気象データから分かる「秋田美人」が生まれる理由
気象予報士 伊藤みゆき
11月12日、札幌で「ヤマモミジ落葉」の発表がありました。各地の気象台では、カエデ・モミジの紅葉と落葉の観測や発表を行っていますが、今年の札幌のヤマモミジは紅葉の発表を待たずに落葉してしまいました。紅葉発表の定義は「標本木を全体として眺めた時に、その大部分が紅(黄)色に変わり、緑色の色がほとんど認められなくなった最初の日」とし、落葉日は「標本木の葉の約80%が落葉した最初の日」とされています。
札幌の気象台によると、今回、紅葉前に落葉してしまった原因は、秋になっても朝の冷え込みが弱かったので紅葉の大条件である「寒暖の差」が小さく、全体的に色づく前に落葉が始まってしまったのでは?とのことでした。
このように紅葉せずに落葉してしまったのは、札幌では1984年、1994年に次いで3度目のことで、今年は観測史上(1953年以降)最も遅い落葉でした。
紅葉・落葉だけでなく「初雪」もかなり遅れています。平年では11月13日は秋田で初雪が発表される頃ですが、今年は全国初の初雪が10月19日に稚内で観測されて以来、ぱったりと便りが途絶えてしまいました。札幌や旭川でようやく雪が降ったのは11月18日。札幌では1890年の11月20日が最も遅い初雪で、観測史上2番目に遅い記録となりました。。
これまで遅れ気味だった冬の便りを促すように、強い寒気が流れ込んできて、昨年よりも23日遅い11月18日、東京でも木枯らし1号が吹きました。「木枯らし1号」は近畿地方と東京で発表される冬の到来を知らせる風。東京の木枯らし1号は「10月半ばから11月末までの間に、冬型の気圧配置の下、風速8メートル以上の西北西~北の風が吹いた最初の日」と定義されています。近畿地方では、すでに10月29日に吹きました。
過去20年を遡って、東京の木枯らし1号と札幌の初雪の日を調べてみると、同日だったことが5回、1週間以内が7回。半分以上の確率で「東京で木枯らしが吹くと、札幌で雪が降る」といえます。つまり、木枯らしは「太平洋側が寒くて乾燥・日本海側は雪」という天気の分かれ目が来たことを告げているのです。
関東の冬は、太平洋側の典型「晴れて・乾燥・空っ風」の3点セットで、肌荒れに悩まされる季節です。一方「美人の産地」といわれる秋田は日本海側。秋田と東京の平年の天気を比較してみると、木枯らしの時期から様々な要素が対照的になることが明らかになりました。
秋田美人が「美人」な理由
まず、日照時間。5月から10月にかけての半年間は秋田の方が長く、11月から4月までの半年間は東京の方が長い。それぞれの地方が相手方を上回る日数はあまり変わりません。ところが、どれくらいの差があるかとみると、秋田の日照時間が東京のそれを上回るときの最大差が月間53時間(6月)なのに対し、東京が秋田を上回るのは12月~2月の3カ月間で毎月100時間以上になります。特に、1月は148時間と、ぬきんでて東京の方が日照時間が長いのです。
日照時間とは逆に11月以降の降水量は格段に秋田の方が多くなります。11月~1月は東京の2倍以上、特に12月は3倍以上です。
こうなると湿度が違うのも当然のこと。2012年1月の最小湿度(1日の中で最も低い湿度)は、平均すると秋田が50%程度で東京は30%ほどでした。厚生労働省がインフルエンザ予防で「適度な湿度を保つ」と挙げる湿度は50~60%。秋田は湿度の面では及第点といえるでしょう。一方、東京は平均して30%ですから、もっと低い日も多いのです。
12月~2月の冬期間の最小湿度の記録によると、秋田の歴代トップは2010年2月24日の16%でした。秋田では30%を下回ったら「記録的に乾燥している」といえる状態なのに対し、東京では16%ではまったく記録になりません。観測史上、10%以下が10回、13%になると数え切れないほど観測されているのです。しかも、東京はここ最近、空気の乾燥が進んでいて、最小湿度の上位10位を2000年以降の観測値が占める割合が8割となっています。秋田が4割程度であることを考えると、東京は秋田以上に冬の乾燥度合いが進んでいる傾向といえます。
冬の気温を比べると秋田の方が低いですが、寒さを決定づけるには風や湿度も関わってきます。暑い夏に湿度が下がると快適になるように、冬晴れで乾燥している東京は「北海道や東北よりも寒い」と感じる人も多いようです。また、同じ北風でも秋田は湿っていて東京は乾いています。東京の空っ風は体感温度を下げるだけでなく、吹けば吹くほど肌から水分を奪っていきます。
この状態が春まで続き、それが毎年繰り返されるとなると、東京で過ごす人の肌は毎冬ごとに過酷な条件を乗り越えていることになります。東京で木枯らしの便りが聞こえたら、「これからが美人への分かれ道」と加湿を心がけましょうね。
気象予報士。証券会社社員を経て、気象予報士に。日本テレビ衛星「NNN24」の初代気象キャスターに合格。現在はNHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」気象キャスター。 光文社の雑誌『STORY』などで連載を持つなど、幅広く活動中。
[nikkei WOMAN Online 2012年11月16日掲載]