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“HARDFOUGHT / HEADS” 1983, 1990 Greg Bear ISBN:4152102268 鏖戦【おうせん】/凍月【いてづき】 作者:グレッグ ベア早川書房Amazon グレッグ・ベアの中編『鏖戦』と『凍月』を収載したもの。 特に『鏖戦 HARDFOUGHT』は、自分にとってSFのなかでのオールタイム・ベスト。 最初に読んだのは『80年代SF傑作選』のなかでだったけど、今回の解説にも載っている初出誌コメントがそこで提示されていた。 作者紹介の前に警告を。あなたが読もうとしている作品は、これまで本誌に載ったどんな作品とも違います。難解です──就寝前にさっと読める代物ではありません。けれどもこれは、とても読み甲斐のある作品です。読むのにかけた時間と労力を、あなたが後悔することはないでしょう。 ここまで唯一無比を謳う解説コメントもなかなかない。この紹介文のインパクトがすご
“What Is History?” 1961 E. H. Carr ISBN:4004130018 歴史とは何か (岩波新書) 作者:E・H・カー岩波書店Amazon 歴史哲学の古典。最近新訳が出ているけど、読んだのは旧訳。 歴史は確かめられた共通の基礎的事実からなるものではなく、歴史的事実は歴史家の解釈に決定されるとともに、歴史家も歴史的事実から解釈をつくりあげるという相互的関係にある──というのが中心的主張。 Ⅰ 歴史家と事実 この書の主題:「歴史とは何か」 以前は「歴史は確かめられた事実の集成から成る」「すべての歴史家にとって共通な基礎的事実というものがある」という常識的歴史観があった。しかし、現在の歴史哲学はそのようには考えない。 歴史的事実というものは、歴史家の解釈から独立には存在しない。 かつては誰かが知っていたであろう無数の事実全体のうちから生き残って、これが歴史上の事実で
“This Is How You Lose the Time War” 2019 Amal El-Mohtar, Max Gladstone ISBN:4153350532 こうしてあなたたちは時間戦争に負ける (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:アマル・エル=モータル,マックス・グラッドストン早川書房Amazon はるかな未来、人類の子孫はふたつの勢力に分かれ、互いの消滅を目指して長い戦争を続けている。 ふたつの勢力〈エージェンシー〉と〈ガーデン〉はどちらも現在の人類から相当に進化した者たちだが、決定的に異なる技術・社会・思考様式を持っている。簡単に言えば〈エージェンシー〉はメカニカル、〈ガーデン〉はオーガニックといったところ。『翠星のガルガンティア』での「コンチネンタル・ユニオン」と「イボルバー」の対立構図ぐらいの相容れなさがある。 しかし彼らには共通点もある。それはどちらも時間跳
“シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 EVANGELION:3.0+1.0 THRICE UPON A TIME” 総監督 : 庵野秀明 2021 「これまでのすべてのカオスにケリをつけます」 劇中でミサトが宣するこの言葉こそが本作品の意義と作り手の覚悟を示している。 この映画の価値はそれ以上でもそれ以下でもない。どう決着がついているかは問題ではなく、決着がついた(ことになっている)という事実が重要だ。言うなれば遂行的発話。つまり「決着をつける」というのは真偽を語る文ではなく、発話によって行為を実現する文である。 『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 』という作品もこの遂行として要約できる。 [以下ネタバレ含む] 鑑賞後の率直な感想を表すに当たり、どうしても「俗」「凡庸」という語が最初に浮かび上がる。 歴代最長となる155分という時間の前半は、濃密な世俗描写に費やされる。ポストアポカリプスでの
話し手の意味の心理性と公共性: コミュニケーションの哲学へ 作者:那由他, 三木発売日: 2019/12/16メディア: 単行本 コミュニケーションにおける「意味」とは何か、という論考。 全体の構成が非常にわかりやすく、明晰な筆致。 ただ、扱うテーマがテーマなだけに、出てくる具体例がことごとく難しい……。解けたように見えた問題にあえて反論を出して精査することの繰り返しなので、具体例が難しくなるのは仕方ないのだが、なかなか理解できずもどかしい。とはいえ論旨は明瞭なので、全体についていくことには支障ない。 「意図」という、言ってみれば底なし沼のような概念を用いず「意味」を説明している。共同体での規範、多層な共同体、多様な発話要素など、動的で広がりのある結論。社会学的な視角という感じを強く受ける。ここでは話し手と聞き手という対で追究されているけれど、対話のなかで話し手と聞き手がどう入れ替わるのか
“劇場版SHIROBAKO” 監督 : 水島努 脚本:横手美智子 2020 テレビシリーズから4年後の話。 SHIROBAKOの映画版はムサニが映画をつくる話になるんだろうな、と思ってたけど、その通りの内容。 だけど、物語開始時点の状況がこんなに厳しいというのは予想外だった。 元請をやれてない会社になってることよりも、前作の登場人物がことごとく離散状態みたいになってるところの方がショックで。アニメ業界ってそういう流動性があるものなのかもしれないけれども……。 とにかくテレビシリーズ最初のときよりもずっと厳しい状況。それは会議室での放送作品視聴人数の露骨な差に表れている。こうした対比は他にもあって、あらすじ説明のあとの本編開始時、また社用車カーレースになると思いきやエンジンが停まってしまうという象徴的な描写とか。あるいは、ラジオから流れる曲の「仕方ない」とか「みんないなくなった」とかの歌詞も
“キャロル&チューズデイ” 全面的に音楽をテーマにしたアニメ。 近未来の火星を舞台にしているけれど、ほとんど現実のニューヨークのような雰囲気。 劇中曲をかなり力を入れてつくっているのが大きな特徴。 とくに主役ふたりのユニットは、通常シーンを担う声優たちとは別に、演奏・歌唱シーンでは実際にオーディションで選ばれたミュージシャンふたりが英語で歌っていたりして、本格的。 主役以外にも劇中世界のミュージシャンが多数登場し、彼らが演じるどの曲も手を抜かず、物語の展開上も説得力があるものとしてつくられている。 また、作中で演奏されるシーンの細かな描写も非常に良い。鍵盤を弾く指の動き、ギターの弦を擦る音。さらには、楽器ケースを開け閉めする効果音まで。音楽に関わる空気感というものの再現に力が注がれているのがよくわかる。 また、ダイバーシティをすごく意識している。民族的/文化的/性的/経済的/政治的etcに
“Bit Players and Other Stories” 2019 Greg Egan ISBN:4150122237 ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF) 作者: グレッグイーガン出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/03/31メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 短編集。全6作品収載。 おおまかに分けると、近未来3編(“七色覚” “不気味の谷” “ビット・プレイヤー”)、遠未来2編(“鰐乗り” “孤児惑星”)、並行世界の過去&現在が1編(“失われた大陸”)、といったところ。 “七色覚 Seventh Sight”, 2014 “不気味の谷 Uncanny Valley”, 2017 “ビット・プレイヤー Bit Players”, 2014 “失われた大陸 Lost Continent”, 2008 “鰐乗り Riding the Crocodile
全体的に描写の質が高いアニメだったと思う。 自分としては、元となっている特撮版グリッドマンのことはほとんど——というかまったく知らない状態で、ウルトラマンは知ってるけどグリッドマンなんてものがあったんだ…?という感覚だったので、アニメ化されたことへの思い入れのようなものはぜんぜんなかったのだが。でも結果的に「特撮のアニメ化」というプロジェクトとして成功したと思うし、単にそれだけじゃなく、最終回ではこの「特撮」「アニメ」という意味付けを物語構造に絡めて完成に至っていて、そこは特に銘記に値する。 アニメと実写 SSSS.GRIDMAN (C) 2018 「グリッドマン」制作委員会 最終回のポイントは以下二点。 グリッドマンが真の姿を得た描写:今までの3D-CGとしてのグリッドマンから、2D作画のグリッドマンへ アカネが覚醒して仮想世界から現実へ戻る:2Dアニメから実写へ 1. 特撮のアニメ化と
“Making the Social World: The Structure of Human Civilization” 2010 John R. Searle ISBN:4326154551 社会的世界の制作: 人間文明の構造 作者: ジョン・R.サール,John R. Searle,三谷武司出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2018/10/04メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 概要 言語哲学・分析哲学を長く牽引してきたサールが、「社会」を対象として書いた論考。1995年の『社会的現実の構成』に続くもので、社会の制度的事実について考察している。この一連の探求をサールは「社会的存在論」と呼んでいる。 制度的事実というのは、「○○はアメリカ大統領である」「私が手に持っている紙片は20ドル紙幣である」というような、人間の主観的態度によって生み出された事実のこと。
“Seveneves” 2015 Neal Stephenson 原書は全一冊だけど、邦訳は第1部/第2部/第3部のそれぞれに分冊して全三巻での刊行。合計で1,000ページ以上に達する。 第2部と第3部の変化は巨大。第1部と第2部の間ではそれほど変化はなく、漸進的に移り変わっていく感じ。第2部の後半から急加速的に転落していき、ひとつの極限点に達してそのまま第3部への激変につながっている。 あらすじをひとことで言えば、人類規模でのサバイバル。 あるとき何らかの宇宙的事象によって月が破壊されてしまうところから物語が始まる。物理計算の結果、月は衝突と細分化を繰り返し、やがて無数の隕石となって地球に降り注ぐことが判明。この隕石雨で地球上の生物は絶滅すると予測されたため、既設の宇宙ステーションを中核として軌道上に集住施設を構築し、限られた人類だけでも生き延びさせよう、という全人類合同のプロジェクトが
南極を目指す女の子4人の物語。 全13話、万遍なく良質。 キマリ/報瀬/日向/結月の4人はそれぞれ個性的でしっかりしたキャラクター造形。4人のリズミカルな掛け合い、役割語に依存しない等身大の台詞が作品の魅力の大半を占めている。 この点、声優の演技力による貢献も非常に大きい。特に報瀬。信念と筋を持ちつつも、人見知りで、抜けてる部分も随所にある、という起伏の激しいキャラをとても良く演じている。 主人公に位置付けられているのはキマリだけど、「南極に行きたい」という強い願望と動機を持つ報瀬がストーリーの全体を牽引し、軸となっている。 居場所が不安定で帰属先がはっきりしない4人が共通の行き先を目指して旅する、というのが基本的な構図。 各話どれもよくできていて、すべて見終わって残るのは爽やかで前向きな気持ち。 人物絵が少し独特で、ハイライト描写がとても目立つのが特徴。放映前の止め絵だとすごくはっきり認
“Press Start To Play” 2015 Daniel H. Wilson, John Joseph Adams ISBN:B079NBKCX3 スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選 (創元SF文庫) 作者: ケン・リュウ,桜坂洋,アンディ・ウィアー,デヴィッド・バー・カートリー,ホリー・ブラック,チャールズ・ユウ,チャーリー・ジェーン・アンダース,ダニエル・H・ウィルソン,ミッキー・ニールソン,ショーナン・マグワイア,ヒュー・ハウイー,コリイ・ドクトロウ,アーネスト・クライン出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/03/12メディア: Kindle版この商品を含むブログ (3件) を見る コンピュータ・ゲームに関わる作品を集めた短編集。原書26作品のうち12作品を邦訳。 題材としてポテンシャルを感じさせつつも全体としてはどこか消化不良だったというのが読後
アニメ版が終わったので、感想。 全12話で、原作の4巻最後までの内容。 全体的に、音楽・効果音が良かった。 第4話『寺院』の冒頭、電線のあたり。 第10話『波長』でのラジオの音楽が夕景ととても合っていた。 第5話『雨音』も。原作は絵で音をうまく表現していた。アニメでは、ミュージック・コンクレート手法で曲として成り立たせながらそのままEDにつなげる演出がすばらしかった。 ケッテンクラートの3Dもアニメ表現上、有効だったと思う。 3Dオブジェクトとしてつくりやすいものだったというのもあるだろうけど、作中世界を立体として動きまわる様子が、確かな物体として感じさせる効果を高めていた。前輪とキャタピラー、方向転換といったそれぞれの細かな動きから伝わる存在感。 原作者によるEDアニメーションも、曲と相俟って印象に残った。 ところで、アニメ版を見てあらためて思ったのは、屋内と屋外が入り交じったようなこの
あまり期待せずに見始めたらけっこうおもしろかった。 でも最後まで見て全体的に振り返ってみると、ものすごく高い完成度でまとまることができたとまでは言えないかも。 一方で、いろいろポテンシャルを秘めた作品だったと思う。たぶんもっと深く語れることはあるはず。 テーマ上のキーワードは、「嘘」と「壁」。 嘘については1話(case13)で集中的に語られていた。 壁については世界設定としてロンドンの東西、王国と共和国を分かつものとして。最終話にて主人公の閉ざされた心を指す語として。 とくに嘘というキーワードがポイント。 この語は容易に「フィクション」という概念へつながる。 一義的には作品内での主人公の性質。スパイであるために必要とされる嘘。王女と貧者の入れ替えということに伴われる嘘(マーク・トウェインの古典的作品 “The Prince and the Pauper”)。 そして、壁に分断されるロンド
現代アートの哲学 (哲学教科書シリーズ) 作者: 西村清和出版社/メーカー: 産業図書発売日: 1995/10/01メディア: 単行本購入: 9人 クリック: 97回この商品を含むブログ (86件) を見る 一冊を通してひとつの論考を展開しているというより、現代美学の主要なテーマを個別に記していくような構成。「アート」を広範に採り上げ、写真、文学、広告とさまざまな対象を美学・芸術哲学の視点で分析する。 基本的な構図は、モダン(ハイアートを維持するイロニーとアヴァンギャルド:前衛)からポストモダン(消費社会のシミュレーショニズム、キッチュとポップ:大衆)への移行。特に「寄生」という語がキータームとなっている。 出版は1995年。広告に大きな関心が寄せられているところなどは時代が表れているけれど、アートワールド、虚構文、歴史記述や趣味といったように、現在も活発に論じられているような概念が散りば
アニメーターの社会学―職業規範と労働問題 作者: 松永伸太朗出版社/メーカー: 三重大学出版会発売日: 2017/08/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 最近いろいろと注目されることも多い「アニメーターの労働問題」を社会学の方法論で分析した本。 これまでの言説は、アニメーターが低賃金・長時間労働に甘んじていることを管理や搾取の構造で説明するものが多かった。クリエーターたちに対する「やりがいの搾取」という語などもひところ目立ったタームとして記憶に新しい。 しかし筆者によれば、フィールドワークで調べてみると実際にはアニメーターたち自身にクリエーター意識は少なく、むしろそうした見られ方に否定的な態度を示すことが多いという。 従来のやりがい搾取的言説はアニメーターたちの外部から持ち込まれた説明であり、アニメーターたち自身が実際に行為・理解していることを反映していない。ア
ASIN:4883034410:detail 主に「イメージ」を対象とした物語論の本。 ことばとイメージにどのような関係があるかについて原理的な問題を整理した上で、イメージを扱うメディアの中から絵画・映画・挿絵を挙げて、ナラトロジーの観点から見たそれぞれの「語り」の特徴を論じる。 ナラトロジーがどうしても文学・小説に偏ってしまうところ、とくに絵画で物語を語る技法について豊富な図版とともにわかりやすく説明されていて、貴重。 ことばを用いた小説と違って、映画や絵画は時間継起の因果連関に基づく構造を持っていない。 しかし映画や絵画にナラトロジーの概念が適用できないわけではない。語りが情報をどのように統御しているかという点に着目するナラトロジーの考え方は映画や絵画にも通じる、というのがこの本で示されている。 当然、漫画やアニメへもこうした考え方は拡張できるはず。この本ではそこまでは展開されていない
“Arrival” Director : Denis Villeneuve US, 2016 テッド・チャンの短編『あなたの人生の物語』の映画化作品。 良い映画になっていると思う。 原作は短いページ数に説明と思弁性をコンパクトに集約した小説。映画版はそうした要素を少し切り詰め、代わりに宇宙船描写や危機展開などの劇的要素を増すことで 116分の映画作品へまとめ上げている。 映像化の賜物として、何よりヘプタポッドの文字が具体的表現で示されたのが良かった。文字の形状や記述過程は言うまでもなく、人類側がソフトウェアのサポートで文字を表示する一連のディテール描写も含めて、非常に視覚的な説得力があった。 珠玉の短編と呼ぶにふさわしいあの小説に思い入れを持つ者のひとりとしては、やはり原作との比較で見ずにいられない。 差異が多々ある中、特にテーマに影響しそうな重要な違いは、映画版では言語のパフォーマティヴ
人形の国(1) (シリウスKC) 作者: 弐瓶勉出版社/メーカー: 講談社発売日: 2017/05/09メディア: コミックこの商品を含むブログ (3件) を見る 3月から連載を始めている弐瓶勉の新作第1巻。 巨大な人工天体が舞台。不壊の殻層を絶対的境界として、高度技術を擁した制御中枢と、かろうじて生存する地表面の人類という二極へ分化した世界。地上を制する〈帝国〉は殻層内への侵入を目論み、古代技術で超人的能力を獲得した〈人形〉たちを何体もつくり出していたが、未だ目的を果たせずにいるという状況。 そんな折、均衡を打破し得る力を持った遺物が出現し、〈帝国〉の執拗な追跡で惨劇が引き起こされる。巻き込まれた主人公は〈人形〉へと転換し、〈帝国〉への復讐を決意するに至る…… という物語。 本編前の外伝が読み切り企画で描かれている。http://estar.jp/.pc/work/comic/24133
社会にとって趣味とは何か:文化社会学の方法規準 (河出ブックス 103) 作者: 北田暁大,解体研出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2017/03/25メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (9件) を見る 概要 90年代以降に進展したサブカルチャー論・オタク論のひとつの達成である『サブカルチャー神話解体』(宮台真司・大塚明子・石原英樹, 1993)を批判的に継承する試み。 宮台の人格類型論は、「あえて」「アイロニー」の戦略に即し自らを超越的位置に据えて人々を類型に区分する特権的な観察。 類型化は現在でもある程度有効だが、本書ではそのような分類自体の意義を疑い、類型が可能となる条件の模索へ観点を移行。計量的方法により宮台的類型論のオルタナティブとなる新しい文化社会学を打ち立てることが目的とされる。 そのために大きく参照されるのが、「テイストの社会学」を展開したブル
シャッフル航法 (NOVAコレクション) 作者: 円城塔出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2015/08/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見る 短編集。10作品収載。 『内在天文学』 『イグノラムス・イグノラビムス』 『シャッフル航法』 『Φ』 『つじつま』 『犀が通る』 『Beaver Weaver』 『(Atlas)3』 『リスを実装する』 『Printable』 文体と思弁性が高度に融合しているところが円城塔の特長。 文体:コミカル、ユーモア。 思弁性:物理学・数学・言語学・哲学。 また、この本の作品では特に記述の実験性も目立つ。文章生成プログラムを使用して書かれた作品など、書き方の時点で挑戦的な試みが為されているものがある。 以下、いくつか個別にメモ。 イグノラムス・イグノラビムス 情報処理のパターンとして浮かぶ自己 超光速・超遠距離での精神同期 自
テクスト分析入門?小説を分析的に読むための実践ガイド 作者: 松本和也出版社/メーカー: ひつじ書房発売日: 2016/10/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る ナラトロジーを単に用語体系の解説にとどまらず具体的な小説読解への適用で実践してみせるところがこの本の最大の特徴。 概念を説明する過程で小説の一部を引用する程度ではなく、短編小説をまるごと読み解いてくれる。しかも各小説が巻末に全文掲載されているところも親切。 ……こういう本を待ってたところがある。 ナラトロジーとは何か。 第1章で概括されている通り、小説を【何が書かれているか […内容・主題] 】ではなく、【いかに書かれているか […形式・方法] 】という視点で捉えようとするアプローチ。客観的な指標によってテクストを分析し論理的な読み取りをおこなうことでテクストの特徴を記述する。 それぞれのパートでは、まず
ウェブ連載中。単行本は現在4巻まで。 設定 直径1,000m、垂直に地下20,000m以上へ続く巨大な縦穴。 地勢と生態系の差異によって7層に大別され、最深部は今なお未知。 逆行を厭う力場が存在することが最大の特徴。光をも捕らえるため上方からの観測ができず、直接内部に進むことでしか調査できないが、力場は深度に応じて甚大な効果を及ぼし、帰路の生体にかかる負荷は深層に降りるほど即死的となる。 内部では魔法のような力を持つ「遺物」が見つかり数多くの者が探索に誘引される一方、第5層以遠へ往還できる者はごくわずか。 物語 ほのぼのした絵柄で緩く無害な冒険物のように始まるが、深層への降下に比例して苛烈な描写・残酷な物語へ変貌する。 昨今のアニメで第3話目がフックとしてつくられる傾向にも似て、この漫画も1巻・2巻は本性を隠した序盤に過ぎず第3巻こそが真のスタート。読者としてはここで決定的に心を抉られ、作
ナラトロジー入門―プロップからジュネットまでの物語論 (水声文庫) 作者: 橋本陽介出版社/メーカー: 水声社発売日: 2014/07/01メディア: 単行本この商品を含むブログを見る ナラトロジー(物語論)をそこに至るまでの系譜から簡明に紹介している本。 結局のところ行き着く先はジュネットによって整理された体系であり、ナラトロジーにおいてジュネットがいかに大きな存在であるかが再確認できる。 ただし本書には著者の主要関心である「比較詩学」につながるような記述がいくつか設けられており、その点によって単なるナラトロジー概説に留まらない意義を持っている。 序 一般に文学というものに接する際には、物語内容の読み取り・解釈をおこなうことが基本であるように捉えられている。 しかしこうしたものとは別のアプローチがある;「詩学」 詩学は詩の研究ではなく、アリストテレスの「詩学」に由来。 悲劇を見て感情移入
人類が消え去った世界をふたりの女の子ユーリとチトが旅する話。ウェブ連載中で、いま3巻まで単行本が出ている。 一見、どうにも下手な絵に見えるんだけど、いつのまにか目に馴染んで逆に癖になってくる。実はこれ、むしろ相当うまい絵だと思う。(後述) ――結局 補給して移動しての繰り返しか… この旅路が私たちの家ってわけだね 内容としては、この台詞そのままの漫画。 全体の雰囲気は『BLAME!』と『百万畳ラビリンス』を重ね合わせたみたいな感じ。無人の巨大都市とそれを維持する自律機械といった設定なんかは『BLAME!』を思い起こさせるし、ふたりの女の子がボケとツッコミ的に会話しながら旅していくところは『百万畳ラビリンス』に似ている。 作品紹介を最初に読んだときは、主人公ふたりを除いて人類が滅びてしまっている無人の世界をただ彷徨していくだけの漫画なのかと思ってたんだけど、読み進めてみたらそんなにさみしい感
エピローグ 作者: 円城塔出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2015/09/17メディア: 単行本この商品を含むブログ (11件) を見る おもしろかった。 円城塔って、SFのひとつの先鋭地点だと思う。 あまりこういうことから書き始めない方がいいとわかりつつ、でも同時に、どこかでこれに関して自分の意見を明確にしておきたいと思ってることがある。 未だに続く伊藤計劃のトリビュート・フェア的な状況について。 これ、今もときどき話題になって是非が議論されてるのを目にするんだけど。(というかちょうど今現在まさにそんな状況のようで。) 俺自身に関して言えば、伊藤計劃をめぐる今の風潮にははっきりと辟易している。 伊藤計劃の意義は肯定してるしどちらかといえば好きな作家。でもなんでいつまでも日本SFが伊藤計劃に引きずられなければならないんだ、っていう思いがあって。それには、伊藤計劃という名で日本SFを語
良かった。 5話でちょっと引き込まれたあと、8話で完全に。 それから13話までずっと。 なお、原作は未読。以下はアニメ版について。 表現について 動画と、音。 これはもう、京アニという、現在の日本で(ということは当然のことながら世界でも)五指に入るであろうアニメスタジオの実力があますところなく発揮されているという他ない。 この作品の場合、動画だけでなく音楽も表現の重要要素であって、しかもそれはただ楽器演奏シーンでの人の動きと楽器・音の描写にとどまらず、音の上手/下手の区別を表現することにも及んでいる。練習中での失敗混じりの音から、徐々にうまくなっていく音。あるいは、指揮者の求めるレベルに達していなくて拒絶されてしまう音。それがたとえ音楽の素養がない視聴者であっても、はっきり伝わる。 その究極は11話。再オーディションでのふたりの演奏の明確な「優劣」。 内容について 軸としては、だいたい以下
日常会話がリアルな漫画、って話題になってたのをちょっと前に見て興味持ったので、読んでみた。 (→漫画「ハックス」の口語表現のリアルさについて http://togetter.com/li/821443) 全部で4巻。ほどよい長さでうまくまとまってると思う。 高校のアニメ同好会の話。部活紹介のとき流れたアニメに主人公が衝撃を受けて、ほとんど活動休止状態の部に入ってからまわりを巻き込みながら引っ張っていって、文化祭で一本のアニメ作品を発表する……ってところまでの漫画。 1. 日常会話の表現について この漫画の台詞を断片的にそれだけ切り出して見てみると、たしかにすごくリアリティあるっていうのはわかる。 「いや どうせ自主制作っていうのは あの―― 悪い言いかたですけど でもね こう 文句言う人がいたらね じゃあ じ 自分と 同じ枚数作画 してから言えって 言ってね あの」 (『ハックス!』 4巻
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