見もの・読みもの日記

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奈良博の名宝、東国に来臨/金沢文庫

2005-05-13 08:02:11 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神奈川県立金沢文庫『祈りの美-奈良国立博物館の名宝-』

http://www.planet.pref.kanagawa.jp/city/kanazawa.htm

 いや~すごい、すごいね。日ごろ、金沢文庫にはお世話になっている。地域密着型の企画で、よく頑張っていると思っていた。しかし、やっぱり奈良博のコレクションは格が違う。いつもの定食屋で、いきなり三ツ星レストランのシェフのフルコースを出されたような気分だ。

 まず見どころは1階の、ふだん称名寺の釈迦如来(複製)が飾られているコーナーに、奈良博が所蔵する、太寧寺旧蔵の十二神将が展示されている。太寧寺は金沢文庫に近い六浦庄にあったが、戦前の軍用地接収で、移転させられてしまったそうだ。今回、移転先に残る本尊の薬師如来が特別出品されており、ひとつ台座の上で十二神将と久しぶりの再会を果たしている。よかった。この十二神将がよい。小ぶりだが、360度、どこから眺めても破綻のない、豊かな躍動感を感じる。左手を額にかざした卯神が特にいい。

 2階にあがると絵画。「辟邪絵(へきじゃえ)」が来ると知ったときは、耳を疑った。しかも「天刑星」と「神虫」は、私のいちばん見たかった作品である。これまで「栴檀乾闥婆」「鍾馗」は奈良博で見た記憶がある。もしかしたら「毘沙門天」も。でも、辟邪絵と言えば必ず図版に載る「天刑星」には、なぜか当たったことがなかった。ついに巡り会った本物を前に、しばらくぼうっとしてしまった。

 陰惨な絵柄なのに、色彩が本当に美しい。天刑星の腕、神虫の大きな口は、バラバラに引きちぎられた悪鬼の血に染まっている。しかし、その血糊さえ、甘やかに美しいのだ。確か『芸術新潮』で読んだ話だと思うが、この「辟邪絵」は、一時期、さる大物の組長のところにあったらしい。興味のある方は調べていただきたい。

 それから、南宋時代の「仏涅槃図」に注目。高々と聳え立つ2本の樹(松?)、入滅の釈迦を取り巻くわずかな人数、踊る胡人など、我々が知っている涅槃図とは全く異なる図様なのだ。

 考えてみると、私は何度も奈良博に行っているが、たいがい大きな企画展をやっているときなので、本館の仏像はともかく、それ以外の奈良博の常設展(絵画とか工芸とか)は、ほとんど見たことがない。ううむ、こういう巡回展はありがたいなあ。

 隣室に進むと「走り大黒」がいる! 奈良博のミュージアムショップでは、キャラクターとしておなじみの「走り大黒」だが、考えてみると、本物を見るのは初めてである。思わぬところで、アイドルスターに会ってしまったようで、嬉しい。もうちょっと側面が見えるように展示してほしかったんだけど。

 全体としては、土地柄を重視したのか、鎌倉時代のものが多いように思うが、東寺伝来の「牛皮華鬘」2点(国宝、平安時代)、天平写経の白眉といわれる「金光明最勝王経」(国宝)などが華を添えている。とにかく、関東人は行かなければ損。会期末まで展示換えはなしとのこと。

■奈良国立博物館「名品紹介」
http://www.narahaku.go.jp/meihin/index.html
コメント
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