様々な分野で活躍する一流人が実践する健康マネジメント術を紹介する本コラム。今月は経営戦略や組織の歴史的な研究に取り組む経営学者の米倉誠一郎さんにお話を伺っていく。経営者から熱い支持を受け、講演や講義、そして授業で忙しい毎日を送る米倉さんの趣味は音楽、しかも聴くのではなく、自ら演奏することだという。3回目は、米倉さんに音楽活動と健康について聞いた。

 大学に入学してから半年間は、高校からの流れでアメリカンフットボールをやりましたね。ところが、やはり音楽をやりたくなったんです。「よし、バンドマンになろう」と。僕はご多分に漏れず中学生からビートルズフリークでした。ロギンス&メッシーナやザ・バンド、それにウエストコーストロック系に、グレイトフル・デッドなんて、訳のわからないバンドが好きになったこともあります。

 3年間ほどバンドを組んでいたんですが、やってみると、自分に才能がないことがよくわかったんです。それで、「夏休みが一番長い仕事は何だ」と考えて、大学の教員になりました(笑)。

 大学時代に上智大学の友達が「上智でカトリック学生がソフトロックをやっているけど、ベースがいなくて困っているから手伝いに行ってやってくれないか」という話を僕にしたんです。それで取りあえず1回のライブのためにヘルプに行ったんですけど、まあ、当時の僕はマルクス主義者でしたから、クリスチャンとは肌が合わない(笑)。その1回きりで終わったんです。

 ところが、です。1995年に一橋大学が120周年を迎えるから、その歩みを綴ったビデオを作るということになり、僕が『一橋大学120周年ビデオ製作委員長』というのになったんです。それで、「すごいメディアプロデューサーがビデオを製作してくれることになり、今日大学に来るので挨拶をしに行け」と、学長に命じられたんです。

旧知の人物との意外な再会が、バンド活動の再開に

 そして行ったら、そこに上智のバンドリーダーをやっていた人物がいるじゃありませんか。彼は卒業後に音楽や映像を製作する企業のディレクターやプロデューサーをやり、その後独立して、有名な化粧品会社のCMなどの製作をずっとやっていたんです。

 いや、びっくりしましたよ、こんな偶然あるのかと。上智のバンドで、1回だけしか顔を合わせていないのに、30年ぶりに会っても音楽を通した縁、「いや~、久し振りだね」と、お互い変わり果てた姿でしたが(笑)、すぐに打ち解けることができました。それで、一通りの話が終わって、別れ際に「今度バンドでもやりましょう」という話になって結成されたのが、今、僕が活動しているバンド「The Searching Cranburys」なんです。それで1~2年練習期間があって、年1回、ライブをすることにして、今年が12回目ですから、もう、14~15年活動しているんです。

 年齢を重ねても元気でいるというのは、食事や運動も大切ですけど、ストレスをためないとか、好きなことをやるとかといった面もないとダメなんです。それを僕に当てはめてみると、下手の横好きですが、この年になっても音楽ができているというのが、元気の素になっているんだと思います。まあ、精神的にも肉体的にも健康でいられるための、「心のビタミン」ですね、音楽は。

仕事以外の生きがいを持つことが元気でいられる秘訣

 よく言われることですが、1本の矢は折れやすいじゃないですか。でも、3本くらいあると、仕事がうまくいかなくても音楽があるし、音楽がパッとしない、冴えないなと思っても運動があるし、とどこか拠り所が作れるんです。そんな風にバランスを持っていると、結構、生産性も上がるのかなと思っています。

 演奏するのは、ビートルズがお約束ですね。それにエリック・クラプトン、ボブ・ディランにビーチ・ボーイズ、サイモン&ガーファンクルなどなど、我々世代にあったものです(笑)。ライブはだいたい2時間半くらいで、24~27曲やります。確かにそれだけ演奏すれば、前回お話ししたように腕の張りも強くなりますよね。

 演ったことがある方なら分かると思いますが、リハーサルを何回かやって、それから本番、結構、体力が必要なんです。最近メンバーの中では、「指を使うからアルツハイマー対策に良いじゃないか」なんていう冗談が飛んでいますよ。メディアプロデューサーとその親友は僕より2歳年上ですけど、もう一人は同じ歳です。年を数えてみたら、4人の合計年齢264歳のバンドなんです、すごいですよね。ビートルズの「When I'm Sixty Four」という曲があるじゃないですか、それを全員で歌うんですよ、笑っちゃうでしょ。みんな64になるとは思わなかったけど、はるかに越しちゃったよね、って(笑)。

 音楽といえば、話題になったクイーンのフレディ・マーキュリーの半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』も観ましたよ、僕も好きでしたから。彼らも本当に才能のあるグループでしたから。それに劇中で描かれている「ライブ・エイド」はちょうど僕がアメリカにいたころでした。本当にいい映画でしたね。映画を観て思ったのは、フレディのクリエーター・パフォーマーとしての才能もすごいけど、バンド、そして曲を一つにまとめあげていったのは、ギターのブライアン・メイだったという根拠なき確信がつかめましたね。

 ブライアン・メイは2007年にインペリアル・カレッジ・ロンドンで天文物理学の博士号を取っているんですよ。やっぱりやっていることが一つだけじゃないでしょ。ちょっと一緒にするのはおこがましいですが、仕事だけでなく何かほかのこと、趣味や生き甲斐を持つということが、いつまでも元気でいられる秘訣だと思いますね。

(まとめ:松尾直俊=フィットネスライター/インタビュー写真:村田わかな)

[ 日経Gooday 2018年12月28日付の記事を転載]

米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)さん
法政大学教授
米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)さん 1953年東京生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究修士課程修了。一橋大学商学部附属産業経営研究施設助手に着任後、ハーバード大学大学院に留学。同大学歴史博士号取得(Ph.D)。1995年に一橋大学商学部産業経営研究所教授着任。97年より同大学イノベーション研究センター教授。2012~14年はプレトリア大学GIBS日本研究センター所長を兼務。そのほか、一橋大学イノベーション研究センター特任教授や法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授、アカデミーヒルズ日本元気塾塾長など、数々の役職を兼務中。イノベーションを核とした企業の経営戦略と史的研究を専門として、関連する著作も多数。近著に『イノベーターたちの日本史 近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)、ミネルヴァ日本評伝選『松下幸之助 きみならできる、必ずできる』(ミネルヴァ書房)などがある。
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