バドミントン日本代表選手の違法賭博問題で処分が出ました。メダルの期待もかかっていた桃田賢斗選手はリオ五輪に参加できなくなった一方で、今後再起し、東京五輪での活躍を期待する声が上がっているものの、そのためには決定的に欠けているものがあるように感じます。
今回はこの問題をいつものように動画を交えつつ、考えてみたいと思います。
ネット動画はアイデアの宝庫、それでは今週もいってみましょう。
みんなが桃田選手をかばった
謝罪会見にはさまざまなパターンがありますが、今回は、周囲の温情や将来への期待が見え隠れし、何とか一人の選手を守ろうとしたのが大きな特徴です。
4月8日、二人の選手に二人の管理者が寄り添う形で会見は行われました。
選手の一人は、ロンドン五輪で日本代表だった田児賢一選手(26)で、2013年まで全日本総合選手権を6連覇した実力者。違法賭博に60回ほど通い、約1000万円負けたと言います。
もう一人は、世界ランキング2位の桃田賢斗選手(21)で、夏のリオ五輪でもメダルが期待されていた人物。約50万円負けたそうです。
最初に目を引いたのは会見の同席者です。二人の勤務先であるNTT東日本のバドミントン部の部長と総務人事部長。二人の選手を挟んで座る様子は、まるで子供たちの不始末について一緒に謝りに来た保護者のようでした。
スポーツ選手の会見に監督が同席することはありますが、選手の不始末に二人の管理職が出てくることは、それほど多くはありません。ただ、二人がNTT東日本の社員であったことを考えると、会社側がその管理監督責任を強く感じた陣容だったと解釈できます。
進行にもそうした意識が強く見られました。
会見は冒頭、経緯の説明と二人の謝罪が8分ほどあり、その後、質疑応答という流れだったのですが、ヒアリングした事実関係についてはバトミントン部長が説明し、二人の選手は体調不良を理由に、1時間で退室させました。
本人たちが問題の大きさを深刻に受け止め、また長時間の社内調査もあって疲れが出ていること、そして前日に茶髪で帰国した二人は、謝罪にふさわしくないとして本人たちの意思でその日のうちに社内で髪を黒く染め、8日の記者会見に臨んだというエピソードも紹介していたことにも、選手たちを守ろうとする姿勢が感じられました。
会見では、田児選手も繰り返し桃田選手をかばいます。
「全責任は自分にある」「桃田や後輩を巻き込んでしまったのは僕」「桃田が行こうとしていた時に止めなかったことも申し訳なく思う」「桃田が世界のトップとしてプレイしている中で、自分は二度とバドミントンをできなくなってもいいという覚悟はあるので、今自分の立場でこういうことを言うのはおかしいんですが、もう一度桃田にチャンスを与えてやってほしいという気持ちしかありません」と繰り返し桃田選手の名前を口にし、最後も「桃田にもう一度チャンスを与えてやってください」という言葉で締めくくりました。
そしてNTT東日本は田児選手を解雇。桃田選手には出勤停止30日の処分を下しました。
日本バトミントン協会も事態を重く見て田児選手を無期限の登録抹消に、桃田選手を無期限の試合出場停止にしましたが、処分を発表した記者会見で「我々が育てた子供」「まだ21歳。可能性のある選手で、長年かけてはい上がってほしい」(日本バドミントン協会 銭谷欽治専務理事)といった表現を使っていたのが印象的でした。
シャラポワが見せた執着心
見ていて気になったのは、何とか守ろうとする周囲の姿とは対照的に、桃田選手本人はどちらかというと無表情で、感情が読みにくい飄々とした様子だったことです。
そんな時に思い出したのが、テニスのシャラポワ選手でした。
3月に米ロサンゼルスで記者会見した女子テニス元世界ランキング1位のマリア・シャラポワ選手(28)は、ドーピング検査で今年1月から禁止薬物に指定されている「メルドニウム」に陽性反応が出たことを明らかにしました。
メルドニウムは酸素の取り込みと持久力を高める効果があるために規制され、12月の段階で禁止薬物が変更されたというリストが全選手に送られていたものの、シャラポワ選手はそれを見落としていたのだと言います。他の国際的なアスリートの間でも使用者が見つかっており、彼女は自身の健康問題のため10年の間、医師の処方を受け、血流を高めるこの薬を服用していたことを明らかにしました。
この時に何より注目したのは、「知らなかったというには無理があるんじゃないか」という状況にもかかわらず、本人がはっきりとした意思を発信したことです。
記者会見で彼女は、「こんな形で私のキャリアを終わりにしたくない。再びプレイするチャンスが与えられることを本当に欲している」と言い、まずは処分を待つが、今後も競技を続けたいと訴えたのです。それはテニスへの執着心とでも言えるものでした。
日本語キャプション付きの動画がありましたので、ご覧ください。
彼女が「重大な発表がある」として告知した記者会見は、引退を含めてさまざまな憶測がありましたが、彼女はそれを明確に否定しました。
「私が引退を発表するつもりなら、ロサンゼルスのダウンタウンのホテルの、こんなきれいじゃないカーペットの上ではやらない」といった表現も彼女の性格がよく表れていて印象的でした。
記者会見は意思を示す場
バレて謝罪と釈明をするのではなく、自ら積極的に情報を開示した上で、自分としては競技を続けたいという意思をはっきり示したシャラポワ選手。しかも記者会見はたった一人で臨みました。
それに対して、「自分は二度とバドミントンをできなくなってもいいという覚悟はある」(田児選手)、「どんな処分をくだされてもしっかり受け止めて、しっかりと自分と向き合って、ちゃんと反省したい」(桃田選手)と語り、今後の選手活動については意思を示さなかった二人。
バドミントンの両選手の場合は、共に「いけないことは分かっていた」と述べた違法行為であり、単純な比較ができないのはもちろんなのですが、それぞれに反省するところはあるとして、本人にもう一度やり直したいという意思がなければ、周りに期待があっても復活は困難です。
日本の場合、「喪に服する」「喪が明ける」という概念があって、深く頭を下げて反省を示し、一定期間おとなしくする姿を見せることで、「もう許してやろう」という空気が生まれ、次のチャンスを与えられるようなところはありますが、世界の頂点を狙おうという現役アスリートが、選手としてのキャリアもすっかり諦めてしまったかのような姿勢で良いのかと考えると、心許ない感じがします。
記者会見は、事実の説明と認識を示す場であると同時に、この先どうするかという意思を伝える場でもあります。
いや、まだ子供だから、ショックで正常な判断も難しくなっている、という解釈もあるかもしれませんが、反省をして責任を取るのは当然でありながら、もしも勝負に挑むアスリートで有り続けようとするならば、自らがはっきりと意思を示すということが重要なポイントになるのではないか。そんなことを考えさせられる対照的な記者会見でした。
「反省」の活かし方
ここでもう1つ、動画を紹介しましょう。
米国の飲み屋のトイレに特殊なモニターを設置し、トイレに入ってきた酔った客に対して、ある人物がリアルタイムに語るという仕掛けをしている動画です。
その語りかける人物というのは、実は飲酒運転で人を轢いて死亡させ、現在、刑務所に服役している男性。4人の子供がいる警察官を殺してその家族から幸せを奪ったことなど事故の様子を語り、目の前の相手に飲酒運転で帰らないようにアドバイスをしています。
自分が酒を飲んで車を運転したことを何年経っても後悔し続けていることや、自分と同じ過ちをしないことを訴えるのですが、その描写があまりにもリアルで、トイレに来た人たちは、はじめは陽気にやりとりしているものの、モニター越しの人物の話を聞いているうちに一気に酔いがさめたかのような顔つきになっていきます。
「タ、タクシーで帰るよ」
友達も安全に帰れるように気を付けて。
「あ、ああ、そうする」
といった具合に説得されていく様子が描かれています。
ご覧ください。
失敗した本人が言うからこそ、説得力があるのでしょう。
事件や事故が起きると、さまざまな再発防止策が検討されますが、本人が「いけないと分かっている」のにやってしまうような問題については、その啓発をする上で、経験者にも重要な役割があることを改めて感じます。
違法賭博に関わったバドミントン選手の問題について考えれば、周囲が管理監督責任を感じること自体は重要でしょうが、それは子供だからとか、まだ若いから、という扱いは間違いで、イメージキャラクターではなくスポーツ選手として育成するのであれば、反省させて指導するだけでなく、本人がしっかりした自分の意思を持ち、役割を認識した上で、自分の責任を果たせるように促すことがより重要ではないかと強く思います。
この先、違法賭博に関わった人たちがそれぞれどのように進んでいくのかは分かりませんが、当人たちはもちろん、選手を育成する側にも無駄にしてほしくない経験です。
ネット動画はアイデアの宝庫。それでは、また金曜日にお会いしましょう。
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