新幹線降りたら、一面の雪景色。しばらくポカンとしたまま立ち尽くしてた。独り身で周りから見たらそれなりかもしれないけど、貯金も少ないし将来が怖すぎてたまらん。
出張ついでに来たこの観光地も、仕事のこと忘れるための口実みたいなもんだ。でもせっかくだから、せめて腹くらいは満たそうと商店街に向かう。
「食うくらいしか楽しみねぇって、泣けてくるよな」
奥の方にある暖簾に「雪国の味」って書いてあったのを見つけて、ふらっと入ってみた。
「いらっしゃいませー!」
店に入った瞬間、元気な声が響いてびっくり。周りを見ると家族連れやカップルだらけ。そんな中、独りで飯食おうとしてる俺が場違いすぎて軽くテンパる。
「……まあいいや、俺は俺のペースで楽しむだけだし」
気を取り直してメニューを見る。で、気づいたらこんな注文になってた。
店主に「かなり頼まれますね」って笑われて、ちょっと照れくさくなって「せっかくなんで、たくさん食べたくて」ってごまかした。
次々に料理が運ばれてきて、テーブルがすぐに埋まる。「やばいな、これ……頼みすぎたかも」そう思ったけど、目の前の天ぷらを一口食べた瞬間、そんなことはどうでもよくなった。
「衣サクサク! これだよ、俺が求めてたのは!」
鴨南そばの出汁をすする。「染みるわ~……。こういうの、普段じゃ味わえねぇ」
でも、山盛りのおにぎりと追加天ぷらを見たとき、急に現実が襲ってきた。
「うわ……そばとおにぎりで炭水化物がダブっちゃったよ……やらかしたなぁ」
腹はもうパンパン。でも、残したくないから意地で食べる。「この最後のわらび餅を食い切ったら、俺の勝ちだ……!」
食べ終わった瞬間、変な達成感がこみ上げてきた。
「頼みすぎて失敗したけどさ、これも俺の生きがいだよな。食ってる間だけは、生きてる気がするし」
店を出たら、冷たい空気がじんわり体に染みてきた。雪の街並みを歩きながら、ぽつりと呟く。
「弱者男性の俺でも、こうやって腹満たしてるうちはまだ頑張れるんだな」
食いすぎて苦しいけど、なんか心がちょっと軽くなった気がする。雪道の先に続く明かりを見ながら、増田は静かに歩き出した。