「デザインは単純に見た目を決めるものではない。デザイン力は問題解決力である」。こう話すのは、独SAPの共同創業者であり、スーパーバイザリ・ボードの議長を務めるハッソ・プラットナー氏(写真上)。米フロリダ州オーランドで開催されている独SAPのイベント「SAP SAPPHIRE 06 Orlando」の基調講演での発言だ。同氏は以前、SAPの技術部門の責任者を務めていた。
プラットナー氏は、「iPodがヒットしたのは『(製品を)売る仕組みをデザインする力が優れていたから』と米アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は言っている」と説明。デザインという言葉が、製品の概観を作ることだけを意味するわけではないと訴えた。その上で、「iPodは目に見えるもので分かりやすい。だが、目に見えないソフトウエアをデザインするときは、利用者、開発者、ソフトウエアを販売する人など、さまざまな利害関係者をソフトウエアのデザイン・チームに入れないとプロジェクトは失敗する」と続けた。
プラットナー氏は、ソフトウエアのデザインがうまくいくための方法を四つ挙げる。一つ目は、現場に出向き、「ファクト・ファインディング」を徹底すること。その際に、「視野を広く持ち、エンドユーザーと徹底的に対話のがカギ」とする。
二つ目は、ファクト・ファインディングで得た結果のすべてをシステム化するのではなく、実現可能性や、本当にエンドユーザーが必要としているかを見極めること。「範囲が広いままで進めるプロジェクトは、必ず失敗する」と断言した。
三つ目は、プロトタイプを作り、それを持って利害関係者と対話すること。プロトタイプは、「作成するのに時間がかかるので、動作するソフトウエアでなくてよい」とプラットナー氏。紙で書いたイラストでも、「数時間で描けるもので十分」と言いながら、手書きで作成したSAPのCRM(顧客関係管理ソフト)「SAP CRM」の画面のプロトタイプを提示した(写真下)。
プロトタイプについて、同氏は、「ユーザーの感情に訴えるものでないといけない。PowerPointを使ったプレゼンテーションではダメだ。完璧なものを作る必要もない。完璧だと逆に、エンドユーザーが意見を言ってくれなくなる」(同)。
四つ目は、実際にコーディング作業が始まっても、システムをデザインしたチームが、プロセス全体に最後まで関与すること。プラットナー氏は、「異なるスキルや考え方を持つメンバー同士が、批判を恐れずに終始、意見を交わすことが重要」と強調する。