彼は待ち合わせの喫茶店で僕と顔を合わせるなり「マジで死にたくなった」と言ってきた。きっつー。半年ぶりに会った彼は、幸だけでなく頭髪までも薄くなったせいで、実年齢よりもえらく老けたように思えた。彼は五十才の元同僚で、昨秋、イケメン要素、才能、若さ、定職、貯金すべてが無いという絶望的な状況を棚に上げ「なぜ俺は結婚できないのか?」という禅問答を僕に投げかけてきた問題児。生活保護を受けようと真剣に考えている珍獣のもとにやってくる女性がいるとは思えなかった。なにより《俺は結婚出来る。出来ないのは社会が悪いだけだから》などと都合のいい可能性を信じている彼のお花畑な頭脳が驚異であった。 僕は、絶望を直視せず、あたかも希望があるような思い込みをしているかぎり、彼が絶望的な状況を脱出するのは無理だと判断した。ありもしない希望はより深い絶望の母になりうる。その彼が「死にたい」といっている。僕は目の前で練炭テロ