「キラキラ女子」集結の謎、藤田晋社長が戦略語る
サイバー流、女性活用の研究(2)
全社で推進する「スマホシフト」の中核となり、業務で男子社員を凌駕(りょうが)しているサイバーエージェントの若手女子社員(連載初回、記事下の関連記事を参照)。仕事にかまけるのではなく、おしゃれなど女性らしさも大切にし、恋愛や結婚、出産など私生活を犠牲にすることもない。全方位でキラキラと輝いていたい「キラキラ女子」が、サイバーエージェントに集結している。
ネット上ではいつしか、サイバーエージェントの女子社員のブログ写真や、大学のサークルの飲み会のような楽しそうな内定式の写真などが出回り、「顔採用」「ちゃらい」「リア充(リアルが充実している)すぎる」などと指弾されるようになった。
もちろん、当の会社や社長は、こんな風評に取り合わない。ただ、そういわれてしまうほど、サイバーエージェントの女性が「目立つ」ことは事実だ。
社長の藤田晋(39)に、食い下がった。「何か戦略がなければ、こんなに女性が目立たない」。すると藤田は「今まで何回も取材を受けたけれど、こんなことを話すのは初めてですよ……」といいながら、口を開いていった。
「正直、意図していた部分もある」
「採用に容姿は関係ない。それは断言します。ただ、(創業した)最初の最初は、わりと女性らしさがあって、かつ仕事を頑張りそうな人を採用しようと気遣っていた。正直、意図していた部分もあるにはある。根底には、創業前から、活躍する女性のベンチマーク的な存在がなかなか増えない、ロールモデル(お手本となる成功モデル)が社会になかなか増えない、という問題意識がありました」
「昔、(大学卒業後に働いた会社インテリジェンスの)営業の現場で、偉くなることを女の子が嫌がってるなと肌で感じていた。先輩の女子がプライベートを犠牲にして仕事を頑張って、偉くなるにつれて疲弊していく。それは憧れの対象にはならない。ロールモデルにはなり得ない。そうなっちゃいけないと強く感じていた」
「ロールモデルはすてきでなければいけない。だから、98年に起業した時、そういう(すてきな)人がマジョリティーである組織を作ろうと意識して採用していたというのはあります。でも最初の最初ですよ。僕はすぐに採用の現場から外れて最終面接だけになりましたし、採用の要素に女性らしさを残したわけでもない。ただ、創業当時の意識が何となく方向性をつけたというか、延長線上に今の雰囲気があるのかなとは思ってますけどね」
「女性らしくあれ」「女性らしさを失うな」
藤田が「女性らしさ」を気遣ったのは、創業当時の採用だけではない。社内の女性に、時折「女性らしくあれ」「女性らしさを失うな」といっていたというのだ。
「活躍して上がってきた女性には、昔からプライベートもしっかりやれと。女性らしくあるべきだ、憧れられるようになれ。女性らしさを失うなと。わりとそういっていた。仕事を頑張って、プライベートを犠牲にして、本当に幸せなんですか、みたいな感じになっちゃうと、下のやつ全員がしらけるんですね。そうならないように、けっこう気を配ったというのが正直なところ」
「社会で活躍する女性というのは、なんかちょっとこわくなっていくんですよね。僕が社会に出た97年はもう男女の差別はないし、僕らもそういう気持ちはなかったんですけど、でもやっぱり放っておくとこわくなっていく。そうすると、下の活力を引き出そうとしても、『仕事を頑張るとああなるんだ』と思われちゃう。それじゃあ意味がない」
「(会社が成長するにつれ)心が折れそうな女の子が出てくると、泣かしてでもついてこれるやつをとらなきゃという方向性になりがち。それも、たまに止めていました。そういう会社もあるけど、泣かしても起き上がる女性をずらっとそろえたら、ロールモデルがそうなっちゃう。こわくなっちゃう」
「みんな『月9』のドラマみたいになりたいって思ってる」
あえて藤田に「仕事や職場に女性らしさは関係ないという意見もある」とぶつけると、こういった。「それは若い人の気持ちをわかってない。やっぱりキラキラ働きたいですよね。みんな『月9』のドラマを見ているわけだし。あんなふうになりたいって漠然と思ってますよ」
有名女優がテレビドラマで演じる、キラキラと輝きながら活躍するキャリアウーマン。「かっこいい」「憧れる」。そんな思いが仕事への活力につながるという藤田の持論。「アメーバピグ」をはじめ、10以上のサービスを立ち上げた女子プロデューサーの筆頭格、山崎ひとみ(28歳、07年入社)は、藤田から「女性らしくあれ」といわれた一人だ。
「女性として憧れの対象にならないと、下の女性もついてこない。けっこう女性ってロールモデルを求めがちというか、対象があると上りやすいんですね。わりと普通の感覚をもった普通の女子大生だった私でも、全方位型で仕事をしっかりと頑張り、私生活も充実させ、憧れられるようになれば、下も親近感がわくと思うし、それで『ああなりたい』と思ってもらえれば、より会社の競争力も上がっていくと思う。そこは私の一つの役割なのかなと思っています」
本人には、藤田の意図する「ロールモデル」の自任がすでにあるようだ。こうしたロールモデルが下の女性をリードし、自然と雰囲気が形成されていく。藤田は続ける。
「話してみると、みんないい人すぎて困るくらい」
「マジョリティーがキラキラしていると、そうじゃなかった周りの女子もキラキラし始めてくるんですよね。自浄作用みたいに働いて、周りまでなんとなくそう見えてくるというのはある。中にいることでポジティブに影響し合って、なんとなく全体がそうなっていく」
ただし、広報や人事によると、サイバーエージェントの採用基準で最も重要視されるのは「素直であるかどうか」。見た目は「関係ない」。独りよがりではなく「チームワークを大切にできるかどうか」も重要視されるという。ある男子社員はこう証言する。
「(社員は)男女ともに見た目は派手だったり、一見ちゃらそうだったりするイメージもなくはない。僕は学生時代に遊んでいた方ではないし、入社して周りの雰囲気と違うなとも思った。でも、話してみると、みんないい人すぎて困るくらいで、イメージと違った。びっくりした」
藤田には働く女性の理想とするロールモデルがあった。創業当初は、その方向性を意識してつけた。そのロールモデルが後輩を呼び込み、あるいは影響を与えていった。かくしてサイバーエージェントは、女性らしく輝きながら、業務でも活躍するキラキラ女子の集積地となっていった。これが、冒頭の謎解きだ。
わずか2カ月の産休期間で職場復帰
連載初回で紹介したように、彼女たちがサイバーエージェントという組織への業績に多大なる貢献をしているのは明らか。私生活が充実しているからこそ、仕事にも打ち込み、結果を出してくれる。藤田は意図した戦略を持ち、それは奏功したのだ。
藤田の戦略は、女子社員の出産・育児にまで及ぶ。藤田はいう。
「女性は出産しても、ほとんど辞めないですね。出産をして、みんながやめたり、復帰してもムリしたり犠牲を払っていたりしたら、それはみんなが萎えるだけ。出産した女性を見ている下の世代が夢を抱けるようなロールモデルが生まれるよう、そこはケアしてきました」
ロールモデルの代表格が今年2月、子会社社長に抜てきされた石田裕子(31歳、04年入社)だ。石田はインターネット広告事業本部で広告営業として辣腕をふるった後の10年2月に妊娠を知った。直後、本部の局長から統括への昇格話をもらった石田は、一度は妊娠を理由に固辞するも、役員が「それでも気にせずやってほしい」と慰留。統括となり、10年11月に出産した。
驚くべきことに、石田はわずか2カ月という育児休暇期間の後、自らの意思で復帰する。その理由をこう語る。「妊娠したとわかっても、変わらずにチャンスをくれたことがうれしかった。報いたかったんです。何とか結果を出したいと思った」
「休みたい人は長く休むべき」「復帰しても不利のない環境が大切」
ただし、会社や石田が早期の職場復帰をよしとしているわけではない。「みんな私みたいに、とはまったく思っていないんですね。『2カ月』が独り歩きして後輩にヘンなプレッシャーがかかってしまう懸念は認識していた。価値観や家族のサポートは人それぞれ。その人の環境や事情に合わせて、長く休みたい人は休むべきだと思います」
復帰後、石田は18時には退社し、保育園に迎えに行き、帰宅して寝かしつけた後、3~4時間、自宅で仕事をする生活スタイルを続けている。そのスタイルで、職種転換を果たし、この2月には子会社社長に就いた。
「ママとなった社員はどんどん増えているけれど、働きにくいと感じている社員は少ないのでは。出産を経てママになって育児をしていても、仕事の評価やチャンスが変わらないことが大切なこと。サイバーエージェントには復帰しても不利のない環境があるということを示していきたい」
出産や育児もちゃんとしたい、という女子社員に理解を示すことで、逆に女子社員は出産後も会社に定着し、活躍してくれるという好循環。さらには、社内恋愛や結婚への理解も藤田は示し、女子社員にはプラスに働いている。
社内結婚の効用、「居心地がいい」
「別に奨励しているわけではないですが社内結婚は多い。基本、祝福するようにはしています。社内結婚が増えたのは、03~04年に、終身雇用という言葉を出して、長く働く人を推奨する方針にしたんですよ。その時くらいから、みんなわりと腰を落ち着けて仕事をし、社内で付き合ってる人は結婚をし始めたという傾向が見られた。社内で結婚してくれれば組織にとってはプラスですよね。ムードも明るくなって、男女ともに定着してくれるようにはなる」
「逆もしかりで『社内で遊ばれた』みたいなことがあると、けっこう痛手を負うというか、会社がヒドイねとなりかねない。実際にはないですが、そういうのがあれば厳しくあたろうと思っていたし、ちょっと冗談めかして、付き合ったら結婚しろといっていた時期もある。それが口コミでまわって、付き合ってる人たちの背中を押す形になったのかもしれないですね」
じつは石田も社内結婚。出会った夫は同じ広告営業の2つ上の先輩だった。石田はこう話す。「同じ部署で恋愛が発覚すると女性が異動するケースが多いと思うんですけど、私の場合は、主人が別の部門へ異動しましたね(笑)。夫は仕事を理解してくれる。すごく居心地がいい」
女子中高生向けサービスを束ねるteens事業部でチーフプロデューサーとして5つのサービス開発に携わる永山瑛子(27歳、08年入社)も社内結婚。付き合って3カ月。永山が入社3年目、夫が入社2年目で結婚した。「楽ですね。仕事の話を家でしても、互いに嫌な顔しないですし、帰宅が遅い理由もわかるし。モチベーションにもつながってると思います」
「男性がモラルの高い発言を自然発生的にし始める」
全方位で満足する人生を送るキラキラ女子であることへの理解は、女子社員のモチベーションに大きく寄与している。半面、男性社員のモチベーションへの効用はないのか。そう藤田に聞くと、「それはあまりに短絡的で、長持ちしないですよ」と否定しつつ、「モラル向上につながるというのはある」と話した。
「インテリジェンスで働いていた時代に、仕事ができるし、きれいな女性が多いと、立派な会社になっていくという傾向を見つけたんです。過去の個人の経験から。男ばかりだとキャバクラとか風俗の話とかを、周りを気にせずし始める。そうすると全体のモラルが下がっていく」
「でも、優秀できれいな女性の前だと、もっと会社をよくしようよみたいな、男性がモラルの高い発言を自然発生的にし始めるんですね。べつに付き合いたいとか、そんな感情じゃなくて、純粋によく見られたいという心理だと思いますけど、モラルが上がる。だから同じ人間でも、キャバクラとか、そういうこといわなくなりますね。不正とかもしないですよ」
「女性が多い方が、気持ちが上向きに」
男子社員の意見はどうか。東京大学大学院量子工学を経て08年、エンジニアとして新卒入社した対馬英志(30歳)は「技術的な話が通じないことがストレスになることも」と前置いたうえで、「もてたいから仕事を頑張る、楽しいから定着につながる、というのはあると思う」と話した。
当のキラキラ女子側も、プラスに捉えているようだ。「女子がキラキラしていると、場が華やぐ。男性は毎日、会社に行く気にもなるんじゃないかなと。自分自身も、女性が多いフロアの方が、華やいで、気持ちが上向きだなという気がするんで」(永山)
キラキラ女子の存在が男子社員のモチベーションにつながっているか否かは、あくまで副次的な話であり、キラキラしていることが彼女らのモチベーション向上につながっているかどうかが本稿の本質。その点において、サイバーエージェントでは明らかにうまくいっているといえる。
ただ、世間からはいろいろといわれている。そのことをどう思っているのか。藤田に聞いた。
「よく顔採用だとか男子への福利厚生だとかいわれるんですけれど、それは反論したいというか、そんなわけはない。そういうことをいう人は、彼女たちがどれだけ仕事ができるかわかっていない。でも、女性らしく輝いていて、仕事もできる人がそろっていたら嫉妬もされるというか、いろいろといわれる。それはマイナス面として把握しています。でもプラスマイナスで、プラスであればいいかなと」
なぜキラキラ女子はサイバーエージェントを選ぶのか
「職場に男女もない。女性らしさなど必要ない」「女性が髪を振り乱して働いて何が悪い」……。そんな意見や価値観を持つ人もいるだろう。
ただ、価値観は人それぞれで、世代によっても大きく異なる。1つだけいえるのは、サイバーエージェントという組織において、女性が女性らしくあることは是であり、女性は皆、その環境を楽しんでいるということだ。少なくとも東京・渋谷を根城とし、スマホで月間133億ものページビューを稼ぐサイバーエージェントという会社はそうであり、藤田の考えは会社の原動力にもつながっている。
そして、新たな業種の新たな世代の価値観として、活躍したい多くの女子学生から支持を受けてきたのも事実。彼女らは、大手企業の内定を蹴って、あるいは1本に絞り、サイバーエージェントを選んだ。なぜキラキラ女子たちはサイバーエージェントを目指すのか。次回は6人のインタビューを通じてわかったバックグラウンドや考え方から、その理由を解き明かす。(次回は27日に掲載予定)
(電子報道部 井上理)