8月18日に公示日を迎えた衆院選挙は、いよいよ選挙戦の本番に突入した。18日から投開票日である30日まで、すべての候補者の活動は、ある1つの法律に規制される。それが公職選挙法、いわゆる公選法である。
ネットによる選挙活動が公選法によって認められていないのは広く知られた事実だが、それ以外にも公選法は選挙活動を微細に渡って制限している。
「選挙カーに乗車できるのは、運転手を除いて4人を超えてはならない」「候補者1人につき配布できる弁当は15人分」「弁当の金額は1食につき1000円まで」「年賀状送付は禁止」…などなど。中には「ほんとにこんなルール、必要なの?」と首を傾げるものも少なくない。
そんな奇特な公選法に注目し、詳細を調べ挙げたのが弁護士の松本美樹氏である。自身も公選法を解説するブログを立ち上げた彼女が、公選法の奇妙さと見直しの必要性を訴える。
―― まず、公職選挙法とは、どんなものか教えてください。
松本 かしこまった解説をしますと、国会や地方団体の議会の議員に関する選挙運動に関して規定した法律です。選挙に関するあらゆる取り決めが記載されています。そもそもは1950年4月に制定され、以来改正が続けられて現在に至ります。
本来は「選挙期間を決めて、むやみやたらと選挙にカネをかけることを防ごう」といった狙いが背景にあったようですが、そのための規制の方法については異様なくらい細かく定められています。
しかし、逆にその規制の適否判断は極めてあいまいなものになっています。これは、規制の対象となる政治家(候補者)の活動には、選挙運動と政治活動の2種類があるためです。
選挙運動というのは、文字通り、選挙公示日から投票日までの選挙期間中に行う、選挙のためのあらゆる活動を指します。一方の政治活動は、選挙運動を超えた政党や政治家としての活動です。そして、公選法が主に規制するのは、前者の選挙運動に当たります。
ところが、容易に想像できるように、選挙運動と政治活動との線引きは、非常にあいまいなんです。どれが選挙運動で、どれが政治活動なのか、候補者本人も判断を誤ってしまうケースがいくつもあります。
「政策討論会があります」ならOK!?
―― すると、どんな問題が起きるのですか?
松本 例えば、候補者は、街頭演説で自分自身の政治的な思いや政策などを伝えるわけですが、単に政策を語ったりするだけでは、選挙運動にはならないとも言えます。しかし、その時に「立候補予定です」と発言したら、それは立派な選挙運動になる可能性が高いわけです。
選挙運動については、本来、公示日前は一切の選挙運動をしてはいけないことになっています。すると、違法な事前の選挙運動とみなされてしまう可能性があるわけです。
時期や内容的に見て、明らかに選挙のための演説だろうという場合も、同じように考えられるかもしれません。ですので、ほとんどの候補者がやるようなことについてもその判断が難しいことになってしまうのです。
街角で見かけるポスターも同様に、公選法で厳格に仕様が決められています。選挙運動のポスターは、選挙期間は、定められた掲示板などにしか張ってはいけません。しかし、選挙期間前でも一定の期間は、候補者の名前だけが表示されるポスターは選挙のためのポスターとして同様に禁止されます。
ただ、例外として、候補者1人の顔だけでなく、党代表などと一緒に写って「政策討論会があります」といった告知がなされていれば、それは政治活動ということで、許されたりするのです。
―― ややこしいですね。
松本 ところが、その討論会も、実際には開かれなかったりすることもあるんですよ。ポスターを張りたいがために、架空のものをつくって、当日中止になりました、なんて。もちろん、全部が全部、架空ではないのですが、候補者側も公選法のすき間をついて活動をしていたりします。
選挙カー上では名前の連呼のみ
松本 公選法自体、細かい取り決めが実に多いんですよ。先ほど、街頭演説の話をしましたが、車上で移動中の場合、候補者は事実上名前の連呼しかできなくなっています。
というのも、公選法は、車上での選挙活動を原則として禁止し、連呼行為と停車中の車の上での演説のみを認めると定めています。ですので、演説者が、演説しながら一定の場所から移動することは許されていませんし、移動中の車上でできるのは、連呼のみということになってしなうのです。
飲食物の提供にも微細な規定があります。利益供与に当たってしまうことから、候補者は基本的に、名義を問わず食事の提供をしてはいけないのですが、そこにはカッコ書きで「湯茶および、これに伴い通常用いられる程度の菓子を除く」と書いてあります。ちょっとしたお菓子ならいいというんですね。でもサンドイッチはだめ。
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