企業のトップが替われば、どれほど巨大な企業でも、組織体質、財務体質、主要取引先、商品、そして顧客までもが変わるものです。
どんな組織でも「トップ次第」ということです。
今回は企業の「ブランド価値」について、その例を書きましょう・・・
皆さんご存知のダイムラー・クライスラー。
傘下には船舶用エンジンなどを作る重工業の「MTU」、
家電などの「AEG」などがありますが、
自動車部門「メルセデス・ベンツ」は有名ですよね。
(もちろん、北米のクライスラーもあります。)
今から100年以上前、ゴッドリープ・ダイムラーさんとカール・ベンツさんが作った会社です。(日本ではどういうわけか、「メルセデス」ではなく「ベンツ」と呼ばれますが、自動車好きは「ベンツ」なんて言いませんよね。世界各国「メルセデス」と言います。)
現在のトップは、利害関係者からの信頼が高いらしいディーター・ツェッチェに(つい最近)替わりましたが、しばらくの間、ユルゲン・シュレンプがトップに君臨していました。
聞くところによるとトラック畑出身のシュレンプは、「メルセデスを愛する気持ち」は、就任前からさっぱりなく「あいつがトップになったらメルセデスはダメになる」と関係者から囁かれていたそうです。
事実、この10年ほどのメルセデスの商品は、「?」の付くようなものばかり。
(以下自動車マニア向け・・・)
「SLクラス」はまともですが、これがまともでなかったら、メルセデスは結構やばかったと思います。
「Sクラス」は、やたらデカくなったと思ったら、今度はEクラスと区別が付かないほど小さくなったり、商業的に成功しているレクサスをパクった所が多くなったり・・・つまりは「迷走」していました。
「マイバッハ」に至っては(後部座席に何度か乗ったことありますが)、明らかにSクラスを延ばしただけのこの車の一体どこに、数千万円の価値があるのか僕にはさっぱりわかりませんでした。
そもそもマイバッハのデザインは日本で行われた車ですし・・・だったら「LS430」(=セルシオ)をストレッチした方がよほどいい車になったでしょう。
「BMW」のV12をミッドシップマウントした先代の「McLarenF1」は、素晴らしい車でした。
発売当初1億円程度の価格でしたが、現在でも状態の良いのは2億円程度の価格が付いています。
商業的にも大成功した「Ferrari 360 Modena」は、「McLarenF1」をパクッたデザイン(=設計という意味)なのは有名です。
ゴードン・マーレイは素晴らしい自動車デザイナーだ!
(以上、マニア向けの御話しは終わり・・・車の話しになるとつい・・・)
メルセデス・ベンツという「ブランド」には(少なくとも現時点ではかろうじて)価値があります。
この100年、同社のあらゆる利害関係者によって積み上げられた歴史の上に成り立つ確固たる「ブランド」は、そう簡単に崩れやしない。
・・・本当でしょうか?
既に北米マーケットでは、人気も販売数も「トヨタ・レクサス」がNo.1になり、メルセデスのブランド人気はドンドン落ちています。
・・・どうして???
(僕なりの)結論から書けば、
「過去に創り上げられたブランドを利用してキャッシュを稼ごうとする企業と、新たなブランドを築きながら同時にキャッシュを稼ごうとする企業の違い」
でしょう。
つまり、
メルセデスは、既存のブランド価値を食いつぶし、
レクサスは、歴史が浅いこともあり、
ブランドを創造しながらキャッシュを「生み出している」
という違いです。
商品にも、企業価値にもそれは如実に現れています。
「メルセデスは(現状のままでは)過去企業、
トヨタは(現状を維持できれば)未来企業」
ということになります。
トップが馬鹿だと、こういうことになっちゃうわけです。
(ディーター・ツェッチェにそのトップが替わったメルセデスはどうなるでしょうか?)
では、なぜトヨタは強いのでしょうか?
表題と矛盾すると誤解されるかもしれませんが、この企業の強さは、「ある一人の天才のリーダーシップに依存した経営ではない」という点です。
「張さんが凄い! 奥田さんが凄い!」と評価される方がいらっしゃいます。
確かに彼らは優れた経営手腕を持っていると思います。
しかし、彼らを経営トップに据えたのは、トヨタの利害関係者。つまり、「組織全体の人の力」=「組織の文化」によって選ばれたわけです。
組織全体として、「企業を強くするリーダーを選別する力」を持っているのだと思います。
まさに「企業は人なり」です。
と書いたものの、そんなことは割りと周知の事実なので、僕なりの考察を・・・
(ブランドと環境の相関関係についてです)
20世紀の自動車産業は、
ドイツが自動車を生み出し、
フランスが自動車を大衆化し、
アメリカがビジネスとして成功させた世紀でした。
日本は彼らを追いかけるだけでした。
自動車を生み出したドイツには、(アドルフ・ヒトラーの政策による)速度無制限のアウトバーンがあり、ドイツ車は必然にして「高速走行安定性」、「強固なボディー」、「強大な出力」など、ハードウェアとしての技術および使用環境によるソフトウェア、そして自動車文化を高めてゆきました。
これらは20世紀の間、「車に求める最も基本的な条件」を満たし、よってドイツ車は世界各国で高く評価されていました。
フォルクス・ワーゲン、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMWなど、数々の有名自動車企業と数々の名車を生み出しました。
しかし現在、エネルギー問題、環境問題など様々な自動車に求められる「新たな条件」が増え、企業もそれに対応せざるを得なくなりました。
エネルギーと環境のどちらにも関連する自動車技術として、「燃費と出力の両立」、「クリーンな排気ガス」が上げられますが、言わずもがな「日本のお家芸」です。
また、自動車の「使用環境」を世界的に見れば、
北欧のように乾燥しているが寒い、ところもありますし、
中東のように乾燥しているが暑い、ところもありますし、
日本をはじめとする東南アジアのように湿度が高く暑い、ところもありますし、
オーストラリアのように「必ずしも舗装路ばかりではない」ところもありますし・・・
つまり世界をマーケットとして考えた場合、その使用環境は様々です。
で、日本の自然環境はというと、
冬は寒くて乾燥し、夏はじめじめ暑いし、北海道など一部では舗装路が無い場合もありますし、極寒の地域も、常夏の地域もありますし、一方で高速道路は(税金の無駄遣いも手伝って)結構しっかり出来ています。
つまり、この国は世界のあらゆる自然環境を持ち合わせていると言うわけです。
その上、優秀で勤勉な労働者と、彼らに信頼された堅実な経営を行う経営者が揃っているわけです。
21世紀の世界経済、環境問題などを鑑みれば、日本の自動車産業が世界を制覇するのは割りと簡単に予測できることです。
「電気自動車」についても、世界を一歩リードしていることは周知の事実です。
また、ドイツのお家芸だった「ボディー剛性の高さ」や「高速走行安定性」などは、既にトヨタが追いついていますし、スポーツカーに求められる運動性能についても、ホンダはフェラーリを抜いています。
(余談ですが、先日J-WAVEの収録で・・・
高城:「今後注目すべき産業は?」
板倉:「環境関連でしょうね。環境と言っても幅広く、たとえばエコカーを作っているメーカーなどもそれに当てはまります。」
というやり取りが、編集によって「削除」されてしまいました。
理由は、この番組のスポンサーが(エコカーを作っていない)「日産」だったからです(笑))
環境は人を育て、人は環境を創ります。
残念ながら、シリコンバレーの環境を真似できないこの国では、シリコンバレーに追いつくことは(おそらく)出来ないでしょう。
また、自ら生み出したのでは無く「輸入」した資本市場が真っ当に機能するには、まだまだ時間がかかるでしょう。
しかし、自動車産業をはじめとする「ものづくり」は、日本のお家芸です。
不得意を克服することも大切ですが、それは得意分野を維持して初めて意味のあることです。
我々自身の「日本製」というブランドを維持することを忘れてはなりません。
さて、日本国のトップは、そのあたりをどのように考えているのでしょうか?
トップが替われば、全体がわかる。
トップを選ぶのは、我々自身です。
「Invest JAPAN」なんて寝ぼけたことを外資に訴える前に国民の金融資産が、経済価値を生み出さない「橋や道路やコンサートホールや役に立たない役人の人件費」に向かっているのを経済価値を生み出す企業へ向かわせるべきだと思いますし、そのためには、「インチキ投資教育」ではなく、「経済の基本を教える」ことが不可欠なのです。
「Made in JAPAN」というブランド価値を失わないために。
2006年4月26日 板倉雄一郎