ふたりはどのように音楽で共鳴し合ったのか──ももすももす × 真部脩一対談
SSW、ももすももすが、最新アルバム「白猫浪漫」をリリースした。今作は、ももすももすの持つ文学性と奇想天外でギャラクティックな世界観、そして猫に対する偏愛が詰まった、集大成とも呼べるコンセプトアルバム。今回OTOTOYでは、今作に収録の“まともじゃないのがちょうどいいの”と“怪傑ヒロイン☆”の2曲を手がけた、真部脩一(ex.相対性理論)との対談を実施。ふたりがコラボレーションすることになった経緯から、楽曲の制作秘話について話をききました。
ももすももすの集大成とも呼べるコンセプトアルバム
INTERVIEW : ももすももす × 真部脩一
3年ぶり2作めのアルバム『白猫浪漫』で、ももすももすは目覚ましい進歩を見せてくれた。なかでもひときわ強い印象を与えるのが、アルバム中盤の “まともじゃないのがちょうどいいの” と “怪傑ヒロイン☆” だ。いずれも真部脩一(ex.相対性理論、Vampillia、集団行動ほか)とのコラボ。 “まともじゃないのがちょうどいいの” は共作(作・編曲)、 “怪傑ヒロイン☆” はももすももすのキャリア初となる外部からの提供曲である。2曲の制作を通して出会った二人の対談をお届けする。ライター(と真部のマネージャー加茂氏)を交えた4人の、ちょっと不思議なやりとりをお楽しみください。
インタヴュー・文 : 高岡洋詞
写真 : 星野耕作
地球から3センチぐらい浮きたいときに聴いてました
──一緒にやることになった経緯から教えていただけますか?
真部脩一(以下、真部) : 最初は人づてというか、そちらにいらっしゃる加茂さんなんですけど。
加茂啓太郎(以下、加茂) : 真部くんのマネジメントをやることになって、ももすちゃんと合うんじゃないかなと思ってプロデューサーの三宅(彰)さんに売り込んだんです。で、三宅さんが彼女に話したら「ぜひやりたい」と。
ももすももす(以下、ももす) : はい! 実は大ファンなんです。初めて言うんですけど。
真部 : 恐縮です。
ももす : ちょっと恥ずかしくて言ってなかったんですけど、中学1年生から聴いてました。だからすごくうれしかったです。
──憧れの人と一緒にやれる喜びを……。
ももす : 隠しながら(笑)。
真部 : 隠してたんですね。
ももす : はい、隠してました。キモくなっちゃうから。
真部 : うれしいです。ありがとうございます。
ももす : ありがとうございます。
──真部さん、ももすさんの過去の作品もお聴きになったと思うんですが、どう思われましたか?
真部 : 単純にすごくいっぱい引き出しをお持ちだなと。けっこう何でもできちゃうというか、出し物ごとにいろんなテイストが入ってくるので、変わった人に違いない、面白そうだな、と思ってました。
ももす : ありがとうございます。
真部 : 実際、変わった人でした(笑)。
ももす : 変わってないですよ! 最近すごく「あなた変わってますよね」って言われるんですけど、変わってないです。
──中学生のころ聴いていたというと、相対性理論ですよね。どういうところがお好きでしたか?
ももす : 癒してくれるところ。中学生のとき世界を恨んでいたので(笑)、そういう気持ちに少し関係を与えてくれるような感じでした。
真部 : 僕は別に世の中を恨んでなかったですよ(笑)。
ももす : 厭世的な暮らしをしてました。
真部 : 怒れる十代だったんですね。
ももす : イカレてたんで、はい。
真部 : いや、そっちのイカレるじゃなくて(笑)、怒れるのほうです。
ももす : 怒ってはなかったんですけど、世の中への諦めや絶望をBGMとして……。
真部 : (苦笑)。なんて言えばいいのかわからないけど、優しいポップスをやりたいと思っていたので、うれしいです。
──世界に対する恨みや絶望に寄り添ってくれる感じ?
ももす : 寄り添ってくれる人なんてどこにもいないと思ってますけど、頭のなかに鳴ってるみたいな感じですね。世の中からほんのちょっと、地球から3センチぐらい浮きたいときに聴いてました。
──2曲一緒にやっていらっしゃいますね。 “まともじゃないのがちょうどいいの” は共作で、 “怪傑ヒロイン☆” は真部さんの書き下ろしです。
ももす : “まともじゃないのがちょうどいいの” はアニメの主題歌(『墜落JKと廃人教師』エンディング・テーマ)で、直前ぐらいに知り合って「一緒に作っていただきたいんですけど」ってお願いしました。「それとは別に、真部さんにもう1曲作っていただきたいです」ってお伝えして、今回の制作に至った形になります。
── “まともじゃないのがちょうどいいの” は作詞はももすさんで、作曲と編曲のクレジットが連名になっていますね。 “怪傑ヒロイン☆” は作詞、作曲、編曲すべて真部さん。
真部 : “怪傑ヒロイン☆” に関してはもともと「1曲ゼロから作りますか」みたいな話をいただいたんですけど、 “まともじゃないのがちょうどいいの” は、急遽「こういう曲があるから現場に来ないか」みたいな感じでオファーをいただいたんです。なのでほぼ完成形のデモがあって、僕は追加のアレンジメントをして、知り合いのミュージシャンを手配して、現場で録りに立ち会わせてもらって……っていう感じですかね。
ももす : Dメロの部分は真部さんに書いていただきました。
真部 : そこだけメロを空白にしてくれていて、「どうぞ」と。
──いかがでしたか、共作してみて。
ももす : 僥倖でした。いままでの人生をちょっとだけ肯定できるような曲になったなって思います。
真部 : デモの段階ですでに歌詞までしっかりと作り込んであって、行き先というか世界観や雰囲気も確立されていたので、ご本人のなかでけっこう固まってるのかなという。
──そういう場合って手を加えにくかったりしませんか?
真部 : にくいですね。にくいんですが、今回はすごく明確だったので、逆にのびのび楽しくやらせていただけました。「僕がどういう方向に舵を切っても、この曲の根幹は揺るがないだろうな」みたいな。
ももす : (黙ってガッツポーズ)。とてもお気に入りです。
──この2曲は連続で収録されていて、アルバムのなかで真部さんコーナーみたいになっていますね。
ももす : この流れ、好きです。
真部 : ももすちゃんの手腕じゃないですか。順番は “まともじゃない” が先だったんですけど、そこで一度現場を経験させてもらったんで、 “怪傑ヒロイン☆” を書く前にアルバムの雰囲気をどこかしら吸収できていたのかなとは思います。そこで得た肌感覚でいくつかアイデアを提示して、ももすちゃんに方向性を決めてもらって。
ももす : 最初に何曲か聴かせていただいたデモのなかからこの曲がいいなと思って、そこから作詞やアレンジの作業を進めていったんですけど、歌詞を書くにあたっては、真部さんがわたしがポツポツとしゃべる過去をかなり聞いてくださいました。
真部 : そうですね。ヒアリングしていきました。
ももす : 作業の合間に、カウンセリング室みたいなところで。
真部 : いや、カウンセリングではないです(笑)。
ももす : だから “まともじゃないのがちょうどいいの” の続編みたいな曲になってると思います。
真部 : 歌詞のテーマについて話したときに「吾妻ひでおさんが好きなので、ちょっとハチャメチャな、キテレツSFみたいな感じのがいい」というのと、「昔、ヒーローものの曲を書こうとして諦めました」みたいな話をされたので、「じゃあリベンジしてみようか」と。
──ヒーローものをやる夢がかなったんですね。
ももす : でも、まだヒーローにはほど遠いなって、自分としては。マントも仮面もまだ送られてこないから、不適任なのかなとは思います。
真部 : (苦笑)。ももすちゃんのキャラクターにフィットさせるために、 “まともじゃない” の逆パターンで、ブロックごとに空白を作って「入れたいものを出してください」って投げたりしたので、実は彼女のクリエーションも入っているんですよ。僕は文字数合わせだけしましたって感じです。
──どのへんがももすクリエーションですか?
ももす : 内緒です。カレーの隠し味、言いますか? 言わないですよね。それと同じです。
真部 : “まともじゃない” は「Dメロを書いてもらった」って言ってたやん(笑)。
ももす : “まともじゃない” はハヤシライスだから。
真部 : 料理が違うんだ(笑)。
ももす : 違うんです。 “怪傑ヒロイン☆” は、生まれて初めて曲のタイトルに星をつけたのがすごくうれしかったですね。いつも、人と話してるときとかは星型の人格を演じながら生きてるので、とても面白かったです。
──個人的にはアルバムの核になる2曲という感じがしました。ちょうど真ん中にありますし。
ももす : かんぴょう巻きのかんぴょうの部分ですね。