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東芝迷走の1日 「不適切」の影再び

(更新)
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東芝は14日、傘下の米原子力大手ウエスチングハウス(WH)による米原子力サービス会社の買収を巡り、「内部統制の不備を示唆する内部通報があった」ことを明らかにした。新たな不適切行為の疑いが浮上し、昼すぎからは決算発表の延期を巡って金融市場に動揺も広がった。東芝が夕方にやっと説明した2017年3月期の業績予想では、原子力事業の損失などで連結最終損益が3900億円の赤字になる見通し。このままでは3月末も債務超過を解消できない。14日の東芝を追う。

【午後6時30分すぎ】

「延期をせざるを得ない事象が起こった。ご迷惑をおかけし心よりおわび申し上げる」

東京ベイエリアにそびえる東芝本社。綱川智社長は記者会見の席上、決算発表の遅れについて陳謝した。

この日の昼、東芝は2016年4~12月期決算の発表資料を予定通りに公開できず、記者会見の時間も遅れに遅れた。記者会見に先立つ午後5時すぎに開示した決算資料の数字も「仮」でしかない。しかも、そこには異例の注意書きが並んでいた。

「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したものです」

「財務数値は独立監査人によるレビュー手続き中であり、大きく修正される可能性があります」

この日に発表できた決算の内容は、監査法人の「お墨付き」なしの数字だ。監査証明が必要な四半期報告書は提出できず、東芝は提出期限を3月14日に延期した。つまり、今日時点の数字は全面的には信用できないかもしれないのだ。

「財務制限条項抵触の恐れがないか」

2017年3月期に原子力事業ののれんの減損損失を7125億円計上し、連結最終損益は3900億円の赤字に。その結果、3月末に1500億円の債務超過に陥る――。

東芝は14日、こうした窮状をとりあえず説明したが、これ以上、傷口は広がらずに済むのだろうか。監査が終わらなかった原因である不適切行為への疑念は晴れるのか。それとも、東芝を今以上の危機に追いつめていくのか。市場関係者からは東芝の先行きをめぐる厳しい声が相次いでいる。

「融資の返済などを銀行が要求する財務制限条項(コベナンツ)に抵触するような事項が浮上しているのではないか。四半期報告書の提出延期は、そんな疑心暗鬼を増幅させかねない」

BNPパリバ証券の中空麻奈投資調査本部長は、東芝と取引金融機関との関係を心配している。銀行団は2月末までは同条項を行使せずに協調融資を続ける方針だが、ここで新たな問題が浮上すれば支援交渉が振り出しに戻る可能性もゼロではない。

「上場廃止リスク、高まりかねない」

そもそも、中空氏は今回の決算発表で「巨額損失の原因や経営陣らの背任行為の有無、金融支援や半導体事業の分社化の進捗など様々な懸念について明確な説明があるかどうかに注目していた」という。しかし、発表延期で東芝を巡る不透明感は晴れないまま。それどころか、WHを巡る新たな疑念が浮上してしまった。

東芝は2015年に会計不祥事が発覚した後、企業統治のあり方を見直したはず。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは、「(不適切な行為が取り沙汰されている)WHによる米原子力サービス会社買収は、企業統治の改善に努力するさなかに決められた。それにもかかわらず、今回のような事態を招いてしまった。上場企業としての適切な管理体制を疑わざるを得ない」と話している。

今回、延長した期限である3月14日の翌15日以降には、東芝は東京証券取引所に内部管理体制確認書を提出する必要がある。ここで内部管理体制の改善が認められなければ特設注意市場銘柄の指定解除を受けられないからだ。最悪の場合は「上場廃止のリスクが高まりかねない」(ドルトン・キャピタル・ジャパンの松本史雄シニアファンドマネジャー)という。

半導体メモリーは「過半譲渡」も

このままなら、東芝は3月末に債務超過に陥る。債務超過を確実に回避するため、14日には、半導体メモリー事業の分社・一部売却の計画を修正することも明らかにした。

東芝は分社で発足する半導体メモリー会社について、これまで「外部資本の受け入れは20%未満」としていたが、「マジョリティー(過半数)譲渡を含む外部資本導入を検討する」という姿勢に転じた。主導権を渡してでも、確実に資本を増やしたいのだ。東芝は、なりふり構っていられなくなっている。

ドル箱である半導体メモリー事業の売却は間に合い、債務超過は回避できるのか。経営幹部による不適切な行為の疑念を払拭し、期限までに四半期報告書を提出できるのか。そして、「上場企業」であり続けるための内部統制の問題で市場の理解を得られるのか。

いずれも3月がヤマ場といっていい。東芝には3つのデッドラインが迫っている。

(富田美緒、浜美佐)

【午後3時すぎ】

東芝株は決算開示の遅れを受けて売りが広がり、14日終値は前日比8%安い229円となった。

「不適切なプレッシャー」

一時、前日比9%安の226円まで下がった。その原因は決算発表の遅れだけではないだろう。決算発表の延期を知らせる発表文は2枚。「提出期限の延長を必要とする理由」という項目には、目を丸くするような事実が記載してあったのだ。

リリースによると、問題があったのは、WHが2015年末に買収手続きを終えた米原子力サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスターの買収に伴う手続きの過程。今年1月8日、19日に「取得価格配分手続きの過程において内部統制の不備を示唆する内部通報があった」と説明している。つまり、この買収を巡って不適切な行為があったという疑いが出てきたのだ。

東芝では、監査委員会が国内の弁護士事務所を起用し、事実関係の調査を実施している。WHの経営者による「不適切なプレッシャーがあった可能性があり、さらなる調査が必要と判断した」という。

「そう簡単にはいかないだろう」

決算の認定には内部通報に関わる調査を終えることが求められている。発表の延期申請を迫られることは自明の理だった。

「少し時間がずれているだけではないか」。東芝の社外取締役をつとめる経済同友会代表幹事の小林喜光氏は14日の昼すぎ、同友会の定例会見で口を濁していた。東芝が決算発表延期を発表する直前だった。

この日の東芝の取締役会については「無事終わった」と説明。決算発表に絡んで、監査法人との調整が難航しているとの報道については、「近いうちに社長から聞いてもらうことになる。私から誤解を招くことは言えない」と慎重な口ぶりに終始した。そして、東芝の改革について、こう付け加えた。

「そう簡単にはいかないだろう」

(大本幸宏、岸本まりみ、浜美佐)

【午後2時30分すぎ】

「提出期限延長に関する承認申請書提出に関するお知らせ」――。東芝は午後2時30分、こんなタイトルの発表文を公表した。つまり、法令で定められた四半期報告書の提出期限を3月14日まで1カ月延長することを当局に申請し、承認待ちであることを明らかにした。

この延期は、決算認定を巡って監査法人との調整が難航していることが影響したとみられる。巨額損失の計上に絡んで米原子力子会社の不適切行為の調査をする方針で、当該行為の扱いが焦点となっているもようだ。

米WHでも不適切行為

東芝は傘下の米原子力大手、ウエスチングハウス(WH)での不適切行為について調査する方針を固めている。不適切行為が認められた場合には、巨額損失の発生過程での組織的な関与の度合いや経営幹部の責任の有無も調べる方向。当該不適切行為があった場合の会計上の処理を巡って、監査法人との調整が難航しているという。

14日の決算発表は、単に業績だけでなく昨年末から続いている米原子力事業での巨額損失について、額や発生原因、再発防止策などを合わせて公表する予定。市場や関係者の関心は極めて高かった。

東芝は原子力事業の位置付けを見直すことを表明しており、同事業の構造改革の方向性も示される可能性があった。

東芝は2015年に発覚した会計不祥事以降、情報開示を巡って失態続きだ。2015年5月13日には不適切会計問題に絡んで過年度の利益修正額を出したが、発表自体が深夜11時45分と異例の時間帯となった。

2015年11月には旧経営陣への会社側の民事訴訟の提起やリストラの方向性を示す重要な記者会見を土曜日に実施。16年8月には世間がお盆休みに入ったさなかに決算発表した。WHの過去の決算開示遅れなどもあった。

「部門を超えれば、別会社」

こうした遅れの原因が監査法人との調整不足だけなら、問題はさほどないともいえるかもしれない。しかし、発表日時を事前に公表しており、それは金融市場などへの事実上の公約といえる。

東芝は東証の特設注意市場銘柄の指定を受け、新体制で企業統治や内部管理体制の改善をしてきたはずだ。そうした姿勢に疑問符がつく。信頼回復が東芝再生の重要なキーワードであるがゆえに、今回の決算発表遅れは致命傷ともなりかねない。

東芝と仕事上のつながりがある公認会計士の1人は語っている。

「半導体を売って、当面の危機をしのげたとしても、今後の収益源はどこにあるのだろうか。東芝は様々な事業部門を抱えているが、部門を超えると別会社のようだ。風通しが悪い。会計不祥事の問題を受け、経理の体制を変えているが、情報が他の部署にまわらない体質は本質的には変わっていない。それが問題だ」

(大本幸宏、岸本まりみ)

【昼12時すぎ】

発表予定の時間を過ぎても、東芝の2016年4~12月期決算の資料が出てこない。今日の決算発表は東芝の命運を決める大事なイベントなのに、想定外の遅れが生じてしまっている。東芝の決算に「お墨付き」を与える監査法人との協議が難航したとされている。

「遅れ」の常習犯に

金融市場やメディア各社が注目していた東芝決算。昼12時という発表予定時刻が以前から周知されていたため、誰もが固唾を飲んで見守っていた。

ところが、予定の12時をすぎても、会社のホームページにも日本取引所グループの適時開示情報閲覧サービスにも決算資料が公開されない。その代わり、東芝のホームページを見てみると、素っ気ない一文が掲載されていた。

「2016年度第3四半期の決算を、本日公表することをお知らせしておりましたが、本日12時時点では開示できておりませんことを、お知らせします。(2月14日12:00現在)」

決算発表の延期のお知らせだった。

東芝は過去、経営にかかわる重要な発表案件について何度も発表時間の遅れがあった。アナリストやメディアからしばしば批判される「常習犯」だった。

しかし、きょう14日は東芝にとって「特別な日」。決して失態は許されない。この日に発表される決算数字を見て、投資家はもちろん、取引金融機関、さらには政府関係者も東芝の将来を判断していくからだ。

債務超過は回避できるか

東芝は2017年3月期末時点で債務超過を回避できそうなのか。それとも、無理なのか。債務超過に陥れば、株式の上場市場が現在の東証1部から2部に変更される。さらには、金融機関からの資金調達に支障が出る恐れも膨らむだろう。東芝は、そんな瀬戸際に立たされている。

そもそも、東芝は、この日に向けて準備を進めてきたのではないか。債務超過を回避するため、「ドル箱」である半導体メモリー事業の分社にも踏み切る覚悟を決めた。

それもこれも日本のエレクトロニクス産業を支えてきた名門電機メーカーの命脈を保たせるためだろう。しかし、またも肝心の情報開示でつまずいた。

経営首脳のいざこざに始まり、その後の迷走を決定づけた会計不祥事の発覚、そして原発事業の巨額損失。東芝の経営陣が投資家の信用を取り戻すのは簡単ではない。14日昼すぎの東芝が投資家に再び見せてしまったのも、ただただ残念な姿である。

(武類雅典)

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