先週の『まつもtoなかい』で中居正広と香取慎吾が“再会”したシーンは、間違いなく今年のテレビバラエティ史のハイライトの一つになるだろう。
もうすぐTVerの配信が終わってしまうので、もう一度見てしまった。
冒頭、あの松本人志をして「この世界に入って初めてよ。(2人の絡みを)邪魔せんとこっって(思った)」と言わしめたのである。あらゆる番組の空気を自身の放つ強烈な磁場で全て支配下においてきたあの男が、今から起きる現象を一歩引いてみることを予め宣言したのである。それぐらいの異常事態だった。
いや、本当にすごかった。全シーン、全秒が注目すべきなのだけど、まず印象に残ったのは、松本が2人に連絡を取り合っていたのか? と聞いた場面。
中居「連絡はどうでしょう?」
香取「どうするんですか? 僕はゲストなんで」
(…)
中居「メールは…(笑)」
松本「してたの?(笑)」
香取「別にいいんですよ。僕はゲストですし、久々にこんな場に呼ばれたんで僕は何でも話しますよ」
松本「そうっすね!」
香取「でも自分だけで勝手にバッて言うのも…」
中居「話しますよ?」
香取「全然いいですよ」
この会話の間には、中居と香取の間で言葉だけでなく幾重にもアイコンタクトが交わされたように映る。公にされていない、2人の空白の6年の間の関係性に踏み込むのか、踏み込まないのか。自分には準備はできている。でも、あなたは大丈夫ですか? 困ることはないですか? 時にすっとボケたり突き放したり、おもしろおかしく盛り上がったトークの内容以上に、本心ではお互いがお互いの現在の立場を思いやっていることが伝わるシーンだった。
でも、それ以上のハイライトは、香取が歌唱を披露する後半部分に待っていた。3人でのトークしたセットとは別のセットに、まず最初に松本と中居が現れた。彼らが出てきた瞬間、客席にいた観覧客が異常なほど盛り上がったのだ。その盛り上がりは、単に松本と中居という人気タレントが出てきただけでは説明しがたい、どこか「信じられないことが起きた」という半狂乱に近いものだった。
これにはわけがある。番組ではここで観覧客について「香取慎吾が出演する架空の番組の観覧としてファンクラブ会員がスタジオに!」と説明されている。つまり、彼らは香取のファンであり、そんな彼らの前に「現れるはずがない」、いや「現れてはならない」はずの中居が登場したのである。香取はその時点ではまだセットに出てきていなかったが、当然彼らには「今から起きること」がうすうす分かっている。中居と香取の2ショットが約6年の時を経て叶う。その前まで、まるで日常として享受していたのに、ある日突然見られなくなったあの光景が。ここはそういう場なのだと。半狂乱に近い盛り上がりの理由はそれだ。
ファンのなかには口元に手を当てた例の「私の年収低すぎ」ポーズのまま固まってしまった人や、まだ香取が出てきていないにも関わらず泣き出した人もいた。今まで抑えていた感情が堰を切ったように流れ出しているのだろう。カメラはそんな観客の表情をつぶさにとらえていく。
SMAPに強い思い入れのない、ごくごく一般的なテレビ視聴者として、この番組を見ていて一番感情を動かされたのはここだった。うれし涙を流すファンの姿をみて、間接的に「ああ、共演が実現して本当によかったね」という気持ちが去来する。中居と香取の共演した瞬間それ以上に、「とんでもないことが起きた」という実感が持てたというか。その意味で、この番組の作り手が観覧客を入れたというのは、勘所をよくわかっているとしか言いようがない。中居と香取を共演させるだけでなく、それをファンに間近で見せる、それに大きな意味がある。
一方で、ここからは推測だが、放送するフジテレビにとっても、この「共演」をファンに見せることが、ある種の「禊」になっているとも感じる。
SMAPのファンではないが、外野から見てもかの日本を代表するスーパーグループの解散までの道程は異様であり不自然だった。28年という長大な歴史を持つグループにしては、あまりにも不義理な終わり方だったと思う。
思えばあの年、SMAPの解散は徹頭徹尾ファンを締め出した密室で決まっていった。メディアを通してさまざまな憶測が流れるが、肝心のメンバーたちの肉声はほとんど聞こえてこない。一旦は存続を表明し、生放送で彼らが何が起きているのか説明するのかと思えば、口から出てきたのは強大な権力者である所属事務所の社長への謝罪と感謝。結局グループは解散に傾き、最後まで彼らの口から真実が語られることはなかった。
当時フジテレビはその「ファン不在」の展開に、『SMAP×SMAP』という彼らの冠番組を放送する形で密接に関わっていた。今回の『まつもtoなかい』が、あの年、SMAPを喪失したファンへのせめてもの償いのように感じたのは僕だけだろうか。だからこそ、ほんのごく一部であるが、悲しませたファンにその再会の場を体験してほしかったのではないだろうか。ファン不在の密室で決まった解散であるなら、彼らを再会させる時には、ファンの前でなければ、と。
今回の放送は、(たぶん)関係各所への働きかけ、根回し、説得などいろんな大人がかけずり回って成し遂げた仕事だと思う。今書きながらふと、2010年代以降、日本のバラエティ史に残る「再会」はすべてフジテレビが手掛けていることに気づく。松本と爆笑問題・太田光の「再会」、お笑いコンビ・アンタッチャブルの「再会」、そして、今回の中居と香取の「再会」。
この3つの「再会」については、テレビのすごさをまざまざと見せつけられたし、本当にワクワクした。日頃はあーだこーだと言われがちな8チャンネルだが、彼らに期待することをやめられないのは、たまにこれがあるからなのだ。