国益の名の下、国家のお墨付きを得て、米国内外のサーバーをハッキング(不正侵入)し、ネット上の膨大な数の個人情報を盗み出していた――米情報機関で外部契約社員(ネット技術者)として働いていたエドワード・スノーデン(30)がこう暴露した。司直の手を逃れて国外に脱出し、現在、香港に潜伏している。目下、インターネットの利用に対する規制が最も少ない国として知られるアイスランドへの政治亡命を狙っている。

 ハッキングと言えば、「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジ(41)が浮かぶ。現在、スウェーデン司法当局から別件で訴追され、ロンドンのエクアドル大使館で「保護」されている。全世界の「内部通報者」から集めた機密電報を暴露してきたアサンジとスノーデンとの決定的な違いは、スノーデンは自身が「米諜報機関の一部」として機密情報収集・分析に携わってきたことだ。今、第三者を介して、今後の対応についてウィキリークスに相談しているとの情報もある。
"Iceland received informal approach over Snowden seeking asylum," reporting by Robert Robertson, writing by Alistair Scrutton, editing by Patrick Lannin and Alison Williams, Reuters, 6/18/2013)

情報機関の警備員から極秘情報を扱う技術者へ

 エドワード・スノーデン。この男、いったい何者なのか。そして、今回の暴露に及んだ動機は何か。

 スノーデンは、1983年6月21日、ノースカロライナ州エリザベスシティで生まれた。父親ロニーは、元沿岸警備隊員。母親ウェンディはメリーランド州ボルチモアにある連邦地裁事務副主任。姉は弁護士だ。

 スノーデンはボルチモアの高校に入学したが途中退学。理由は分かっていない。何年かぶらぶらしていたが、高卒資格試験(GED)をパスし、2003年、メリーランド州にあるアン・アルンデル・コミュニティ・カレッジに入学しコンピュータ学を専攻した。2004年、「国際テロリストと戦う」ことを目指して陸軍予備役に入隊したが、訓練中に両足を怪我したため除隊した。

 情報機関との関わり合いができたのは国家安全保障局(NSA)付属のメリーランド大学外国語研修センターの警備員として雇われた時だった。スノーデンはネットオタクで、独学でネット技術について勉強していた。技術者としての適性能力が評価されたのか、その後、07年、米中央情報局(CIA)のIT安全管理者として雇用され、ジュネーブのCIA支局に派遣されている。

三沢空軍基地内のエシュロン傍受施設でも働いていた

 09年にCIAを辞めた後、民間のパソコン・メーカーの米デルや、米ブーズ・アレン・ハミルトンに契約社員として雇われ、情報機関への出向勤務が続いた。ブーズ・アレン・ハミルトン時代には米国家安全保障極(NSA)に出向し、日本でも勤務していた。
"Edward Snowden: the whistleblower behind the NSA sureveillance revelations," Glenn Greenwald, Ewen MacAskill and Laura Poitras in Hong Kong, Gurdian, 6/10/2013)
"What we know about NSA leaker Edward Snowden," Tracy Connor, NBC News, 6/11/2013)

 詳細については明らかにされていないが、日本で勤務していた頃は、青森県三沢市にある米空軍基地内のエシュロン傍受施設で働いていたものとみられる。エシュロンは、米英など英語圏5カ国の情報機関が連携し、軍事目的で第三国の通信を傍受する「シギント・システム」だ。三沢基地のエシュロン傍受施設は中国、北朝鮮、ロシアの監視が主任務だが、日本政府や企業の経済・通商関連部門の通信も傍受しているとされる。

 スノーデンによると、NSAは今年3月だけで、世界中で6万1000件以上のハッキングを実施しており、そのうち数百回以上は中国の政府機関、民間団体、大学などを標的にしたものだったという。
"ECHLON Misawa, Japan NSA Echelon Station," www.thelivingmoon.com)

 余談だが、スノーデンは日本のアニメやポップカルチャーにも強い関心を示し、日本語も勉強していたという。また中国語もある程度しゃべれたようで、それが香港行きの一因になったようだ。また自称仏教徒だという。中国や日本を対象に極秘情報をハッキングする必要があったことから、日本語や中国語への関心を深めたと推測できそうだ。
"AP IMPACT; Snowden's Life Surrounded By Spycraft," Associated Press. 6/15/2013)
"For Snowden, a Life of Ambition, Despite the Drifting," John M. Broder, Scott Shane, New York Times, 6/15/2013)

 その後、スノーデンは、NSAのホノルル傍受施設に移り、逃亡までの3カ月をそこで過ごした。20万ドルの年収を得て、恋人と優雅な生活を送っていたようだ。

暗号名「PRISM」は1カ月に97億件の情報を収集

 スノーデンは今年5月、NSAに「癲癇(てんかん)の治療をするため3カ月の休暇が必要だ」と休暇届を出したのち、行方をくらました。そして香港に高飛び。同地で英ガーディアン、米ワシントン・ポストとのインタビューに応じた。NSAが、「PRISM」と名づけられた検閲システムを利用して国内外の公的機関、民間機関のインターネット・システムに侵入し、広範囲にわたる情報を収集していたことを実名で暴露した。その範囲は電子メール、チャット、動画、写真、ファイル転送、ビデオ会議、登録情報などに及んだ。

 ワシントン・ポストによれば、NSAは「PRISM」を通じて、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどのサーバーから今年3月だけで97億件の情報を収集していたという。

リークの動機は、「個人の自由と基本的人権を守るため」

 スノーデンは暴露の動機について、ガーディアンとのインタビューで次のように語っている。「米政府が秘密裏に構築した巨大な監視体制によって、世界中の人々のプライバシーと、インターネット上の自由と、基本的人権が破壊されている。このことに良心が咎めたからだ」。

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