高低差、Y字路、地名......まち歩きが楽しくなる七つの地理の見方

重永 瞬(京都大学大学院博士課程)
雪についた足跡が織りなす自然のY字路(京都府の北野天満宮)撮影:重永瞬
(『中央公論』2025年2月号より抜粋)

 散歩の魅力は、なんといってもその手軽さである。外を歩くだけでよい。建築や動植物など、まちなかのさまざまな要素が目を楽しませてくれる。まちを見る目さえ養えば、観光地でなくとも家の近所でいくらでも楽しむことができる。

 私は、京都大学で地理学を学んでいる大学院生である。地図や景観観察から地域を読み解く地理学の視点は、散歩にも役立つ。今回は、地理学のフィールドワークでよく扱われる対象に加えて、私が個人的に興味を持っているテーマも紹介しつつ、散歩を楽しむ七つの「地理の見方」について解説する。

 まず、散歩愛好家のなかでも好きな人が多い①高低差、②地名について解説しよう。地形や行政区画に着目すると、まちの基本的な構造が見えてくる。地図アプリが充実したこんにちでは、これらに注目するまち歩きもずいぶんとやりやすくなった。本稿では、そうしたツールも紹介する。

 次に取り上げたいのは、私たちの散歩の舞台である「道」だ。今回は、③参道と④Y字路という二つの特徴的な「道」について説明しよう。地理学には、古地図や景観からまちの変遷を探る歴史地理学という分野がある。それを参考に、街路の変遷からまちの歴史を知るためのとっかかりとなる二つの「せめぎ合い」について紹介したい。

 地形やまち並みの変化は地理学でも比較的オーソドックスなテーマであるが、せっかくなので今回はよりトガったトピックも扱ってみよう。地理学には、道徳地理(moral geographies)というワードがある。これは、「どこで何をしてはいけないか」や「誰がどこにいてよいか」など、道徳的規範と空間の関係を指し示す用語である。「楽しむ」というスタンスからは少し外れるが、まちの解像度を上げてくれる視点であることは間違いない。そこで、⑤注意書き、⑥舗装、⑦音風景という三つの題材から、都市の道徳地理を読み解くヒントを紹介する。

1  2