化は、2020年9月に菅義偉首相(当時)が自治体ごとに異なる行政システムを2025年度末までに統一するよう指示したことでスタートした。ただ全自治体が短期間に20業務のシステムを移行するため、ITベンダーの人的リソースの逼迫や、自治体業務への悪影響などが懸念された。この1年、全国20の政令指定都市でつくる指定都市市長会や情報サービス産業協会(JISA)などが相次いで要望を出したのはそのためだ。

 こうした経緯もありデジタル庁は「自治体やITベンダーの声を丁寧に聞く」(同庁担当者)と慎重な進め方に方針を転換。標準化推進の方向性を定める基本方針の策定を当初予定の2022年3月から同年9月まで半年ほど遅らせた。