自宅で亡くなったお年寄りの遺体を、家族が放置する事件が全国で相次いでいる。四月には東京都板橋区の女性(59)が、父親(98)の遺体を放置したとして死体遺棄容疑で逮捕された。なぜ、知人や役所に父親の死を伝えられなかったのか。理由を知ろうと、不起訴処分で釈放された女性の家を訪ねた。(木原育子、写真も) 築六十年ほどの木造二階建て。和室には小さなテレビ、使い込まれたダイヤル式の黒電話。父親の服はハンガーにかかったままだった。「まだ父がここにいる気がして」。女性は今にも涙があふれそうだった。 警視庁は当初、父親の年金をだまし取ろうとした詐欺の疑いを視野に捜査した。しかし女性は「そんなつもりはなかった」と否定。自宅へ通ううちに、胸の内を話してくれるようになった。「父親のいない日常はなかった。幸せな時間が急に切れてしまって…」