TL;DR
- マネーフォワード 京都開発拠点に外国籍エンジニアが入社して起こった変化
- ガイコクジンに対する苦手意識の軽減
- とはいえ異なる言葉でコミュニケーションする壁はまだまだある
はじめに
先日、弊社マネーフォワードの大阪開発拠点長 1 の @okeicalm がアドベントカレンダー25日目の記事を書いた。 これを読んでいて、「そういえばこういう変化が自分の中でも生まれたな〜」と思うことがあったのでメモしておく。
前提
まずこれまでのぼくの経歴というか歴史的な背景から。 多くの日本人がそうであると思う(最近は事情が変わってきてるかもしれない)が、ぼくはこれまで外国籍メンバーとあまり働く機会がなかった。 外国籍メンバーと働いてるときもだいたい彼ら、彼女らは日常的なコミュニケーションが可能なレベルで日本語が話せるため、多少困ることはあっても解決可能な状態だった。
そのため、あまり日本語を話すのが得意でないメンバーと働くのはいまの会社が始めてとなる。
また、例に漏れずぼくも英語は苦手でマネーフォワードに入った5年ほど前に社内の有志で実施したTOEICの模擬テストは300点台だった。 このTOEIC300点というのは中学2年生レベルの英語文法や語彙などの基礎が出来ていない状態だと思ってもらってよい。 なので、「英語ができない」のレベルとしてどれくらい酷い状態か分かると思う。
同僚に外国籍エンジニアがいるということについて
ぼくは京都拠点で普段働いているので先程の note 記事で紹介されていた「マネーフォワード クラウド アプリポータル」のチームメンバーと一緒になることが多い。 記事内でも言及があるけど
海外から日本語を話せないエンジニアを採用し、チームの一員として所属してもらうことで強制的に英語で仕事をする環境を作ることにしました。
という状況だったので、うまくコミュニケーションできるのか?コミュニケーションできないことで彼ら・彼女らを失望させて退職する理由にならないか戦々恐々としていた。 幸いというか同じ拠点で働く同僚が過去に英語で仕事がしたことがあるということで、受け入れも親身になっていて「これ伝えたいけどうまく英語に出来ない、ごめん通訳して!」とサポートしてくれたのもあって当初懸念していた(ぼく側の)不安はほぼほぼ払拭できた。
一緒に働いていた外国籍エンジニアは「こいつ英語できねえな……」と思ってたと思う。すまん。でもいつも「最近のluccaはあったときよりも英語が話せるようになってきたね!(笑)」みたいにいってくれてるのでちょっとはマシになってると思うw
外国籍エンジニアが同僚になって個人的に良かったなと思うことがいくつかあるので書き出しておく。
- 日本語が話せない人に話しかけられても焦らなくなった
- 平易(やさしい)な英語や日本語を話すことを意識するようになった
- 海外との距離が近くなった
- 海外カンファレンス登壇や海外カンファレンス参加の心理的ハードルが下がった
- 英語に触れる回数が増え、苦手意識が徐々に下がってきた
日本語が話せない人に話しかけられても焦らなくなった
まず1点目。日本語が話せない人に話しかけられても焦らず返答できるようになった。 最近、インターネットでは「日本に来たんだから日本語を話せ!」という論調をよく見かける、ある意味でそれはその通りな面もあると思うんだけどたかだか1地域でしか使われない言語をそのために学ぶというのは難しいと思う。 あと自分が海外旅行にいったときに「ここはXXXなんだからXXXを話せ!」と言われたら困る、自分がやられて嫌なことは相手にもしたくないし、あまり排他的な文化やふるまいがぼくは好きでないのでというのもあり、できるだけ親切でありたいと思ってる。 これは自分のスタンスなので周りに強制するものでもないけど、一応そういう意識があると言う前提で話を進める。
で、いままでは前述したように英語が壊滅的にダメダメだったので英語で話しかけれても「This!This!」「Yes/No」くらいしか返せなかった。相手も「これは通じてないなぁ……」と困り顔をしていることが多かった。 そうすると苦手意識がドンドン高くなってしまい、英語で話しかけられるとウッ…!と身構えてしまい、焦って余計に英語が出てこないという悪循環に陥っていた。
が、同僚に英語話者がいるとこの苦手意識が軽減する効果を実感することになった。実感し始めたのはTOEIC500点を超えたあたりだっただろうか。 TOEICの点数がとにかく低い(以下のブログによるとTOEICの平均点が600点前後なのでその半分、学校のテストなら赤点レベル)ので会社が提供してくれた学習支援制度や当時の上司からのハッパをかけられていたこともあり、3ヶ月ほどで300→500にステップアップできたのだが、そのあたりから「相手がなにをいってるか」がわかるようになってきた。正確には「こういうことが言いたいのだろうな」と推測ができるようになってきた……が正しい。 100%聞き取れるわけではないが、いくつか語彙が欠落しても全体として「あ。なんかオススメのランチのお店を聞いてそうだ」とわかる、みたいな感覚が近いかも。
TOEICは会話の役に立たないというのはその通りなんだと思う。実際にTOEICで出てくる語彙や言い回しは難しすぎたり、実際の会話では登場しないものも多くある。 反面、ぼくのようにそもそもの基礎が出来ていない人にとっては点数というわかりやすい指標で計れるようになるのはよいかもしれない。 だが、TOEICの勉強をしていて「毎日1時間以上頑張ったからきっと点数がよくなってるに違いない!」と思って点数が下がるとめちゃくちゃやる気がなくなるので、このあたりはビッグバンリリースではなくもっと細かくフィードバックループを返してほしい。 頑張ったのに点数が上がらないどころか下がるとマジでメンタルに来るし、やる気が3ヶ月くらい戻ってこない。
閑話休題。ともあれ相手がいってることが「なんとなく」でもわかる、返答できる状態になると焦ることが少なくなってきた。 聞き取れなかったり、わからない単語に遭遇したときも「Sorry?」と返せばいいとか周りの同僚がどうしているかを知る機会にも恵まれてちょっとした会話におけるトラブルはだいぶ減った気がする。 それでも長文が返ってくると「Oh……」ってなるけど。
平易(やさしい)な英語や日本語を話すことを意識するようになった
当たり前なんだけどぼくら日本語ネイティブな人間と英語ネイティブな人間の語彙力は違う。 語彙力や表現力の違いはそのままコミュニケーション能力の差になる。どれくらいディティールを表現できるか?は意図を伝えるときに重要な要素になる。 ……んだけど、日常生活のちょっとした会話ではそこまでのディティールはいらないこともある。 「ランチ行こうぜ!」と声をかけるときは「Let's go to Lunch now!」とか言えばいいし、相手も「Yeah, where are we go?」みたいな感じで返してくれる。 マジで中学生レベルで会話が成り立つ。もちろん仕事をする際にはもっと多くの語彙が必要になったり、文法表現も含まれてくるけど前提としてぼくが英語が苦手だと相手に知ってもらえているのでぼくでも理解できる英語で返してくれる。 いわゆる「やさしい日本語、Easy English」みたいなものだと思う。このあたりの取り組みはメルカリさんのやつが有名なので記事を貼っておく。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001388841.pdf
ともあれ、「不安がある」状態から「(Easy|やさしい)ならできる」状態への移行を経験すると相手の立場にたつことができる。 「あ、この日本語難しかったかな?」と思ったときに言い換えたり、そういった経験値が積み上がっていくことで自然やさしい日本語や理解できる程度にゆっくり話すという筋力ができていく。 語学は使うことで鍛えられるとはよく聞くがまさしくその通りな現象に遭遇した。
海外との距離が近くなった
これはあまり予想していなかったのだけど、海外との距離が近くなったなと感じている。 以下のブログでも書いたけど2月に香港に旅行にいった。
ぼくは言葉が通じないことに不安を覚えていたので「海外旅行をしてみたいけど尻込みしている」典型的な日本人だった。 ツアーでいけばいいんだろうけど、時間もお金もかかるので小学生以来(このときは親が連れて行ってくれたので特に何も考えていなかった)海外旅行にいったことがなかった。
外国籍エンジニアが入社したこと、今後増す増す比率が高まっていくことを考えたときに「そのうち、海外カンファレンスにスポンサーするとか登壇する人が現れるかもしれない。そうなったときに海外にいったことほぼない状態はネガティブに働いてしまうかも……」と考えていた。 なので、2024年の目標の1つに「海外カンファレンスにCall for Paperを出してみる」というものを考えていた。 それまで自分で海外旅行も行ったことがなかったので、万が一登壇することになったときの練習として旅行にいくというこれまでの自分だけでは実践しない挑戦ができた。
最悪、仲間がいればなんとかなるな〜と思えたこと、一緒にいくメンバーが英語ができる(というか1名は英語ネイティブだしね)というのは安心して海外旅行に挑戦できた。 そういったこととは関係なく海外旅行にいっている人もいると思うが、体験していないことに挑戦するのは何歳になろうとどんなことであろうと勇気が必要になる。
その必要になる勇気の総量を同僚がいること、一緒に旅行するメンバーが同僚だったことで軽減でき、1度体験したことで「海外に行く」というぼくの中の一大イベントが中規模イベントくらいになったように思う。 実際、2025年の何時頃になるかわからないが香港に一緒にいったメンバーで「ロンドンに行こう!」という話をしている。 これもこれまでの自分の中では想定していなかった発想なので、自身の変化にポジティブな気持ちになっている。
海外カンファレンス登壇や海外カンファレンス参加の心理的ハードルが下がった
上記でも書いたが今年の目標の1つが「海外カンファレンスにCall for Paperを出してみる」だったので実際に出してみたところ、GopherDay Taiwan 2024に採択してもらえた。 そのときの話は以下に書いたので割愛する。
もし、同僚に英語ができるメンバーがいなかったらかなり苦労しただろうなぁと思う。 というのも今回の登壇ではかなりレビューや表現などで助けてもらうことがあったからだ。 「ここの文章は何を言いたいのかわからない、どういうことが伝えたいの?」であったり、「この表現は英語ネイティブなら伝わるけど、そうじゃないと難しすぎるかも」と教えてもらったりした。 なによりも「Easy English」に書き換える部分でとても助けてもらった。
あとは発音ですね。 DQNEOさんの以下のドキュメントでも書かれているけど、発音は大事だが基本は「通じればいい」。 やはり我々はJapanese Englishな発音になってしまうので、相手が聞き取れない可能性が高く、何度も「ここの発音はこうだよ」とか「この発音は難しそうだからもっとやさしい表現に変えよう」といったフィードバックをもらえたのは海外カンファレンス登壇においてはとても大きな利点だったと思う。
この点、どれだけ英語がうまい日本人がいたとしても、Japanese Englishな可能性を捨てきれない点や様々な発音に触れている外国籍エンジニアのアドバイスはとても心強かった。 あとレビューをしてくれた外国籍エンジニアや日本人メンバーはめちゃくちゃ褒めてくれるのがうまくて「ここの発音めっちゃいいよ!」とか「抑揚があるとダイナミックに感じていいかも!」と伝えてくれた。 本当に感謝している。
英語に触れる回数が増え、苦手意識が徐々に下がってきた
やはり日常の中に英語がある、英語で話す機会があるというのは大きなメリットだと思う。 正直なところ、面倒だなと思うことがないわけではない。 反面、これまで散々書いているように英語でのコミュニケーション回数は日本語が第二言語なメンバーと一緒に働くことで圧倒的に増えた。
正直なところ、ぼくが英語を覚える速度よりも彼ら、彼女らが日本語を覚える速度のほうが圧倒的に早いのだけどお互いに苦手な領域があるとわかっているとどちらかが伝えやすいコミュニケーション言語にスイッチすればいいと思えるので苦手意識が外国籍エンジニアが同僚、同じ拠点にいる前と後では大きく変化したと思う。 これは本当に得難い機会だと思っていて、最近では観光客以外にも京都に住む外国籍の方が増えてきた。 ぼくは京都の下町に住んでいるのだが、インド近辺から移住されたと思しき方(イントネーションから判断してるが実際はわからない)を見かける機会がとても増えた。
先日も新幹線で東京から返ってくる際に中国系の方か、東南アジアの方が新幹線の席をぼくと間違えていたが問題なくコミュニケーション(話したのは2〜3会話)できた。 以前なら途方に暮れてどう話しかけるか悩んでいたか、あるいは駅員さんに頼っていたんじゃないかと思う。 英語を学習することが目的ではなく、会話やコミュニケーションをするという意味において最もハードルが高いのはこの心理的な面であり、日常的に簡単な英語でも会話をしているとこのハードルが思いの外下がっていることに気づく。
これは本当に人生におけるよい経験をさせてもらっていると実感している。
想定外の効果についても触れておく
ここまでいいことを主に書いてきたが、当然いいことばかりではない。 例えば、これまでは文化的なコンテクストがほぼ単一だったので考慮しなくてもいいことが考慮しなくてはいけなくなったり。 特に宗教関係は日本人的感覚と海外では大きく異なるので気をつけているがどこまで配慮するのがいいかさじ加減が未だにわからない。
飲食関係などはまだわかりやすく、アンケートなどで事前に集計をしておけばいいのだが、その分お値段が上がってしまうのでそれを考慮した計算をしないといけなかったり……。
いままでは考えなくてもよかった、と言えるかも知れないがおそらく少数派を無視していた(無視できていた)だけでそれが可視化されただけなのかなと考えている。
他にも日本人(主に日本語しかわからない人)と外国籍エンジニアが参加するイベントは日英併記するようにしているが、そうすると文字数が増えすぎたり、日本語は短いが英語が長い、あるいはその逆のような現象が発生し、参加者からは「読みにくい」と クレーム フィードバックをもらうことがある。
しかも、この併記はかなり脳内スイッチングコストが高くて無駄に疲れる。どちらかに寄せてほしいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!といつも悩んでる。
最近は生成AI系のサービスも充実してるのでツールで解決できることは積極的に解決していきたい。 それこそが「AI利活用が進んでいる企業じゃない?」と思う。反面、やはりコミュニケーション……特に会話は生成AIだけではカバーできないこともある。 そういう意味では英語学習は必要なんだけど、これってつまり終わりのない学習を続けることになるので正直疲れるなぁ……と思うことがある。 自分の中にモチベーションを保つ何かをメンテする必要があり、そこは結構意識的に取り組まないといけないなぁと感じている。 現在、自分の所属するチームにはEnglish Speakerなメンバーがいないので、そうなったときは「やらなければいけない」環境になるし、そうしていきたいなと思っている。
あと個人的に感じている課題として、弊社マネーフォワードは「 エンジニア組織 の英語化」を標榜している。 つまり、エンジニア以外の職種に関しては英語化は言及されていない。 いないんだけど、公用語が英語になる影響をエンジニアという職種だけで収められるか?と言われるとこれは懐疑的だとぼくは考えている。
- 問い合わせを受けたCSやセールスの方がエスカレーションした先のエンジニアがEnglish Speakerだったら?
- デザイナーが作成したワイヤーフレームのままだと実装しにくいので変更してほしいとEnglish Speakerのエンジニアが考えたらどう伝える?
このような状況が考えられる。 恐らくどこかのタイミングで全社の社内公用語が英語になるんじゃないかと思う。だってグローバルテックカンパニーを目指す!ってCTOが言ってるし。 英語化する組織のフェイズがいくつかある内の1つがエンジニア組織の英語化なんだろうなーと思ってる。 いまはその過渡期なので上記のような状況が発生すると社内の日本語がわかるエンジニアがブリッジする必要がある。 こう書くと「日本人エンジニアがそれをさせられる!」と誤解を招くかもしれないが恐らくそうはならないんじゃないかなぁとは思ってる。 もちろん、そういう事態もあるだろうけど、弊社は週2回出社がある。そのため、フルリモートでは働けない、その条件を飲んで入社してくれたメンバーなので「日本語を覚えることに前向き」なのだ。
前述した通り、ぼくが英語を覚えるよりも彼ら、彼女らが日本語を覚える速度のほうが早い。 サポートは必要かもしれないが、日本人だけが損をする……みたいな状態にはならないんじゃないかなーと思ってる。 何より彼ら、彼女らは日本が好きで来日してくれて一緒に働いてくれているのだ、このモチベーションは日本でしか働いたことがないぼくには計り知れないくらい高いものがあると実感している。 課題もあるだろうけど、乗り越えるための仕組みは考えられると思うし、一緒に働いているメンバーをみていると「問題はあるかもしれないけど乗り越えられるんじゃないかな」と楽観視している。 正直な話、英語化が始まった当初はかなり懐疑的だったが、この3年ほど?の間にかなり意識が変わってきた。これはやはり実際に同僚として接する回数が増えたからじゃないかなーと思ってる。
まとまりのないまとめ
という感じで、英語化して起こった自分自身の変化を思い出しながら書き出してみた。 個人的な感想だが「英語を使うということは英語圏の文化を学ぶということ」だと思う。
言葉というのは文化や習慣ととても密接にリンクしている。 言語を使うためにはその背景となった文化やコンテクストにアクセスする必要が出てくる、何を問題だと考えていて、どうしてそうなったのか……。 まさしく言語の歴史を学んでいる感覚がある。
ぼくは元々歴史学科出身(といっても中退したので正確に名乗れるわけではない)なのでこの「言語の背景にある文化や風習を学ぶ」ことが楽しめている。 反面、TOEICのような勉強はやはり苦手で必要なのだろうと理解していても、「うげー!」という苦手意識がある。 ひとまず、会社が求める最低限のTOEICの基準には到達したのでこれをベースにもっと彼ら、彼女らとコミュニケーションできるように2025年は挑戦していきたいと思う。
まずは自分が所属するチームがグローバル化することを目指すのかなー。