UH-1N (航空機)
UH-1N ツインヒューイ
UH-1N ツインヒューイ(UH-1N Twin Huey)は、1969年4月に初飛行した中型軍用ヘリコプターである[1]。米ベル社製の本機は、1名のパイロットと14名の乗客分を合わせた15席配置があり、乗客に代わって貨物を搭載する場合では 6.23m3(220立方フィート)の収容能力がある。機外吊下げ(スリング)だけでは 2,268kg(5,000ポンド)が輸送できる。CUH-1N ツインヒューイが原型で、CH-135 ツインヒューイとしてカナダ軍から最初に発注された。
発展
ベル 205の胴体を引き延ばし、エンジンをツインパック方式に強化したベル 212は、元々はカナダ軍向けに開発され、CUH-1N ツインヒューイの名前が与えられていた[2]。後にカナダ軍は、新しい命名体系を採用したため、本機はCH-135 ツインヒューイという新たな名前が与えられた。カナダ軍は1968年5月1日に開発を承認した[1]。50機を購入し、1971年5月に引き渡しが始まった[3]。
アメリカ陸軍も自軍向けにツインヒューイの購入を計画していたが、下院の軍事委員会議長、L・メンデル・リバーズによって反対されたため、取得が危ぶまれる事態となった。リバーズは、ツインヒューイのエンジン プラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6Tがカナダ製であることから否定的な立場をとった。カナダ政府は、アメリカ軍の兵役逃れを受け入れていた様にアメリカのベトナム戦争への関与を支持しておらず、東南アジアに対するアメリカ政府の方針に反対していた。また、リバーズは、エンジンの取得がカナダとの貿易赤字になることも問題視した。議会は、PT6Tの代替にT400エンジンの獲得を確定した場合のみツインヒューイの購入を許可した。その結果、294機のベル 212が発注され、1970年に引き渡しが始まった[3]。
アメリカ軍は、カナダ軍と異なりUH-1の公式名称であるイロコイ(Iroquois)をUH-1Nでも採用したが、アメリカ軍の将兵達は、UN-1Nをヒューイ(Huey)または、ツインヒューイ(Twin Huey)と呼んだ[4]。
ベル 412は、ベル 212から更に発展したヘリコプターである。大きな相違は、メインローターのブレードを複合材製の4翅にしたことである[3]。
駆動・回転翼系統
2基のプラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6 ターボシャフトエンジンの2本のタービン出力は、PT6T-3/T400 ターボツインパックによって1本のローターシャフトへまとめて出力され、UH-1Nのメインローターを駆動する。それらは最高1,342kW(1,800shp)を生み出す。たとえ片方のエンジンが停止しても、残されたエンジンが30分間なら671kW(900shp)の力を、最大荷重下での巡航継続が求められる状況なら571kW(765shp)の力を発揮できる[3]。
アメリカ海兵隊(USMC)は保有する多数のUH-1Nに対して、飛行中の安定性を保つためにローターヘッドにサーボ入力を与える安定制御増大システム(Stability Control Augmentation System)を加える改修を施した。この近代化改修では、コンピュータ・システムが安定性を保つことで、メインローターヘッド頂部でジャイロとして働いていたスタビライザーバー(Stabilization Bar)を取り外すことになった。
運用史
戦歴
アメリカ海兵隊のUH-1Nは2003年のイラク侵攻の間、海兵隊によって運用された。UH-1Nは、地上の海兵隊部隊のために偵察と通信サポートを行なった。それらはナーシリーヤでの激しい戦いでは、近接航空支援(CAS)も求められた[5]。
記録的なスカイダイビング
1972年3月6日にアメリカ海軍第6南極開発隊(VXE-6)のハインドリック V. ゴリック(Hendrick V. Gorick)は、UH-1Nで20,500フィート(6,248m)の高度からジャンプした。これは南極大陸におけるパラシュートのスカイダイビングの記録を作った[要出典]。
展示機
- エア・モビリティ・コマンド・ミュージアム、ドーバーAFB、DE
- カナダ航空博物館、オタワ、オンタリオ[6]
派生型
アメリカ
- UH-1N イロコイ
- 最初に生産されたモデル。アメリカ空軍、アメリカ海軍、アメリカ海兵隊が運用。長年にわたって運用するアメリカ海兵隊は、アビオニクスの改善、防御装置、FLIRなど、いくつかのアップグレード機を開発した。
- VH-1N
- 要人輸送モデル[1]。
- HH-1N
- 捜索救難モデル[1]。
- UH-1Y ヴェノム
- 基本的にアメリカ海兵隊には、大型で過重のUH-1Nを交替およびアップグレードするため、AH-1W スーパーコブラからAH-1Z ヴァイパーへのアップグレードと共通コンポーネントを使用する類似した設計がなされた。
カナダ
- CH-135 ツインヒューイ
- カナダは、50機のCH-135を1971年に始まった引渡しで受領した。1996年にカナダ軍から退役が始まり、1999年12月には定数を削減された。そのうちの41機は1999年12月に米国政府が獲得し、コロンビア軍とコロンビア警察へ引き渡された[1][3][7]。
- CUH-1N ツインヒューイ
- 当初のUH-1N汎用輸送ヘリコプターのためのカナダ軍指定名[1][3]。
イタリア
- アグスタ・ベル AB 212
- 民間および軍事の汎用輸送型。イタリアのアグスタによるライセンス生産。
- アグスタ・ベル AB 212EW
- トルコに発注された電子戦型。
- アグスタ・ベル AB 212ASW
- アグスタの対潜水艦型および対艦型AB 212。イタリア海軍、ギリシャ海軍、イラン海軍、ペルー海軍、スペイン海軍、トルコ海軍、ベネズエラ海軍によって運用される[3]。
- AB 212ASWには、コックピット上に突起したドーム形のレドームがある。後のモデルでは平らなドラム・レドームに変わった。機体左側のウインチは、ベンディクス ASQ-18 ソナーを投入するためにも使用される。他にもECM、着艦時の固定機器アタッチメント、腐食保護などの追加による総重量5,080kg(11,197lb)のための構造強化を含む。武装は対潜水艦のため2つの爆雷か対艦のためMk 44またはMk 46魚雷2本と4発のAS.12空対地有線誘導ミサイルを装備できる[8][9]。
運用者
- アンゴラ
- アンゴラ空軍がベル 212を運用
- アルゼンチン
- アルゼンチン空軍が1978年からベル 212を運用
- アルゼンチン陸軍が1976年からベル 212を運用
- オーストリア
- オーストリア空軍が1980年からベル 212とAB 212を運用
- バングラデシュ
- バングラデシュ空軍がベル 212を運用
- バーレーン
- バーレーン空軍がAB 212を運用
- ボリビア
- ボリビア空軍がベル 212を運用
- ブルネイ
- ブルネイ空軍がベル 212を運用
- カナダ
- カナダ軍が1972年-1998年までCH-135を運用した
- 第403機種転換隊(403 Helicopter Squadron)[10]
- 第408戦術ヘリコプター隊(408 Tactical Helicopter Squadron)[11]
- 第422戦術ヘリコプター隊(422 Tactical Helicopter Squadron)1980年8月16日解散[10]
- 第424輸送救難隊(424 Transport & Rescue Squadron)[12]
- 第427戦術ヘリコプター隊(427 Tactical Helicopter Squadron)[13]
- 第430戦術ヘリコプター隊(430 Tactical Helicopter Squadron)[14]
- 第444戦闘支援隊(444 Combat Support Squadron)[15]
- 第32海軍多用途隊(Utility Squadron VU 32)[16]
- 航空宇宙工学試験機関(Aerospace Engineering Test Establishment)[17]
- コールドレイク基地隊(Base Flight Cold Lake)[18]
- グースベイ基地救難(Base Rescue Goose Bay)[15]
- 多国籍監視軍(Multinational Force and Observers), 1986-1990[19]
- コロンビア
- コロンビア空軍がAB 212を運用
- コロンビア陸軍がUH-1NとCH-135を運用[7]
- コロンビア海軍がベル 212を運用
- コロンビア警察がベル 212とCH-135を運用[7]
- クロアチア
- 特殊部隊がAB 212を運用
- クロアチア警察がAB 212を運用
- エクアドル
- エクアドル空軍がベル 212を運用[20]
- ギリシャ
- ギリシャ空軍がAB 212を運用
- ギリシャ陸軍がAB 212を運用
- ギリシャ海軍がAB 212ASW/EWを運用
- グアテマラ
- グアテマラ空軍がベル 212を運用
- ガイアナ
- ガイアナ軍が1975年-1990年までベル 212を運用した
- イラン
- イラン空軍が1978年からAB 212を運用
- イラン海軍がAB 212ASWを運用
- イラク
- イラク海軍が1984年-2003年までAB 212ASWを運用した
- イスラエル
- イスラエル空軍がベル 212を運用
- イタリア
- イタリア空軍がAB 212を運用
- イタリア海軍がAB 212ASWを運用
- レバノン
- レバノン空軍がAB 212を運用した。現在は退役しており、空軍博物館に1機が展示されている。
- リビア
- リビア空軍がベル 212を運用
- マルタ
- マルタ軍がイタリアの援助を受け、AB 212を運用
- モロッコ
- モロッコ空軍がベル 212を運用
- ミャンマー
- ミャンマー空軍がVIP輸送用にベル 212 若干機を運用したといわれる。
- ペルー
- ペルー海軍航空隊がAB 212ASWを運用
- フィリピン
- フィリピン空軍がベル 212を運用
- サウジアラビア
- サウジアラビア空軍がAB 212を運用
- シンガポール
- シンガポール空軍が1985年にスリランカへ売却するまでベル 212を運用した
- ソマリア
- ソマリア空軍がAB 212を運用
- 韓国
- 韓国空軍が1971年からベル 212を運用
- スペイン
- スペイン陸軍がAB 212を運用
- スペイン海軍航空部門がAB 212 ASWを運用
- スリランカ
- スリランカ空軍がベル 212を運用
- スーダン
- スーダン空軍がAB 212を運用
- タイ
- タイ王国陸軍が運用
- タイ王国海軍がベル 212を運用
- チュニジア
- チュニジア空軍がベル 212を運用
- トルコ
- トルコ陸軍がAB 212を運用
- トルコ海軍がAB 212 ASWを運用
- ウガンダ
- ウガンダ軍がAB 212を運用
- 内戦中はロケットランチャーを装着して武装ヘリコプターとして運用していた。
- アラブ首長国連邦
- イギリス
- 陸軍航空隊がベル 212を運用
- アメリカ合衆国
- アメリカ空軍が運用
- アメリカ海兵隊が運用
- アメリカ海軍が運用
- ウルグアイ
- ウルグアイ空軍がベル 212を運用
- イエメン
- イエメン空軍がAB 212を運用
仕様 (USMC 改修型 UH-1N)
出典:USMC UH-1N Fact Sheet[21], The International Directiory of Military Aircraft, 2002-2003[22] 諸元
- 乗員:4名(操縦士、副操縦士、チーフ、射手)
- 定員:武装兵士6-8名または同等の貨物
- 全長:12.69m(41ft 8in)
- ローター直径:14.6m(48ft 0in)
- 全高:4.4m(14ft 5in)
- ローター回転面積:168.0m2(1,808ft2)
- 空虚重量:2,721.5kg(6,000lb)
- 運用時重量:4,762.7kg(10,500lb)
- 実用搭載量:2,038.0kg(4,500lb)
- 最大離陸重量:4,762.7kg(10,500lb)
- 動力:プラット・アンド・ホイットニー・カナダ T400-CP-400 ターボシャフト, 各900shp(671kW), 計1,250shp×2
性能
- 最大速度:220km/h=M0.18(135mph, 120ノット)
- 巡航速度:207.3km/h=M0.17(126mph, 110ノット)
- 航続距離:460km(286mi)
- 実用上昇限度:5,273m(17,300ft)
- 上昇率:8.9m/s(1,755ft/min)
武装
登場作品
出典
- ^ a b c d e f Mutza, Wayne: UH-1 Huey in action, pages 31-33. Squadron/Signal Publications, Carrollton, Texas, 1986. ISBN 0-89747-179-2
- ^ Air Force Public Affairs / Department of National Defence (May 19, 2004). “Bell CH-135 Twin Huey”. 2007年10月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g Drendel, Lou: Huey, pages 14-17. Squadron/Signal Publications, Carrollton, Texas, 1983. ISBN 0-89747-145-8
- ^ Drendel, Lou: Huey, page 9. Squadron/Signal Publications, Carrollton, Texas, 1983. ISBN 0-89747-145-8
- ^ Stout, Jay A. Hammer from Above, Marine Air Combat Over Iraq. Ballantine Books, 2005. ISBN 978-0-89141-871-9.
- ^ Canada Aviation Museum (undated). “Bell CH-135 “Twin Huey””. 2008年12月13日閲覧。
- ^ a b c Walker, RWR (2006年6月). “Canadian Military Aircraft Serial Numbers Canadian Armed Forces CH-135 Twin Huey detailed list”. 2008年12月2日閲覧。
- ^ Green, William: Observers Aircraft, page 229. Frederick Warne Publishing, 1980. ISBN 0-7232-1604-5
- ^ Wood, Derek: Jane's World Aircraft Recognition Handbook, page 490. Jane's Publishing Company 1985. ISBN 0-7106-0343-6
- ^ a b Air Force Public Affairs / Department of National Defence (June 13, 2007). “403 Squadron Activated as Operational Training Squadron”. 2007年10月23日閲覧。
- ^ Air Force Public Affairs / Department of National Defence (June 13, 2007). “408 Tactical Helicopter Squadron (THS) History”. 2007年10月23日閲覧。
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- ^ Shaw, Robbie: Superbase 18 Cold Lake- Canada's Northern Guardians, page 86. Osprey Publishing, London, 1990. ISBN 0-85045-910-9
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- ^ USMC UH-1N fact sheet, USMC. Retrieved 4 September 2008.
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- Specifications for 204, 205 and 214 Huey Plus
- Mutza, Wayne. UH-1 Huey in Colors. Carrolton, TX: Squadron Signal. ISBN 0-89747-279-9