シャン語
シャン語(Shan)は、言語分類的にタイ語と近い関係にある言語である。書き言葉としてはビルマ文字と部分的に共通するシャン文字が用いられる。タイ語でタイ・ヤイ(Tai-Yai)、タイ・ロン(Tai Long)と呼ばれている。話者はミャンマー北東部、すなわちシャン州全域とタイ北部に点在している。シャン州から国境を東にまたいだ中華人民共和国南西部の雲南省シーサンパンナ・タイ族自治州にもシャン族やシャン語話者がいる。
シャン語 | |
---|---|
လိၵ်ႈတႆ | |
話される国 |
ミャンマー タイ 中国 |
地域 | 東南アジア |
話者数 | 330万人 |
話者数の順位 | 126位 |
言語系統 | |
表記体系 | ビルマ文字 |
言語コード | |
ISO 639-2 |
shn |
ISO 639-3 |
shn |
社会言語学的状況
編集ミャンマー
編集2012年現在、ミャンマーの軍政下では、学校教育において少数民族の言語による授業を廃止しているが、かつての教科書を用いて私塾などで言語教育が行われている[1]。
タイ
編集タイのシャン人ディアスポラ社会においては、シャン人のエスニックアイデンティティの維持のためにシャン語教育が重要視されている。シャン人ディアスポラが存在するチェンラーイ県のルアムチャイ村(仮名)ではタイ語と中国語の文化的影響が強まり、シャン語の消滅が危惧されていた[2]。同村では2002年から青年組織タイ・ヌム(シャン語: တႆးၼုမ်ႇ)により、子供たちを対象としてシャン語とシャン文化の教育学習を行うサマーキャンプが実施されている[3]。
音韻論
編集頭子音
編集Egerod (1957) が挙げるシャン語の頭子音は以下の通りである[4]。
両唇音 | 歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 声門音 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鼻音 | m- | n- | ɲ- | ŋ- | |||||
破裂音等 | pʰ- | p- | tʰ- | t- | tɕʰ- | tɕ- | kʰ- | k- | ʔ- |
摩擦音 | sʰ- | s- | h- | ||||||
接近音 | w- | l- | r- | j- |
介子音
編集介子音としては、-j-, -w-, -r-の3つが現れる[5]。
母音
編集Egerod (1957) は、シャン語の母音体系を次のように分析している[6]。
/i/ | /ɨ/ | /u/ |
/e/ | /ə/ | /o/ |
/ɛ/ | /a/ | /ɔ/ |
/aa/ [aː] |
声調
編集- 上昇調 ̌ (˧˥)
- 低平調 ̀ (˩)
- 中平調 ̄ (˧)
- 高平調 ́ (˥)
- 下降調 ̂ (˥˧)
第2声、第4声、第5声は、しばしば声門閉鎖音やきしみ声を伴う[6]。
末子音
編集Egerod (1957) の挙げる「末子音」は以下の通りである[8]。
-m | -p | -w |
-n | -d | -j |
-ŋ | -k | -ɨ |
音韻史
編集文法
編集名詞句
編集名詞に対しては、それを修飾する形容詞・類別詞・指示詞などが後続しうる[10]。
動詞句
編集シャン語では動詞連続構文が多用される。動詞 (群) には法の標識 ・否定辞・継続相の標識が先行するほか、完結相の標識が後続する[11]。
関連項目
編集出典
編集- ^ 母語を守る戦い、ミャンマーの少数民族 AFPBBNews(2012年10月25日)2012年10月25日閲覧
- ^ Cadchumsang 2011, pp. 207–208.
- ^ Cadchumsang 2011, p. 144.
- ^ a b c Egerod 1957, p. 123.
- ^ Egerod 1957, pp. 122–123.
- ^ a b Egerod 1957, p. 122.
- ^ Egerod 1957, pp. 121–122.
- ^ Egerod 1957, p. 124.
- ^ Edmondson 2008, pp. 200–201.
- ^ a b Soh 2019, p. 30.
- ^ Soh 2019, p. 31.
参考文献
編集- Cadchumsang, Jaggapan (2011). A Study of Tai Ethnicity and Nationalism in a Thai Border Village (Ph.D. thesis). University of Toronto.
- Edmondson, Jerold A. (2008). “Shan and other Northern Tier Southeast Tai languages of Myanmar and China: Themes and Variations”. In Anthony V. N. Diller and Jerold A. Edmondson and Yongxian Luo. The Tai-Kadai Languages. London & New York: Routledge. pp. 184-206
- Egerod, Søren (1957). “Essentials of Shan phonology and script”. Bulletin of the Institute of History and Philology 29: 121-129.
- Soh, Jyr Minn (2019). Serial verb constructions in Tai Long Shan (M.A. thesis). Nanyang Technological University. doi:10.32657/10220/47853. hdl:10356/106030。
辞書
編集英語:
- Sao Tern Moeng (1995). Shan-English Dictionary. Kensington, Md.: Dunwoody Press. ISBN 0-931745-92-6. NCID BA28129233