2023.12.07
# マンガ # 本

水木しげるは何が凄いのか? 京極夏彦「水木さんの妖怪はお化け“そのもの”ではない」

京極夏彦×江口夏実【後編】

先日、17年ぶりとなる百鬼夜行シリーズ『鵼の碑』を刊行したばかりの小説家・京極夏彦さんと、『出禁のモグラ』が好評の漫画家・江口夏実さんの対談が『モーニング』誌で実現。現代ビジネスでは、『モーニング』誌に掲載しきれなかった内容を追加し、新たに構成。お互いの作品へのリスペクトやミステリへの思い、大きな影響を受けたという水木しげるへの思いなどをたっぷり語ってもらった。

中編はこちら:京極夏彦が語る『鬼灯の冷徹』、地獄で一番強いキャラより愛おしいキャラとは?

 

水木先生を通っているか、通っていない派かで分かれると思います(江口)

ーーおふたりは水木しげる先生の影響下にあることを公言されています。

京極 そりゃあねえ。もうどうしても抜け出せないですよね。

江口 たぶん妖怪を好きな人って水木先生を通っているか、通っていない派かで分かれるくらい重要なことだと思います。

京極 僕よりずっと上の方だと通っていない方もいるかもしれませんが、今は無意識で通っていますからね。通った人の影響があるし。影響がまったくないって方はいないんじゃないですかね。

ーー水木作品の凄さとは?

京極 まあ水木さんといえば妖怪ですが、水木さんの妖怪って古くから伝えられているお化け“そのもの”ではないですからね。あれは水木妖怪なんです。でも、多くの人はそう思っていない。たとえば江戸時代に描かれたお化けの絵柄と同じビジュアルの水木妖怪もいますが、それは素材として使っただけなんですよね。水木さんにとっては素材はなんでもいいわけ。あらゆるものをプリコラージュしてイメージぴったりの妖怪を新しく作るのが水木スタイルです。日本的なデザインと意匠に、ぽつんとイヌイットの仮面や近代美術の変なものを組み合わせて、見えないものを可視化する。そこが凄いところ。

江口 そうですね。

京極 江口さんの漫画もいろいろなところから、いろいろなものを持ってきて違和感なく綺麗に組み合わせてるから、そういう部分で水木さんの魂みたいなものが受け継がれているというか、染みているのかなって感じがします。

江口 染みています。文字情報だけじゃないところを見てるってこともあるかもしれません。巻物とかの資料から、多分、こういう文化なんだろうなって想像して勝手に描いているだけですけど。

京極 錦絵とか日本的な柄や意匠をポイッと使うでしょ。「え? ここに使うの?」というところがカッコいいんです。そういうのはセンスの問題だけじゃなくて、常に意識して情報収集しないと出来ないことで。そのへんは水木的だと思います。

江口 水木さんはマリリン・モンローがお好きだったり、その取り込み方がまた水木先生らしいというか。

京極 水木さんも熱心に研究されたり勉強されたりしているんだけど、でも、決してそのまま出力はしないんですよね。水木フィルターを通すとみんな水木作品になっちゃう。『鬼灯の冷徹』に出てくるシロって、闘犬の横綱みたいな飾り綱をつけてるでしょ。桃太郎の家来の犬は、大体あんなのつけてないですよね。あの感覚というかチョイスが良いですよね。

シロ

関連記事