「電子ペーパー」は,表示技術の一つとして捉えられることが多いが,“読む”という行為を重視した新しい電子メディアの概念と考えることもできる。表示媒体だけではなく,表示コンテンツやそれを流通させて,利用者が消費するまでの技術的,社会的な枠組みも含めて考えることで,電子ペーパーの未来が見えてくる。連載の第2回目は,こうしたメディアとしての電子ペーパーの未来を,電子ペーパーコンソーシアムの小清水実氏(富士ゼロックス)に展望してもらう。(Tech-On!)


 「電子ペーパー」という用語は,液晶ディスプレイやプラズマ・ディスプレイと並ぶ表示技術の一分野として使われることが多い。しかし,電子ペーパーコンソーシアムでは,この言葉の定義を「ハードコピー(印刷物による表示)とソフトコピー(電子ディスプレイによる表示)の機能のそれぞれの長所を併せ持つ第三のヒューマン・インタフェースの総称。特に,“読む”という行為をストレスなく可能にすることを大きな達成目標のひとつとした新しい電子メディアの概念」としている。

 ここでいうメディアとは,表示媒体だけではなく,表示コンテンツやそれを流通させて,利用者が消費するまでの技術的,社会的な枠組みをも含む。テレビや新聞など,社会に広く普及しているさまざまなメディアも同様な枠組みの中で存在している。

 メディアの歴史を見れば,古いメディアが新しいメディアで置き換えられることは常である。電話に駆逐された電信,最近では携帯電話に置き換えられたポケベルが記憶に新しい。このようなメディアの栄枯盛衰は,技術的なイノベーションが引き金になることが多い。ただ,社会全体を飲み込む大きな変化になるか否かは,そのメディアが人間の根源的な欲求をどれほど満たすものか,またはその時代の社会的な要請とどれほどマッチングしているかなどに大きく左右される。

電子ペーパーにチャンス到来

 時代の要請を受けて,電子ペーパーにもビジネス・チャンスが生まれてきた。例えば米国では,Amazon.com, Inc.の「Kindle」やSony Electronics Inc.の「Sony Reader」など,電子ブック専用端末が売り上げを伸ばしている注1)

注1)欧州ではオランダiRex Technologies社が開発した端末「iLiad」が電子新聞用途に実用化されている。KindleやSony Readerと同じく,米E Ink Corp.の表示層を採用している。同様の端末は,世界で20種類以上が製品化されている。

 米国における電子ブック端末の好調ぶりは,表示技術としての電子ペーパー技術の実用化がキッカケになったのは確かである。米E Ink Corp.などの開発成果により,薄型・軽量で,読みやすい端末が実現可能になった。しかし,成功要因はそれだけでない。“コンテンツ・ライブラリの充実”と,データ入手から読むという行為までをシームレスに行える“バックエンド・システムとの連携の良さ”が,電子ブック端末の普及の決め手になったといえる。

 Kindleの場合,内蔵した携帯電話(EV-DO)の通信モジュールで豊富なコンテンツを揃えるAmazonのサイトに接続(接続料はAmazonが負担)し,コンテンツをダウンロードするという流れで,端末上で実際に読むまでの行為をその場で完結させることができる。気になる本を探して入手し,読むという「読書」の一連のプロセスを待ち時間なく実行できる。また,デジタルの良さを生かした自在な文字の拡大縮小機能や,音声によるテキスト読み上げ機能など,紙の本にはなかった新しい読書体験をユーザーに提供している。これらの点で,Kindleは新しい電子メディアの概念の一端を示したと言えるかもしれない。