病理診断部
病理診断とは?
「大腸カメラの検査をして大腸がんが見つかったよ!」などと言う話を耳にしたことがあると思います。実際は、大腸カメラの検査だけでは、病変が悪いもの(大腸がんなどの悪性)なのか良いもの(大腸炎や腺腫などの良性)なのか、判断するのが難しいことがあります。その場合、病変の一部をつまんできて(生検して)、それを診断するのが、私たち病理診断科部の仕事です。 実際に患者さんと接することはほとんどありませんが、病気の診断を行うことで、患者さんのその後の治療などに関わる、とても重要な仕事です。もちろん「がん」以外の病気の診断も行いますので、正確な診断のためには多くの知識と経験が必要になります。
スタッフ紹介
医師紹介
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臨床検査技師
7名
うち、
・細胞検査士 4名
・国際細胞検査士 2名
・認定病理検査技師 3名
・特定化学物質及び四アルキル鉛作業主任者 1名
・有機溶剤作業主任者 1名
・日本病理学会主催ゲノム病理標準化講習修了 3名
・医療安全管理者 1名
・がんゲノム医療コーディネーター 4名
・OSNA法操作習熟研修修了 5名
事務員
2名 (ドクタークラーク 1名、受付事務 1名)
組織診断
患者さんの身体から採取(手術や生検)された検体を中性緩衝ホルマリンで固定し、切り出し、包埋、薄切、染色、封入の工程を経て標本(プレパラート)を作製します。その後、病理医が顕微鏡を使い診断し報告をします。近年では、遺伝子検査が普及しており、検査を行う上で、検体中のDNAやRNA等の質がとても重要です。当院、病理診断科では、後に遺伝子検査が精度良く実施できるように、検体中のDNAやRNA等の変性を最小限におさえ、高い品質を保持すべく、検体は、「中性緩衝ホルマリン」で十分に固定を行い、固定時間は原則72時間以内としています。また、脱灰を必要とする際には、EDTAによる緩徐脱灰を行っています。
細胞診断(細胞診)
患者さんの身体から擦過や穿刺吸引し採取された細胞などをスライドガラス上に載せ、染色した標本を顕微鏡で観察します。まず、日本臨床細胞学会認定の資格を有する細胞検査士が鏡検し、がん細胞や怪しい細胞などの異常がないか、隅から隅まで観察します。「がん細胞」や「怪しい細胞」などがあると、細胞検査士は問題の細胞にマーキングをし、推定診断、細胞所見等を記載し、細胞診専門医に送ります。その後、細胞診専門医が問題の細胞を鏡検し診断、報告をします。
術中迅速診断(組織診・細胞診)
手術中に行う組織診断・細胞診断のことです。術中に病変の一部や腹水、胸水などを病理診断科部へ提出されると、迅速に標本を作り、染色して診断します。提出されてから15~20分程度で、診断結果を執刀医(手術している医師)に報告します。病変が悪性か否かを診断し、がんが周りの臓器に広がっていないかなどを確認することで、進行中の手術方針決定などをサポートします。
センチネルリンパ節術中迅速診断 (OSNA法)
Sysmex RD-200
当院、病理診断科では、乳癌のセンチネルリンパ節への転移の有無を術中に調べる方法として、OSNA™ (One-Step nucleic Acid Amplification:直接遺伝子増幅)法を採用しています。OSNA法は、可溶化したリンパ節中に含まれる CK19mRNAを専用の装置と試薬で調べる診断精度の高い技術です。手術中にリンパ節中のCK19mRNAの有無を調べることで、がん転移の有無を迅速かつ正確に判定でき、選択的リンパ節郭清や区域切除術の適用可否判断に寄与します。一部の患者さんの乳癌のタイプの中にはCK19(-)のものが存在します。その場合、センチネルリンパ節は、通常の迅速病理組織標本(凍結切片)を作製した後、検鏡し診断をします。
※センチネルリンパ節とは
センチネルリンパ節とは、腫瘍原発巣から流れ出たリンパ液が最初に入り込むリンパ節で、最初のリンパ節転移が発生する場所です。
特殊染色
病理組織診断用の標本はヘマトキシリン-エオジン(H-E)染色、細胞診断用の標本はパパニコロウ染色を基本として行なっています。基本的な染色では鑑別が難しい場合や目的のものが染まらない場合には、必要に応じて特殊染色や免疫染色を追加し施行します。特殊染色では、目的のものを選択的に染めることが可能で、多くの種類があります。
目的 | 染色名 |
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多糖類 | 過ヨウ素酸シッフ(PAS)、ジアスターゼ消化PAS、アルシアン青、 PAS・アルシアン青重染色、ムチカルミン |
結合組織 | マッソン・トリクローム、エラスチカ・マッソン、ビクトリア青、鍍銀 |
腎糸球体 基底膜 | 過ヨウ素酸メセナミン銀(PAM) |
線維素・神経膠線維 | リンタングステン酸ヘマトキシリン(PTAH) |
脂肪 | ズダンⅢ |
アミロイド | Direct fast scarlet(DFS)、コンゴー赤 |
内分泌細胞 | グリメリウス |
カルシウム | コッサ |
メラニン色素 | フォンタナ・マッソン |
ヘモジデリン | ベルリン青 |
銅結合蛋白 | オルセイン |
胆汁色素 | ホール法 |
中枢神経組織 | クリューバー・バレラ |
真菌 | グロコット |
細菌 | グラム |
抗酸菌 | Ziehl-Neelsen |
スピロヘーター | ワルチンスタリー |
血液細胞 | ギムザ |
これらの特殊染色は、全て手作業でおこなっています。
免疫組織化学染色
免疫組織化学染色とは、抗原抗体反応を利用して、組織中の特定の抗原を検出する染色方法です。
HE染色だけでは診断できない場合の補助的な役割や、病理診断を裏付ける確証となります。
Roche Bench Mark ULTRA PLUS
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B細胞に特異的なCD20、CD79aという抗原を検出し、B細胞性のリンパ腫であると診断します。
分子病理診断(コンパニオン診断)
現在のがん治療は、従来の抗がん剤治療(抗がん剤を点滴したり、服用する治療)に加えて、分子標的療法や免疫療法(PD-1を発見した本庶佑博士が2018年にノーベル賞を受賞しています!)も盛んに行われるようになってきました。
薬が有効かどうか分からずにその薬を使用するのは、患者さんにとって苦痛かつ危険なことです。それを避けるために行う分子標的療法や免疫療法で、実際に有効か(治療効果が期待できるか)どうかを判断するのが、分子病理診断です。
分子病理診断は、様々な方法でがんの遺伝子異常などを調べることで、乳がん。肺がん・大腸がんなど、がんに対しての様々な検査とその評価を行っています。がん遺伝子パネル検査が保険収載されましたが、当院でもがん遺伝子パネル検査を行うために適切な標本であるか否かを評価・判断し、質の高い標本の提供を行っています。
コンパニオン診断薬等の情報 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
000239775.pdf (pmda.go.jp)
ゲノム医療
最近、「ゲノム」という言葉を聞くようになりました。ゲノムとは、DNAに含まれる全ての遺伝子情報のことです。その遺伝子情報をもとに私たちの体は作られています。その情報を網羅的に調べて、より効率的かつ効果的に病気の診断や治療を行うのがゲノム医療です。
がんの治療には手術や化学療法(抗癌剤治療)、放射線治療など様々な方法があります。がん細胞のゲノム(遺伝子)を調べることにより、個々のがんに効果の期待できる治療がわかるようになってきています。ゲノム医療では、これらのゲノム(遺伝子)を検査し治療方法を見つけることで、患者さんの期待に応えるよう業務をおこなっています。
がんは遺伝子の異常(変異)によって起こる病気で、その変異は個々の患者さんで異なります。遺伝子を調べるためには、体の中にできたがん細胞を採取する必要があります。担当の医師により検査や手術がおこなわれ、取り出されたがん細胞に特別な変化があるかどうかを調べます。例えば、胃や乳腺のがん細胞にはHER2と呼ばれる遺伝子の異常があることがあります。この遺伝子の異常には対応する治療薬があり、適切な治療を選ぶことが出来るようになります。また、がん細胞にマイクロサテライト不安定性と呼ばれる異常が見つかることもあります。この場合は、がんの種類や場所に限らず、効果の期待できる治療薬が決まります。
2019年6月より、がんゲノムプロファイリング検査が保険医療として全国でおこなわれるようになりました。一度に100種類以上の遺伝子を検査して、がんの原因となる遺伝子を調べます。現在ではまだ治療につながる遺伝子が見つかる可能性は10~20%程度と低いですが、有用性の期待できる新しい検査です。がんゲノムプロファイリング検査は指定医療機関に限定して実施可能な検査です。当院はがんゲノム医療中核拠点病院の名古屋大学医学部附属病院との連携により、2018年12月にがんゲノム医療連携病院に指定されました。当院での検査結果は名古屋大学付属病院と共同で解析し、治療に結びつけることができます。
これらの検査を適切におこなうためには、担当の医師をはじめとして多くのスタッフの協力のもと、精度の高い検査体制が必要です。遺伝子検査ができるようにするには、採取されたがん細胞を正しく処理し、検査まで保管しておかなければなりません。状態が良ければ、他医療機関で採取されたがん組織・細胞でも検査することもできます。検査検体の管理、臨床情報の保全、結果の解釈や対応が重要です。当院、病理診断科では、ゲノム検査に適した質の高い検体の作製に努めています。また、ゲノム医療センターと密に連携をし、円滑なゲノム医療に貢献をしています。
病理解剖(剖検)
病理解剖は、治療の過程で、残念ながら亡くなられた患者さんに対して行う解剖のことです。医療技術が進歩した現在、死因は生前や亡くなった後の検査などにより、ある程度判断できるようになりました。そのため全国的に病理解剖の数は減少傾向にあります。しかし、死因が不明な場合は、ご遺族のご理解、ご承諾のもとに、解剖させていただきます。生前分かり得なかった患者さんの死因を究明するだけでなく、解剖結果からも多くの学びがあります。それらを医師や研修医、医療技術スタッフが参加する臨床病理カンファレンス(CPC:Clinico-pathological conference)で議論しながら、今後の医療へ還元しています。
CPCの様子
セカンドオピニオン
当院に紹介いただいた患者さんの持参した病理標本(紹介元の先生からの依頼で)は、当院でも再度、病理診断いたします。診断結果は、依頼科の医師を通じて報告しています。
診療実績
最近の実績は下記のとおりです。
- 診断実績(2021年度)
- CPC(解剖検討会)(2021年度)
- 学会発表(2021年度)
- 学術関係論文(2021年度)
- 2021年度外部精度評価を受けました。
- 書籍が発刊されました。
「症例から学ぶ細胞診」
著:餌取文昌 監修:田中卓二