巧みなところと、いい意味でアマチュアなところがいい感じに共存してる
──アルバムの出来に関してはご自分としてはどうですか?
ももす : とても満足しています。し、早くいろんな人に届いてほしいと思うし、言いたいことや書きたいことが全部書けたかなと思います。
真部 : “エソア” みたいな曲と “まともじゃない” みたいな曲が並んで違和感がないアルバムもなかなかないなと思います。ももすちゃんの構成力というのか、何なんですかね。たぶん無意識に整合性を取ってる部分が作用してるんじゃないかなと思います。それを人は「センス」と呼ぶわけですが。
ももす : ありがとうございます。
──曲順もとてもいいと思いました。
ももす : プロデューサーと一緒に考えたんです。「十二単」だから12曲で、 “6を撫でる” は6曲めではなく、曲の最後に「今度こそ3を出すから」と言ってるから3曲めに入れる、みたいな細かいギミックはありますけど、全体として飽きないような構成を考えました。
──1曲めが “十二単と猫と宇宙。” なのがすごく効果的ですよね。華やかな “エソア” で始まってもいいけれど、その前にこの曲があるのが、さっき言った大人っぽい印象につながっている気がします。
ももす : “十二単” を作る前に体調崩して2週間入院したんですけど、退院してから2番を作ったので、1番と2番では時系列がちょっと違いますね。
──そうだ、入院。SNSを見て心配していました。
ももす : この間も入院しちゃって。今年2回入院してるんです。
── “6を撫でる” のMVで何度も生まれ変わっていますが、 “十二単” も「僕には来世がないから」で始まっていますよね。前にお話を聞いたときに「人生は4回あって、わたしはいま4回目を生きている」とおっしゃっていたことも思い出しますが、そういうことをよく考えるんですね。
ももす : はい。いまの命に執着がいっさいないので、こういう歌詞を書いてしまうんだろうなって思います。猫にだけはちょっと申し訳ないですけど。
──歌詞については真部さん、どんなことを思われますか?
真部 : ダークですよね(笑)。ただ、パーソナルな部分を歌詞に反映させるとどうしても強くなりすぎることが多いんですけど、そういうなかでちゃんと軽やかさを保ってるなと感じます。
ももす : 声が明るいから暗く聞こえないのかな、ってたまに思います。ニコニコしながら「つらい」って言ってるような感じですよね、ずっと。
──僕がももすさんの歌詞を見ていつも思うのが字面のきれいさです。1行の長さ、漢字とかなの配分など、デザイン的な美しさがある。
ももす : 縦の漢字の並びとかけっこう好きなので、よくそれは考えながら書いてます。このアルバムも前作もタイトルが四字熟語ですけど、わたしは四字熟語が好きなので、なるべく面白い四字熟語を書きたいなと思いながら、AメロやBメロは4行にすることが多いんです。縦に読んでも面白い組み合わせになるといいなって思ってますね。
──今回とくに気に入っているのはどこですか?
ももす : 「僕誰海鯨」です。
── “僕のなかの悲しみ” だ。「何分泣夜」もいい感じですね。
ももす : 文字を絵画として見るのが好きなのが昂じて、最近、食べ物を絵画として見るようになっちゃって、ごはんが食べれなくなったんですよ。なんか汚いなって思っちゃって。オムライスとかは黄色くて赤い絵が描いてあって、かわいいから食べれるんですけど。それがよくないなと思って、さっき真部さんに相談してました。
真部 : 汚い色なんてないですからね、世の中に。組み合わせの問題です。 って水彩画YouTuberの柴崎春通さんが言ってました(笑)。
ももす : あの人、天才ですよね。ちょっと柴崎さんの動画を見てみます。
真部 : いや、ごはん食べたらいいんじゃない?
ももす : 食べれない。餃子の中身とか、うなぎの裏側とか、気持ち悪くて。見た目がわからないチューブ飲料とかなら食べれます。
真部 : 気持ち悪いの以外を食べたら?
ももす : あとお肉も食べれなくなっちゃいました。冷たいお肉なら食べれるんですけど、茶色いのと、匂いが気持ち悪くて。とくに鶏肉が。
真部 : あー……じゃあお肉は食べないほうがいいかもね。
ももす : ザバス飲んでたんぱく質を摂ってます。
真部 : もう「そうか」としか言いようがない(笑)。
ももす : 真部さんのおすすめで自炊を始めたんですよ。
真部 : 自炊はしたほうがいいです。
ももす : だけどもうやめたんですよ。
真部 : やめたんだ(苦笑)。
ももす : 家が真っ白じゃないと許せない気分になっちゃって。で、「コンロ、黒!」って思って、上に白い棚を置いてコンロを密封したので、もう料理ができないんです。生活に関するこだわりが強いんですね。
真部 : 外食もダメ?
ももす : ダメです。昨日、知り合いとごはん食べに行ったんですけど、ひと口も食べれなかった。
真部 : そうか……解決方法がわからないな、それは。
ももす : 悩みがあると真部さんに相談したくなるんですよ。
真部 : 僕はあんまり相談しがいがないと思いますよ。
ももす : でもめっちゃ話聞いてくれるんです。
真部 : 聞くだけ番長なんで(笑)。
──聞くのは大事だと思いますよ。
真部 : 今回、最初に話したときに「どうしよう、やりたいことがないかもしれないです」みたいに言ってたんですけど、「いや、あるんじゃないかな。他の曲とか聴いてても明らかにありそう」と思って、それに自分で気づいてもらいたかったんですよね。このお話をいただいたのが、僕がちょうど自分名義の活動をいったん全部中断して、自己発信ではなく、ひとに使ってもらうことで勉強し直したり経験を積みたいと思った矢先だったんで、とりあえずももすちゃんに「船長として方向性を誘導してくれないか」みたいな話をして、やりたいことがわからないなら、「雑談の延長で探っていきますか」っていう感じで話してもらったんです。そしたらやっぱり、けっこうくっきりとあるんですよ(笑)。なので、ももすちゃんのやりたいことがちゃんと反映されてるといいなと思ってます。どうですか?
ももす : すごく洞察していただいて……。
真部 : 洞察はしてないです(笑)。まんまです。
ももす : “怪傑ヒロイン☆” で生まれて初めて「三位一体!!!」って歌えたので、よかったです。「3つのロボが合体する瞬間」とか「なんだかんだ言って今日は平和」とか「悪貨は良貨を駆逐する」とか、好きなフレーズがいっぱいあるので、歌っててすごい楽しかったです。
真部 : 仮歌録りの日に神妙な顔をしてて、「どうしたの?」って言ったら、「このロボっていうのがあまりにもなので、メカにしてもいいですか?」って(笑)。「それはどう違うの?」という話をしましたね。
ももす : ウルトラマンと仮面ライダーぐらいの違いかもしれません。
真部 : でも結果、ロボでよかったんだよね。
ももす : はい。なんか歌ったらロボがいいなって。
──真部さんは歌手としてのももすさんをどう評価されますか?
真部 : 巧みなところと、いい意味でアマチュアなところがいい感じに共存してるなと思います。そのバランスを自分でも取ってるのかなって。なので僕のなかでは、セルフ・プロデュースが巧みな人、っていうイメージです。
──セルフ・プロデュース、されていますか?
ももす : どうですか、加茂さん。
加茂 : ごめん、聞いてなかった。
真部 : (笑)。アマチュアと巧みな部分のバランスがいいなと思ったんですけど、そのバランスって自分で調整しないと取りづらいから。天然だったら面白い人だなっていうか。
加茂 : どっちかわかんないよね。演出としてやっているのか、本当にそのままなのか、あるいは半々なのか。
ももす : 家にもうひとり自分のスペアがいるんで、その人に聞いときます。
──違いは当然ありますが、なんとなくお二人には通じるものがある気がしますね。加茂さんが「合うかも」と思われたのはわかります。
ももす : 真部さんのほうが女性的だと思う。
真部 : そうですかね?
ももす : うーん、アンドロイドは女性的なのかな。
真部 : なんとも言えない。僕は今作に関しては、ももすちゃんのプランニングにだいぶ牽引してもらってるところがあるので。
──船長の指示に従った感じですか。
真部 : 船長の山に登ってみたって感じですね。昔、自分の曲で癒されたって言ってくれましたけど、自分が作るときは「押しつけがましくないもの」を心がけているので、上手に寄り添えていたらいいなと考えてます。
ももす : うれしいです。
──最後になりますが、ジャケットかわいいですね。
ももす : 実際に十二単を着て、12キロぐらいあったんですけど、写真を撮りました。そこにイララモモイさんという漫画家さんに絵を描いていただいて、和と洋というか、歴史と現代というか、折衷的なことができたらいいなと思ってたので、すごくいいジャケットになったと思います。CDのブックレットには、わたしが十二単を着てヘッドホンしてDTMしてる絵もあって、そういうところもぜひみなさんに見ていただきたいです。
──12キロはすごいな。
ももす : 重かったです。着るのは大変でしたけど、脱ぐときは10秒ぐらいで脱げるんですよ。
──和服ってそうですよね。そろそろお時間ですが、お二人から言っておきたいことがあれば。
ももす : わたしはないです。真部さんあります?
真部 : ごはん、食べたほうがいいと思います(笑)。おなかすくしね。
ももす : すかないんですよ。すくっちゃすくんですけど。
真部 : すいてるんだよ、それは(笑)。
ももす : すいてるんですかね……。
編集:西田健
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PROFILE : ももすももす
1995年9月11日生まれ。埼玉県川越市出身。シンガーソングライター。
2015年よりロックバンド、メランコリック写楽の作詞・作曲を手掛け、ボーカル&ギター“ももす”として活動。
2018年より“ももすももす”としてソロ活動をスタートし、
2019年2月にファーストシングル「木馬」でメジャーデビュー。
2020年3月、ファーストアルバム「彗星吟遊」をリリース。
2023年2月15日、ソニー・ミュージックレーベルズ移籍第一弾シングル「エソア」リリース決定。
中毒性の高いハイトーンボイスと純文学の影響を受けたユニークな言葉遣い、
そして絵画のように奥深く、予測不能なメロディーの渦を宅録から世界へ発信中。
猫を飼っているが、猫アレルギーである。
■公式ホームページ:https://www.sonymusic.co.jp/artist/momosu/
■公式Twitter:https://twitter.com/momo_shara