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アマゾンの引き立て役になりかねない楽天コボ

カギは「UX」の追求

編集委員 小柳建彦

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楽天の電子書籍サービス「kobo(コボ)」がスタートでつまずいた。閲読端末「kobo Touch(コボタッチ)」の初期設定が滞ったり、電子書店「koboイーブックストア(コボストア)」での和書の品ぞろえに批判が出たり、楽天や三木谷浩史社長の反応にさらに批判が広がったりと、悪循環に陥った。

だが、koboの実力が本当に問われるのは利用者が増えるこれからだ。実際に使ってみると、本質的なUX(ユーザー・エクスペリエンス=利用者体験)にこのサービスの最大の弱点がありそうだ。「打倒アマゾン」を全社的スローガンに掲げる楽天だが、日本向けkoboの開業がかえって電子書店としてのアマゾンの強みを引き立てることになりかねない。

コボストアで本を買おうとしてまず面食らうのは、一般書籍とコミックが混在し秩序もなく並んでいることだ。たとえば「小説・文学」ジャンルの本の一覧ページを開いてみる。すると1番上に「テルマエ・ロマエ」の第1巻、2番目に「ヘルタースケルター」と、人気コミックが表示される。サブジャンルの「文学論・文学評論」にはなぜかピーター・ドラッカーの解説本が上位に並ぶ。

書店ではジャンル別に棚や売り場が分かれており、興味にしたがって気になっていた本や知らなかった本を見つけられるのが当たり前なはず。いわゆる「ブラウジング」と呼ばれる消費者行動だ。現段階のコボストアはとてもブラウジングによる本探しに堪える作りになっていない。書籍の分類は、図書館学という1つの学問が成立するほど知見や創意工夫が問われるプロの仕事だ。日本語版コボストアはそんな分類とラベリングの重要性を無視して見切り発車したとしか思えない。

ネット上の書店をブラウジングして本を買おうという人はそもそも多数派ではないだろう。多くの人が目当ての書籍があって、それを検索で探して買いにくる。コボストアもそういう使われ方が多いだろう。ところが、コボストアでは検索の使い勝手がブラウジング以上にお粗末なものになっている。

たとえば人気作家の重松清の本を探すとする。コボストアの売れ行きランキングの最上部に「コーヒーをもう一杯」が載っているので、何冊か取り扱っているはずだ。検索窓に「重松」と入力すると検索結果が0(ゼロ)件になってしまう。「重松清」とフルネームを入力すると5件出てくる。一方、「赤川」と入力すれば今度は赤川次郎の本が検索結果に表れる。

今度は米国の人気作家ダン・ブラウンの本を探してみる。「Brown」と入力すると検索結果の3番手に彼の「The Lost Symbol」が登場する。それでは「Dan Brown」とフルネームを入力するとどうか。今度は4番手に初めて彼の作品が挙がるようになった。いったいどうなっているのだろう。検索結果の並び順の初期設定は「検索結果」。これがどんな順位付けなのか一般利用者には想像がつかない。つまり、いったいどういう仕組みで検索しているのか、利用者にわかりにくい。

 正直な感想を言おう。このサービスはまだ開発途上だ。ITの世界でいうとβ(ベータ)版よりかなり手前の段階にあるといわざるをえない。この状態で本番商用稼働させた楽天の勇気には驚くほかない。

米アマゾン・ドット・コムが1995年にインターネット上の書店としてサービスを開始したとき、まず人々をとらえたのがその使いやすさだった。もっと分解すると、ウェブサイトの各ページの設計、ブラウジングによる本のショッピングのしやすさ、検索による本のみつけやすさ、各書籍の各種情報の充実度、商品の価格と購入決済のしやすさなどなど、多くの要素で構成される使いやすさだ。ウェブ上の店に来店した瞬間から、本を買って届くまでの一連の体験全体、つまりUXが優れていた。同社が創業以来何年も債務超過を続けているあいだも株式市場が見捨てず一定の時価総額を維持させ続けたのは、投資家や投資銀行のアナリストが実際に使ってみて直感的にサービスの競争力の強さを感じていたからに違いない。

消費者の立場に立ったUXに対する徹底したこだわりが、同社が電子商取引(EC)サイトの世界最大手に君臨し続ける原動力となっている。ECだけでなく、クラウド上でITインフラを提供するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が、ウェブ上でサービスを提供する際の標準的なインフラの選択肢として世界に浸透したのも、料金を含むUXの競争力が原動力だ。

アップルが倒産寸前の状態から復活し、時価総額世界一まで上り詰めた最大の要因も総合的なUXの追求だった。iPod(アイポッド)という端末とiTunes(アイチューンズ)というパソコンソフト、そしてiTunes Store(アイチューンズ・ストア)というネット上の音楽店を組み合わせ、ネットで音楽を見つけ出して購入し、端末に入れて持ち歩いて楽しむという一連の体験の心地よさを総合的に追求してきた。その延長線上に現在のiPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)の好調がある。

コボを使ってみると、ついついアマゾンやアップルの考え抜かれたUXの水準の高さを思い起こしてしまう。取扱点数や端末の価格でアマゾンに対抗しようという楽天のチャレンジ精神は大いに買いたいところだが、「打倒」を叫ぶ前にもっともっとUXについて研さんを積まないと、アマゾンが今秋「キンドル」を日本でスタートさせた際、コボはかえって引き立て役になってしまうだろう。

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