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論理的思考とは何か (岩波新書) 作者:渡邉 雅子 岩波書店 Amazon 海外留学を経験した日本人からよく聞かれる述懐として、「向こうに行って初めて、自分がいかに文章を書けないかを知った」というものがあるように思う。英語圏では当たり前に訓練されているロジカルなライティングスキルが、日本では教えられておらず、留学先で苦労して身につけた……といった語りである。こうしたエピソードを聞くと、日本の教育が未熟なのだろうか、あるいは日本語という言語に限界があるのだろうかと、少し悲しい気持ちになったりもする。 本書もまた、そうした述懐から始まる。著者がアメリカ留学時に提出したエッセイは、はじめは全く評価されなかった。しかし次第に「アメリカ式エッセイ」の書き方を身につけたという。しかしこの著者の場合はそこで終わらず、アメリカ式の書き方こそが「論理的思考」と呼ばれるものの「世界標準」になっている状況に研究
まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書 作者:阿部 幸大 光文社 Amazon 『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を読んだ。読む前と後で行動様式が変わるような本に出会えることは多くないが、これはそうした一冊になりそうだ。本書は、主に人文系を対象とした論文執筆の指南書として書かれている。アカデミック・ライティングの本は数多く出されてきたであろうなかで、タイトルで「まったく新しい」と謳い、袖の紹介文には「類書の追随をまったく許さない」とまで自らハードルを上げている。驚くことに、この看板に偽りはない。 ここでは内容の説明はしない。ここでは、本書を読んでの「受け身」として、私がどうなったかについてメモしておこうと思う。 1)論文とは何かが初めて分かった。少なくとも、人文学を中心とする諸分野の、かつアメリカを中心に成立しているアカデミック・ライティングの規範において「論文
本日、早稲田大学で行われた科学基礎論学会のシンポジウム「AIは科学をどう変えるのか?」を聴講した。 オーガナイザーは大塚淳氏、提題者は橋本幸士氏、高橋恒一氏、呉羽真氏の3名。AIによる科学のパイオニア、あるいはAI科学を哲学から論じてきた研究者として、おそらく日本でAI科学を最も深く考えてきたこの4名*1が一堂に会するイベントであった。 3名からの30~50分の提題と、それに続く大塚氏を司会としたパネルディスカッションからなる全体で3時間超。盛りだくさんで、頭の整理が追い付かない。断片的にでも、メモにしておこうと思う。 勘違いや記憶の補完が混じっている可能性がある、私的なメモであることをお断りします。このメモだけでシンポジウムの内容をなるべく議論されないよう、お願いいたします(本ブログが不要な誤解を招いている事象が見られたら削除するかもしれません)。 3名の講演 橋本幸士氏は、まず人工知能
年度の変わり目。皆様変化の季節を迎えていることと思いますが、私(丸山)も一区切りのタイミングとなりました。今月末をもって、現職の科学技術振興機構(JST)を退職し、4月からは個人事業主となります。すでに口頭で説明済みの方も多くいらっしゃいますが、簡単にこれまでの活動と、今後の活動の予定について書きたいと思います。 ※本記事は、主に丸山と親交いただいている方に向けた報告用です。 現職(JST-CRDS)でやったこと まず、現職について改めて触れておくと、過去3年と少しの間、科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)で働きました。JSTは文科省系の資金配分機関(funding agency)の一つであり、CRDSはそのなかの「シンクタンク」の位置づけの部門です。科学技術政策(業界関係者の間では「科学技術・イノベーション政策」と称される)に関する調査を行い、JSTだけでなく、文
エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか 旬報社 Amazon 本書は、日本のエッセンシャルワーカー、つまり「社会に不可欠な仕事をしている人たち」に焦点を当て、その処遇が悪化してきた実態とその背景を、10を超える業種のケーススタディをもとに論じた一冊。労働社会学などの研究に基づく内容ではあるが、一般向けに分かりやすく書かれている。書名に興味を引かれた人なら、誰でも通して読めると思う。 10名強の研究者・実務者が分担執筆しているが、導入と結論部分、ドイツの事例報告など本書の軸となる部分を、編著者である、ドイツ経済史や労働政策を専門とする田中洋子教授が担当している。14年前、ブログ筆者は、田中先生が筑波大学にて主催するゼミを学部外から履修していた。そのゼミでもまさにエッセンシャルワーカー(当時はその言葉は使っていなかったが)の労働環境について扱っていたので、当時の
励起 上――仁科芳雄と日本の現代物理学 作者:伊藤憲二 みすず書房 Amazon 励起 下――仁科芳雄と日本の現代物理学 作者:伊藤憲二 みすず書房 Amazon 日本の物理学者、仁科芳雄(1890~1951年)の伝記である。 上下巻、2段組ハードカバーで合計1000ページ*1に迫る大作であり、すぐに手は出なかった。きっと「書店でたまに背表紙を見かけては尊敬の念を抱く本」になるんだろうな…と予想していたなか、Twitter/Xでの三宅陽一郎さんの投稿が目に入ってきた。 伊藤憲二先生 @kenjiitojp の『励起』、まずは上巻を拝読しています。面白くてしょうがないです。綿密な調査に裏打ちされた徹底的な調査で、量子力学がゆっくりと日本に着地する瞬間をまるでスローモーションのように見ることができます。圧巻の科学史です。https://t.co/1L8TSdAgne — 三宅陽一郎Miyake
世界は時間でできている──ベルクソン時間哲学入門 作者:平井 靖史 青土社 Amazon 本書は、19~20世紀に活躍したフランスの哲学者アンリ・ベルクソンの時間哲学の全貌を、長年ベルクソン哲学の勢力的な研究を続け、日本だけでなく世界的な研究コミュニティづくりやムーブメントの中心で活躍してきた著者が、現代的な問題設定に沿った発展的展望をも含め、独自の見取り図とともにまとめた入門書である。 ベルクソンが扱ったテーマは広い。主著が多数あって、たとえるならば「単独峰」ではなく「連山」をなしているイメージだろうか。著者はこれまで、その一つ一つを丹念に踏破しながら、共著書や学術誌にて多くの論考を発表してきた。そして、初めての単著となる本書『世界は時間でできている』にて、いよいよそれらパーツを組み合わせ、ベルクソン山脈の全景を描いてみせる。 本書は、いろいろな読まれ方をすると思うが、大きくは、 ベルク
映画『In Silico』(2020年、映画サイト)を見た。一般公開はされていないため、権利者と契約を交わして「バーチャル上映会」を実施する形となった。知り合いに紹介したりソーシャルメディア等で募るなどして、数十人の方に視聴いただいた(2022年3月11~12日に実施)。 その後2022年9月にストリーミング配信が始まり、いつでも見られるようになりました! 22歳の映画監督による「10年プロジェクト」 『In Silico』は、全脳のシミュレーションを目指す科学プロジェクトを追ったドキュメンタリー映画。当時22歳だった映画監督Noah Hutton氏が、2010年から10年かけて取材を続け、映画に仕上げた作品である。2021年には、科学系ノンフィクション作品を対象とした映画賞も受賞している*1。 若きHutton氏をこの10年がかりのプロジェクトに駆り立てたのは、2008年のTEDトークだ
学術出版の来た道 (岩波科学ライブラリー 307) 作者:有田 正規 岩波書店 Amazon 何気なく手に取ったこの本、非常に面白く、ためになる内容だった。タイトルに「学術出版」とあるが、「学術書」というよりは「学術誌」(いわゆる「ジャーナル」)が主題だ。 私の予備知識は以下のようなところだった。 研究者は、論文を書くことで成果を発表し、そのことで業績を認められる。 論文は、エルゼビア、シュプリンガーなど一握りの出版社が刊行する学術誌に掲載される。 近年はインターネット上でアクセスできるようになっているが、論文数の急増、雑誌の購読料の高騰など、様々な構造的問題が指摘されている。 …ここまでは、自分も何となく知っていた。 しかし、ではそうした学術界と出版界の関係がどのように構築されてきたのか。なぜ、大手出版からたびたび研究者から非難を浴びながらも、そのビジネスを続けられているのか*1。学術書
計算する生命 作者:森田 真生 発売日: 2021/04/15 メディア: 単行本 『数学する身体』*1から5年、森田真生さんの新刊『計算する生命』。著者の書くものに触発され続けてきた一人として、固唾を呑んで発行を待っていた。 「すがすがしさ」と、難しさ 期待にたがわぬ一冊だった。前著にも増して、数学の歴史の記述が深い。たとえば、第2章におけるリーマン、第3章ではフレーゲを取り上げ、数学者や論理学者といったラベルに収まらないリーマン像・フレーゲ像を描き出している。彼らがいかに、「自然を把握」する新たな方法を編み出そうという企図や、人間が駆使する「概念」そのものの出自を明らかにしようといった「大きな哲学的構想」(p.87)を抱いていたか。現代を生きる私たちが、いかにこうした先人から――特定の「定理」といった数学的成果にとどまらない――思考の「足場」を受け継いでいるか。著者は原典や研究書を読み
記憶と人文学: 忘却から身体・場所・もの語り、そして再構築へ 作者:三村尚央 小鳥遊書房 Amazon 実家にいたころ、私の母は、毎日欠かさず一行日記をつけていた。それが全部手元にあるので、「何年の何月何日は〇〇していたよ」などと瞬時に調べてみせるのだった。そんなマメさが当時は少々不気味だったが、私もいつからか、日々の記録をつけるようになった(毎日とはいかないけれども)。かれこれノート20~30冊になる。 なぜ記録をつけるのか。あくまで私の場合だが、それは自分の「記憶」が頼りなく、そして、忘れてしまうことに感じるある種の「切なさ」のせいだと思う。別に何の変哲もない日々だし、ことさら鮮明に覚えていたいわけでもないし、正確に思い出せる必要性を感じているわけでもない。しかし今日という時間の流れが「無かったのと同じ」になってしまうかもしれないという、喪失感に耐えられないのだろう。日記を遡って読むこ
数学に魅せられて、科学を見失う――物理学と「美しさ」の罠 作者:ザビーネ・ホッセンフェルダー 発売日: 2021/04/09 メディア: Kindle版 ”Lost in Math"の待望の翻訳。原書の読書メモを再掲します。Sabine Hossenfelder氏は、物理学者にして科学ライター。中の人にしかできない批判的な科学コミュニケーションを繰り広げる、特異な人物です。 現代の素粒子物理学が陥ってしまっているかもしれない集団思考的な落とし穴に果敢に挑んだ本書は、物理学を志す人だけでなく、広く「科学とは」を今後語るうえで外せない一冊だと思います。 なお、本書を読んで浮かび上がる疑問に「なぜ数学は科学の役に立つのか(もしくは立ってきたのか)?」があります。この謎についての整理を試みたYouTube動画を貼っておきます。 *** Lost in Math: How Beauty Leads
The Science of Science 作者:Wang, Dashun,Barabási, Albert-László 発売日: 2021/03/25 メディア: ハードカバー ネットワーク科学の第一人者として知られるラズロ・バラバシと、組織論を研究するDashun Wangによる共著書。タイトルのScience of Science(科学の科学)とは、科学的生産についてデータをもとに定量的に分析する新しい学際分野だという。 科学者の「生産性」は何が決めるのか? 「インパクト」のある科学研究はどんな要因で生まれるのか? 高インパクトな研究を生みやすいのは、どんな形のコラボレーションか? Science of scienceの研究者たちが答えようとするのはこうした問いだ。 この分野が依拠するのは、21世紀に入って研究者たちが手にし始めた、既刊論文についてのビッグデータ。何百万、何千万と
科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点 (ブルーバックス) 作者:佐倉 統 発売日: 2020/12/17 メディア: 新書 2020年はとくに「科学とはなにか?」を考えたくなる一年だった。 感染症対策で専門家会議や分科会が組織され、連日テレビには様々な科学者が出演して意見を述べていた。日本学術会議の問題では、政府への提言を行う学者組織に国費を投じる意義、期待される役割などが話題になった。 一連の出来事から見えてきたのは、 私たちが、いかに科学者に頼っているか ということ、しかし同時に、 いかに私たちが、科学者にどう頼ればいいのかをわかっていないか ということではないだろうか。 日本は現在、多くの国家予算を科学に投じている。私たちは、科学者たちにどんな働きを期待しているのだろう。社会として何を負託しているのだろう。 今、日本の社会にとって「科学」とは何なのか? 2020年12月
本日、2020年11月30日をもって、8年8カ月勤務した理工系出版社を退職した。明日からは出版を離れ、違う業界で働くことになる。 本とは何か、出版・編集とはどんな仕事なのか、自分なりに模索し続けてきた日々だった。気持ちがまだ編集者であるうちに、いまの考えを書いておこうと思う。 できたこと、できなかったこと 本を「書きたい人」「読みたい人」はいなくならない 本には「作品」としての価値がある 「書かなくてもいい」ものだからこそ、本に力が宿る 本は「編集者がつくる」のではない 著者と編集者の「同床異夢」が生む奇跡 おわりに 「出版業界ってどうなの?」「本もこれから大変だろうね」。出版社に内定が決まって以来、何度となく投げかけられてきた言葉だ。自分としても、「本の役割」や「出版社・編集者の存在意義」について、入社以前から自問自答してきた*1。 いまの時代、本は要るのか? 出版社は要るのか? 編集者
統計学を哲学する 作者:大塚 淳 発売日: 2020/10/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) 発売後すぐに入手し、夢中になって読んだ『統計学を哲学する』。とても大事な本だと感じ、Twitterで次のような(押しつけがましい)投稿もした。 大げさに聞こえるかもしれないことを言います。大塚淳『統計学を哲学する』は、自然科学・情報科学に従事する日本語圏のすべての学生や研究者が、まる一週間手元の勉強や研究を止めてでも読む価値のある本だと思います。https://t.co/DHQ1SwnuKb — R. Maruyama (@rmaruy) 2020年10月28日 ところがその後、書店で『統計学を哲学する』を眺めたという知り合いから、次のようなことを言われた。 「哲学者が統計学を語る意味がよくわかりません。」 「数ページ読んでみたけど、哲学用語が頭に入ってこず、やめてしまいました。」 これに
ずっと、『TENET』のことを考えている。 私だけではないようだ。日本での公開から3週間ほど経つが、『TENET』についての記事・ブログが書かれ続けている。「難解」と言われるプロットを解説するもの、科学的視点から面白さや矛盾を指摘するもの、ノーランの過去作を引き合いに出した作品論など。これほどみんなが語りたくなる映画が、近年あっただろうか。 『TENET』を語る人はよく、「この映画で○○は本質じゃないんだよ、本質は××にあるんだよ」という話法を使う。○○や××に入るのは、「物理学との矛盾」や「プロットの辻褄」や「映画表現の追究」や「ノーラン監督の宗教観」など。私もまた、自分なりの角度から、『TENET』に深く魅せられた。 私の『TENET』の見方、私への『TENET』の刺さり方は、広い共感を得られるものではないかもしれない。でも、だからこそ書いてみたい。書かずにはいられない。 ネタバレは控
独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法 作者:読書猿 発売日: 2020/09/29 メディア: 単行本(ソフトカバー) 『アイデア大全』、『問題解決大全』の著者として知られる市井の著述家、読書猿(どくしょざる)氏による新刊。前著の二倍近いボリュームの本書のテーマは、「独学」だ。 著者は自身を「独学者」と位置づける。独学者とは、「学ぶことを誰かに要求されたわけでも、強いられたわけでもない」のに、「自ら学びのなかに飛び込む人」(p.8)のこと。私は、昨年あたりから「勉強者」を自認している*1のだが、読書猿さんのいう「独学者」の定義にもばっちり当てはまる。まさに自分のための本だと思った。 『独学大全』は、「独学」という営みを成就させるための技術を、あらゆる方面から記している。独学の傍らにおいておくべきハンドブック的な本なので、現段階で「精読」はしていない。以下は、著
今、生涯でかつてないほど家にいる。しかも、数か月後の未来が予想できず、どんな優先度で何に取り組めばいいかもよくわからなくて、そわそわする。 そんななか、改めて「本」の良さを実感している。家にいながら心休まらない日々でも、本にはどこか安定感がある。できれば、少し前の本がいい。5、10年、あるいは200年前に書かれた素晴らしい本に出逢うと、「人類のなかには、こんなに切れた頭で、こんなにものごとを広く/深く考えた人がいるものか」と、感動する。そんなふうに年単位の時を超えて深い思考の跡に直接触れられるのは、本というメディアの醍醐味だと思う。 そんな「本」の未来について、最近いろいろと考えている。 断片的だし、特に目新しくもない内容になるかもしれないが、思考が散逸しないうちにまとめることにする。 本を書いてほしい vs 書きすぎないでほしい 筆者は、理工系の専門書・教科書を発行する出版社に勤務してい
意識の神秘を暴く: 脳と心の生命史 作者:ファインバーグ,トッド・E.,マラット,ジョン・M. 発売日: 2020/04/16 メディア: 単行本 『意識の神秘を暴く(Consciousness Demystified)』は、そのタイトルが示すとおり、 意識現象の科学的解明を目指した一冊である。同じ二人の著者による『意識の進化的起源(Ancient Origins of Consciousness)』(2017年、勁草書房)という大著(A5判で350ページ超)が出ており、本書はそのダイジェスト版(+α)といった位置づけとなっている。 訳者は、前著に引き続き、進化発生生物学を専門とし、意識の科学と哲学への造詣も深い鈴木大地氏。訳文は非常に丁寧で読みやすく、かつ編集にも心を砕かれており(用語集への参照など)、翻訳書のつくり方にもお手本にすべき点が多い*1。 *** 本書はどうやって「意識を神秘
※下記は、ここしばらく考えていることをまとめた、ラフスケッチとしての文章です。まだまだ考えが至らない点があると思いますので、ご批判・コメントをいただければ大変幸いです。 ※誤植修正や表現の改善等の微修正は今後も行う予定です(4/22) 科学の二面性 科学の「ロマン」を語る人がいる。一方で、科学にロマンを求めるなという人がいる。科学者には、「情熱的に何かを追い求める人」というイメージもあるが、他方で「禁欲的に仕事をこなす専門家」のイメージもある。情熱的で血の通った科学と、クールで厳密な科学。科学のイメージのこの二面性が、つねづね気になってきた。 自然科学は、私たちの生きるこの世界がどんな場所なのかを、実験・観察・理論化によって明らかにしていく。私たちの立つ大地が、じつは球形の天体で、太陽の周りを回っていること。生物は遺伝情報をDNA分子に宿し、自然選択の原理によって進化してきたこと。人間の脳
Galileo's Error: Foundations for a New Science of Consciousness 作者:Goff, Philip 発売日: 2019/11/07 メディア: ペーパーバック 心の哲学や意識の科学をフォローしていると、最近「汎心論」という言葉をよく聞く。心の哲学における汎心論とは、「意識とは何か?」、もう少し詳しく言えば「(物質)科学的な世界像のなかに、意識をどう位置づけるか?」という問題に応える、一つの哲学的な立場だ。 本書Galileo's Error: Foundations for a New Science of Consciousnessは、いま汎心論の旗振り役として活躍している哲学者フィリップ・ゴフ氏が、一般向けにその要諦を解説した一冊である。本書でゴフ氏は、唯物論でも二元論でもない「第3の選択肢(third option)」として
デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 :「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる 作者:メアリアン・ウルフ 出版社/メーカー: インターシフト (合同出版) 発売日: 2020/02/06 メディア: 単行本 Reader, Come Home: The Reading Brain in a Digital World 作者:Maryanne Wolf 出版社/メーカー: Harper 発売日: 2018/08/07 メディア: ハードカバー こんな声を聞くことが増えてきた。 「私、長い本を読むのが苦手で。」 「最近の人は難しい文章を読まないでしょ。」 面白く読んだ本を人に紹介しても、「うわ、長いね」、「読むのがしんどそう」と言われると、ちょっと寂しい。 私自身、読むのは苦手だと思ってきた。だから、長大で難解そうな本を手にとったときの、「自分に読めるだろうか」という不安な気持ちはよくわ
「機械学習と公平性に関するシンポジウム」に参加してきた。大ホールが半分以上(?)埋まるほどの盛況ぶりで、平日夜の開催だったとはいえ、ここまで関心が高いとは意外だった。メディア関係者も多く来ていたようなので、しっかりとしたレポートはそのうち読めると思う。ここでは、あくまで個人的な印象を、備忘録として残しておく。 企画趣旨、機械学習の公平性とは このシンポジウムは、AI系の三つの研究団体が共同で主催したもの。「機械学習と公平性」について、研究者側からの情報発信と、議論の呼びかけを意図している。直接のきっかけとなったのは、昨年11月ごろ、東京大学に籍を置くAI研究者が自身の差別的発言を「AIの判断」であるかのごとく弁明した事案だという(シンポジウムの冒頭でそのように説明された)。 ここで問題にされている「公平性」とは、厳密ではないかもしれないが、私はひとまず 機械学習を使うことが何らかの差別を生
〈現実〉とは何か (筑摩選書) 作者:西郷 甲矢人,田口 茂 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2019/12/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 著者は、数理物理学者の西郷甲矢人氏と、現象学者の田口茂氏。分野も世代も違う二人だが、あとがきによれば両者は9年前に出会い、「互いの言うことが面白いように理解できる」ことに驚き、「対話にのめり込んで」いったという。その対話のなかで生まれたのが、本書『〈現実〉とは何か』だそうだ。 二人はいったい何の話をしていたのか? 『〈現実〉とは何か』の目次を見ると、量子場、数学とは何か、現象学、圏論、自己の問題、因果、自由といった言葉が登場する。「現実とは何か」という書名も相まって、何やら抽象的で、ふわっとした哲学の本にも見える。私自身も最初はそんな印象で、立ち読みで済ませようかとも思っていた。 しかし読み始めてみると、非常に明確なメッセージがある
The Physicist & the Philosopher: Einstein, Bergson, and the Debate That Changed Our Understanding of Time 作者:Jimena Canales 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr 発売日: 2015/05/26 メディア: ハードカバー 科学史家ヒメナ・カナレス(Jimena Canales) による2015年の著作The Physicist & the Philosopherを取り上げます。20世紀前半にアルバート・アインシュタインとアンリ・ベルクソンが戦わせた論争について、その背景や余波を幅広い視点からまとめた一冊。その論争のテーマとは、「時間」です。 繰り返される論争への、科学史からのアプローチ ブログ筆者が腰を据えて本書を読んでみようと思ったきっかけは、今年刊
心にとって時間とは何か (講談社現代新書) 作者:青山 拓央 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/12/11 メディア: 新書 待ちに待った、青山拓央先生の時間本が出た。出たのが今日だ。さっそく読んだ。読み終えて即、感想を書こうとしている。そのことに、後ろめたい気持ちがかなりある。とてもじゃないけど、買った当日に感想を書けるような本ではないからだ。 本当なら、あと5回は読みたい。でも、諸般の事情で明日からは時間が取れそうにないし、時間を空けるほどに感想を書くハードルが上がっていくことが分かっているから、第一印象だけでも書いてしまおう。 *** 本書のテーマは、時間にまつわる数々の「謎」。 書名に『心にとって~』とついているのが重要だ。時間について「心」を考慮しないで語ることもできる。典型例は物理学。物理における時間にも、多少の「不思議」な点はあり、たとえば相対論では時間に関して
「自然科学における、数学の不合理なまでの有効性(”The unreasonable effectiveness of mathematics in the natural sciences”)」について考えてみたい。これは、20世紀の物理学者ユージン・ウィグナーによる有名なフレーズだ。この言葉を聞いたことがなくても、 なぜ、数学は(物理学をはじめとする)諸科学に役立つのか? について、疑問に思ったことがある人は多いと思う。 議論されつくしてきたテーマだとは承知しつつ、改めて取り上げてみたいと思ったのは、これが本ブログでずっと扱ってきた「脳はどうすれば理解できるか」や「科学にとって理解とは何か」などの主題に関連が深いように思えてきたからだ。 何が不思議なのか? 科学は、数学を使って現象を記述する。物理学の教科書を開けば、びっしりと数式が書かれている。考えてみれば不思議だ。どうして、紙と鉛筆で
情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 作者: リサ・フェルドマン・バレット,高橋洋 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2019/10/31 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 情動(emotion)の研究を続けてきた心理学者・神経科学者が、「情動とは何か?」に関する自身の学説をまとめた一冊*1。500ページくらいの本文に、何百項目にもわたる巻末注がつく、長大な本だ。しかし語り口は平易で、重要で面白い話題が続くので、飽きずに読み通すことができた。 訳文は非常に丁寧に作成されていることが感じられ、また「訳者あとがき」では本書のキーワードについて補足してくれていて、それも読解の大きな助けになった。 *** 情動(emotion)とは何か。 私たちは、普通こう考える。情動には、「怒り」「怖れ」「喜び」「幸福感」「驚き」などのいくつかの種類がある。誰か
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