人材不足など中小企業の悩みを解決し、企業価値を高めるために欠かせないのが、会社自体のブランドを高めることだ。いま、どんな方法が成功しているのか。その実例を紹介しよう。
case 1 タカヤ
新ブランドを立ち上げて既存のイメージを一新し、新規事業を大躍進させた成功例がある。岩手県盛岡市のタカヤは2002年に民事再生の申し立てを申請した建設会社だ。長年岩手に住む県民にとって「タカヤ」の名前は、再建企業のイメージが残る。
住宅建設や賃貸事業、土木事業などを手掛ける中、既存の事業領域から、新しい活路を見い出すことはできないか、と望月郁夫社長は考えていた。
可能性があると考えたのは、顧客のニーズに応じる形に終始し、事業の個性を出しにくかったリフォーム分野だ。
望月社長は、さっそく新規事業の立ち上げメンバーを募ることにした。新しいブランドの育成に興味があると名乗りを上げたのは、20代、30代の女性社員7人だった。
部屋を改装し、どんなイメージの空間を作りたいかを問いかけると、もともとファッションなど流行に敏感な女性たちだけに、忌憚(きたん)のないアイデアが続々と出てきた。コンセプトづくりには、ブレスト的な会議が欠かせない。女性社員たちは、新しいブランドづくりに向け、水を得た魚のように楽しく語り合い、物事を決めるのも早かった。
北欧デザインに決定
数カ月にわたって会議を重ね、中古マンションの1室を買い取って、北欧風のデザインにリノベーションし、販売することが決まった。ブランド名は北欧をイメージした「REFORCO.(リフォルコ.)」だ。
「ネーミングやロゴなどは、互いに案を出し合い、投票して決めます。早いと2週間、長くても1カ月の間で、ブランドのビジョンやデザインのルールを決めました」(企画を担当した加藤瑞紀さん)。統一感を出すため、ロゴの使い方などをまとめた「ガイドライン」も作成した。これを基に、北欧調のホームページや名刺、クリアファイルなどの関連グッズをデザインした。「ガイドラインがあれば、チーム全員が読み返せるし、新入社員も勉強できます」。現在もメンバーが気付いたことを随時加え、ノウハウを集約している。
当初は社内で、「北欧風だけに絞って大丈夫なの?」「お洒落すぎないか?」などコンセプトやデザインを疑問視する声が社内で聞かれたという。「私たちが見ているのは、会社の未来。だからこそ、今度入ってくる社員たちや、次世代に受け入れられるデザインが必要だと説得してきました」(加藤さん)。
リノベーションした物件の見学会には折り込みチラシを見た客が殺到。内覧後、その場で孫のために購入を決定した祖父母もいる。作れば作るほど売れ、いつしか会社全体の目の色が変わっていった。
ブランドづくりのノウハウを習得した社員たちは、REFORCO.に次ぐ新たな事業も立ち上げた。若手社員のやる気が膨らみ、快進撃の原動力となっている。
case 2 アール・ケア
介護の職場には、慢性的な人材不足に加え、社員が定着しにくいという大きな悩みがある。岡山県玉野市で介護事業を行うアール・ケアの山根一人社長も例外ではなかった。「3K職場」というイメージの強い業界を明るくし、楽しく働ける職場を目指したい。社員がアール・ケアで働く意義とやりがいを見つけられるようにしたい。
常々そう考えていた山根社長は、ある温泉旅館からヒントを得て、デイサービスの施設内に、東京で買い付けたインテリアや絵画を取り入れたり、全員がインカム(マイク付きヘッドホン)を付けて、利用者の情報共有がスムーズにできるようにしたりするなど、職場づくりを徹底してきた。
もう一歩、斬新で先進的な施設にするにはどうすればよいか――。悩んだ山根社長は、新しい会社のイメージを打ち出そうと考えた。つまり、新しいブランドイメージに塗り替える「リブランディング」だ。そこで、毎日通ってくる高齢者ら、相手のことを思う心を表現するような、さわやかな「アール・ケア」のブランドを新たに打ち出す方針を決めた。
「さわやか」というイメージから、ヨット部のキャプテンの姿が思い浮かんだ。そこから「マリーナに介護施設があったらどうか」と連想を広げながら、イメージを固めて経営陣と概念を共有し、改革案を次々と打ち出した。
コーポレートカラーを爽やかなブルーに変え、波やヨットのモチーフを入れた看板やロゴを作成、施設の内装もマリン調に──。
会社の「リブランディング」構想開始から2年、社員の意識や、職場の雰囲気が変わってきた。
「世界観が統一されたことで、会社への所属意識や連帯感が高まった」「社外での認知度が高まり、社格も上がった気がして誇らしい」「お客様から褒められることが増えてうれしい」といった声が、社員から次々と出るようになった。デザインの統一をきっかけにして、現場のやる気が高まっている。
現場の意欲が高まる
さらに社員の意識を変えたのは、アール・ケアらしさを伝えるビジョン・ミッションをまとめたことだった。
「挑戦はまっ先に。サービスはまっすぐに。」
ホームページや看板などに必ずこのビジョンを掲げ、会社の目指す方向を伝える。また、普段からその内容を会話に取り入れることで、この言葉を軸に新しい挑戦を続けて行きたいと考えている。
介護業界でマリン風のデザインを取り入れることは、大きな挑戦だった。しかし、その大胆な挑戦が話題を呼び、リブランディング開始以来、訪問看護施設など、次々と同じテイストの新施設をオープンさせている。
(この記事は「日経トップリーダー」2016年3月号に掲載したものを再編集しました。構成:福島哉香)
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