彼は音楽が大変に好きで小遣いの殆どをCDに費やしてしまい、昼休みはいつもナイススティックを食べていた。
「お前んち、CD何枚持ってんの?」とか「あー今月CD買いすぎて金ねーわー」とか休み時間の度にアピールする彼を何故か嫌いになれなくて、
たまに席が近くなるとちょっと話す、くらいの関係がだらだらと続いていた。
彼のことを「音楽博士」「家がツタヤ」と呼ぶと今お気に入りのCD(たいていライブ版だ)を3枚貸してくれたので、
部屋で聞くCDにも困らなかった。後で感想を聞かれるのが困ったけど。
3枚のCDの中に日本語じゃないのが混じっているのに気がついた。赤ん坊が海中を悠然と泳ぐジャケット。ニルヴァーナだ。
「もうJ-POPなんてダサくて聞いてらんねー。どいつもこいつもおんなじ歌詞、おんなじコード進行ばっかりだ。これからはコレ(洋楽)だわ」
彼は誇らしげに言った。後日感想を求められたがあまり真面目に聞いてなかったので、「カッコイイんじゃない」としか言えなかった。
彼は喜んだ。
月日が経つにつれ、彼の貸してくれるCDは徐々に、難解で、TVで見かけないものが増えていった。
「今はリンキン・パークが流行ってるみたいだけど、あれがイイなんて言える一般人のセンスが逆にわからんね」
また彼は誇らしげに言った。その時彼が貸してくれたのは、確かビョークだったと思う。「難しくて、正直よくわからんかった」という僕の感想を聞いて、逆に彼は喜んだ。「だよな。お前にはまだはえーわ」
大学に入り少し疎遠になってからも、たまに彼はCDを貸してくれた。決まって3枚ずつだった。
ビョークはレディオ・ヘッドに変わり、そこから「ジャコ・パストリアスの肖像」に変わった。ジャズに踏み込んだ後はジョン・コルトレーンの「ラブ・シュプリーム」に移り、そこから先のことはよく覚えていないが、二人で飲んだ夜に「コルトレーンなんて誰でも聞ける」と繰り返していたのは覚えている。
「なあ、これが今一番アツいやつ」彼は黄色のiPod miniに繋がったイヤホンを差し出した。ノイズだけが流れている。ザザー。ジジジー。
「ちょっとついていけない」「だよな。お前にはまだはえーわ」
彼はイヤホンを耳に戻し、ボリュームを上げた。ここからでもわかるくらいの音漏れ。彼は少し早足で、下宿に帰っていった。
もしかすると彼は、音楽を聴くことで(音楽を聴くポーズをすることで)何かと戦っていたのかもしれない。そう思った。
社会人になり、彼とはもう会わなくなった。
今頃彼は、何を聞いているんだろう。いっそ演歌にハマったりしないだろうか。登録してからひとつも投稿がない彼のFacebookアカウントにメッセージを送る。
「久しぶり。今どんなの聴いてるの」
ミスチル嫌い君、これ君のこと言われてるで
彼氏がまさにこういうタイプだ。もう10年近い付き合いになるけど、普通に流行りものも買ってくるし突然ノイズテクノみたいなの聞いてたり古いジャズひっくり返したりしてる うん...
こそばゆいのでネタばらしすると、彼=増田でございます。最後のノイズはオウテカ。 きっとあなたの彼氏は心から音楽を楽しんでいて、音楽マニアとして幸せに(あるいは真っ当に)...
そんな気はしてた 若い頃に「うんちくんだまって!今君が聞かせてくれてる曲に集中したいの!」とツッコミ入れてくれる人に出会ってたらよかったね。 私は記憶力がゼロなので、彼氏...
http://anond.hatelabo.jp/20141222231639 洋楽→ビョーク→レディオヘッド→ジャズの流れが自分そのものだった。 ただそこから演奏もするようになって、ノイズ系にはあまり深く踏み込めてない...
やあ俺 本文では触れなかったけれど、演奏するようになったあたりまで俺そっくりだよ さんざんスタジオに入ってたまにはライブして、 落ち着いてからは「人に聞かせる曲を作るのは...
あ、まんま、俺だ。。。 つか、俺じゃない? 久しぶり、転職して東証上場企業に勤めて、子供二人いて、時々2000人ぐらい人呼んでイベントしてる。 自分の買った美術作品を県立美術館...
正に清々しいまでの高二病 こういう趣味が優越目的になっちゃうオタクみたいなのって意外と多いね
これさ、みんな馬鹿にしているけど マイナーな音楽を愛好してる身としては ミーハーでもいいからそのミュージシャンを聞いていてくれる人のほうが よっぽどありがたいわ。 高2病だ...