「日の丸」インフラ輸出計画、誤算続き立ち往生
編集委員 松尾博文
高効率の石炭火力発電技術を官民一体で輸出する戦略がつまずいている。モデルと期待されるインドネシア・ジャワ島での大型発電所の建設・運営事業の着工が、少なくとも2年遅れることが確実になった。原因は建設予定地の買い取り難航。プロジェクトの苦戦は、優れた技術を国がかつぐだけでは進まないインフラ輸出の難しさを浮き彫りにしている。
土地所有者が売却に難色
対象となっているのは、Jパワーと伊藤忠商事が、インドネシア企業と組んで、ジャワ島中部に出力200万キロワットの石炭火力発電所を建設・運営する事業。総事業費は40億ドル(約4000億円)。電力は25年間、インドネシア国営電力会社に卸売りする。
特徴は「超々臨界圧」と呼ぶ高性能設備をインドネシアで初めて導入する点だ。燃料の石炭を細かく砕いて燃やし、タービンを回す蒸気を高温・高圧に高めることで発電効率は従来設備に比べて大きく向上する。石炭火力の弱点である二酸化炭素(CO2)の排出量も抑えられる。
中国やインド、米国の既存の石炭火力発電所の効率を日本並みに改善できれば、日本の排出量合計を上回るCO2の削減が可能だ。高効率石炭発電は温暖化対策の観点から、また中国に席巻されるインフラ市場で日本が巻き返す切り札として、政府が支援の重点に位置付けている。「中部ジャワを成功事例として、次につなげていく」(経済産業省)絵を描いてきた。
このシナリオにずれが生じている。建設予定地の土地購入が遅れ、着工に不可欠の国際協力銀行と民間銀行から受ける30億ドルの融資のめどが立たないのだ。約226万平方メートルの建設予定地のうち87%の取得を終えたが、残りの所有者が用地の売却に難色を示している。現地からの報道では、地元住民との小競り合いも起きている。
Jパワーや伊藤忠は地元向けの説明会を50回実施、雇用対策や地域振興などの活動に力を入れている。Jパワーの杉山弘泰執行役員は「事業への理解を得られるよう最大限努力している」と説明。伊藤忠の油屋真一電力プロジェクト部長も「州政府や県など地元自治体と協力して活動を進めている」と語る。
もはや引き返せない状況に
経産省も政府間で働き掛け、安倍晋三首相はインドネシア訪問の際の演説で、中部ジャワの発電事業の重要性について訴えた。ユドヨノ大統領との首脳会談でも取り上げたとの情報もある。インドネシア政府は大統領令を改正し、10月に到来したプロジェクトの融資契約の期限を1年間延ばすことを認めた。
用地問題の決着へ猶予はできた。ただ、安倍首相まで担ぎ出したことで、経産省関係者は「プロジェクトは引き返すことができない点を過ぎた」と断言する。もはややめられないのだ。「地元の理解を得る努力を続けてもらうしかない。どうすればできるのか、柔軟な次善策を考えてもらう必要がある」(同)
着工の遅れは日増しに事業コストを押し上げる。企業連合は2011年にインドネシア国営電力との間で売電価格を定めた契約を交わしている。これが投資回収の前提になる。用地買い取りの遅れや費用増大によって、総事業費が膨らめば事業採算は悪化する。
最悪のシナリオは事態の収拾が長引き、完工後に発電を始めても採算割れに陥ることだ。国営電力に売電価格の見直しを求めるわけにもいかない。「経済性の議論は当然ある」(伊藤忠の油屋部長)。"日の丸プロジェクト"は時間との競争の中で難しい判断を迫られている。
[日経産業新聞2013年11月28日付]
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