人材不足などの中小企業の悩みを解決し、企業価値を高めるのに欠かせないのが、会社自体のブランドを高めることだ。前回に引き続き、中小企業のブランド戦略に強い人気コンサルタントの村尾隆介氏にそのノウハウを聞いた。今回紹介するのは、採用活動に動画を用いた会社の事例だ。
case 3 北良
配信し、人が集まる会社に!
地方のガス会社に就職しようとする学生は正直多くない。岩手県北上市で業務用や家庭用のガスを供給する北良では、説明会に参加した学生のうち、選考を希望する人数が半数以下と少ないことに頭を痛めていた。地域でガスを売る意味は何なのか、寒い冬に重いプロパンガスのボンベを運ぶ理由、医療ガスを24時間切らさず供給するワケ……いくら詳しく説明しても、学生たちの理解を得るのは難しかった。
そこで昨年、笠井健社長は自社の業務内容に関する動画をまとめることを決める。会社の理念を伝える約4分間のいわば“ブランド動画”だ。映像であれば、メッセージに合わせた音楽と共に、より多くの情報を伝えられる。日常的にスマートフォンやパソコンで動画を見ている就活生にとっては、経営理念の文面を読むよりも、同年代の若者が働く様子を見せるほうが、説得力があるはずだ。
説明会参加者の8割が入社希望
真剣に、イキイキと働く社員たちが登場する動画には、心を掴むフレーズをちりばめた。
「……(前略)……私たちが届けるのは見えないもの。
私たちがしっかり仕事をしないとものづくりの現場は止まります。
……(中略)……
ガス屋さんと呼ばれるけれど、地域に欠かせないエネルギー会社。
大切なものほど、見えにくい。
見える人にだけ来て欲しい。
進化するガス会社〈北良〉」
会社説明会で社長の登壇前に流したり、ウェブサイトに載せたりしたことが奏功し、従来の約2倍、説明会参加者の8割以上が、北良に入社を希望するようになった。「メッセージ性の高い内容を入れ込むことで、会社に対する興味と、働くことの動機づけができた」(笠井社長)。
社会に役立つ仕事を認識
この動画がきっかけで、社員にも変化が見られたという。一人ひとりが自覚と自信、誇りを持って業務に取り組むようになった。「社会の中でどう見られるか」を意識した発言も増えてきた。つまり自分たちは社会に役立つ仕事をしていることを理解する社員が目立ってきた。
「経営者として社員に一番伝えたいことが伝わっている安心感がある。会社の存在意義を『防災・命を救う・社会を守る』といったところに置くことができた。今後は個別の商品やサービス、そして、社内のマニュアル作りにも動画を活用していきたい」と笠井社長は期待する。
この動画をきっかけに、15年はメディアへの露出が増加。営業先での認知度も高まり、新規顧客の開拓にも役立っている。
村尾氏がコンサルティングをした会社の作成した動画はこちらからご覧いただけます。
(この記事は「日経トップリーダー」2016年3月号に掲載したものを再編集しました。構成:福島哉香)
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