「不祥事を起こした会社の経営層はレピュテーションリスク(組織が不評を被る危険)を恐れ、それに合わせて広報部門も情報開示に慎重になりがちだ。事情は分かるが、その感覚をソーシャルメディアのスピードに合わせる形に今すぐアップデートする必要がある」。危機管理広報支援を手掛ける大森朝日事務所の大森朝日代表は、現代の企業に求められる情報開示の姿勢についてこう指摘する。
新型コロナウイルス禍を経てITは社会の基盤として一層の役割を担うようになった。それに伴い、ITを巡る不祥事、具体的にはシステム障害や情報流出などに対する社会の目の厳しさが増している。そうしたなか、IT不祥事に関する中途半端な情報開示によって、かえって社会からの怒りや反発を買い、SNS(交流サイト)などで炎上してしまうケースが少なくない。
企業が不祥事の公表や謝罪のために出す公表文(以下リリース)は、その企業が危機的状況に適切に対応できる能力を有しているかどうかを図るバロメーターといえる。2023年の今、万が一不祥事が起こった際、企業の価値や信頼を失わない情報開示の在り方を探る。
報道で明らかになった通信不具合、正式リリースは4日後
不祥事を起こした企業の対応には、首をかしげたくなるケースが散見される。最たるものが、情報開示のスピードだ。
「『ライフラインを担っている』との当事者意識が不足していたのではないか」。危機管理の専門家が異口同音にこう指摘するのが、2021年末に判明した楽天モバイルにおけるiPhoneの通信不具合の問題である。
発端は2021年12月17日の報道だ。「楽天モバイルの回線でiPhoneを利用した場合、電話を受けても着信が表示されない不具合が発生し、総務省が早期の原因解明と解消を求めている」などと報じられた。
これに伴う事態を楽天モバイルが公表し、顧客に迷惑をかけたことを謝罪したのは4日も後の2021年12月21日だった。しかも「主にパートナー回線エリアで利用している際に生じる現象」との旨で説明した。パートナー回線とは、楽天モバイルへのローミング提供元であるKDDIの回線を指す。
だが実際の原因は、楽天モバイルのネットワーク側にあった。同社は翌22日に障害情報を更新したが、自社の責任についてはリリース文の冒頭で一言触れたほか、文末に「※」による注釈の扱いで、「本事象は、楽天モバイルのネットワーク側の原因により発生していた事象です。KDDIのお問い合わせ窓口等にご連絡いただくことはお控えいただきますようお願い申し上げます」と付したまでだった。