遠藤周作氏 2020年に発見された遠藤周作の未発表原稿のほか、短編6作を収録した文庫『影に対して―母をめぐる物語―』が刊行した。没後25年を経て見つかった表題作はどのような作品なのか? 文庫刊行に際して、息子・龍之介氏が遠藤周作との思い出と、未発表原稿への想いを綴った書評を紹介する。 遠藤龍之介・評「封印された原稿」 父の未発表原稿が発見された――遠藤周作文学館から連絡を受けた時には驚きました。死後二十五年も経って……。 主人公は小説家になる夢をあきらめた男。「なんでもいいから、自分しかできないと思うことを見つけて頂戴」。母の言葉を胸に小説家を志したのに、ついぞ母の望む生き方はできずにいる。この主人公は明らかに父であり、「母」は父の母親である遠藤郁です。 父はこれまで何度も小説に母親を登場させてきましたが、「影に対して」には母親への思いがより濃厚に描かれていました。家族描写など極めて私小説