昨日のエントリーで言及した論文を、著者3人の頭文字と発表年で略して [DDR2009] として参照することにします。
- Title: Cartesian effect categories are Freyd-categories
- Authors: Jean-Guillaume Dumas, Dominique Duval, Jean-Claude Reynaud (2009)
- URL: http://hal.archives-ouvertes.fr/docs/00/39/48/54/PDF/seqArxivV3.pdf
- Pages: 23
「デカルト作用圏によるプログラムの意味論 (たぶん、その1)」の最後で「これ、面白いですね。」と書いたのですが、[DDR2009]の方法は僕の好みにあうというか、どうでもいい趣味的なところでも共感したりするのです。
で、どうでもいいことを、脈絡もなく書きます。
単なる作用圏(effect category)は、一般的過ぎてとりとめもなく、使いにくい気がします。やっぱり、デカルト構造を載せたデカルト作用圏(Cartesian effect category)のほうが実用には向いているでしょう。デカルト作用圏の純射(pure morphism)からなる部分圏は、普通の意味でデカルト圏です。純部分圏に限定したデカルト積は、純積(pure product)ってことなのでしょう。
一般に(デカルト積に限らず)モノイド積は純積といっていいでしょう。モノイド積はその定義から、必ず交替律(interchange law)を満たしています。交替律は、ある種の可換性の主張だと解釈できます。その意味で、積が純粋(pure)であるとは交替律を満たす/可換である*1ことだと言ってもいいと思います。まとめると、次の簡単な定義になります。
- 純積 = 交替律を満たす積 = モノイド積
- 不純な積 = 交替律を満たさない積 = モノイド積じゃない積
[DDR2009]では半純積(semi-pure product)って積を定義しているのですが、完全に不純じゃないのは次の理由のようです。
半純積は左右の2つがあり、これらから K×K で定義された順次積(sequentical product)を構成できます。順次積は交替律を満たさないので、その意味では不純な積です。非可換な積ともいえます。もちろんモノイド積にはなりません(正確には、「なるとは限らない」)。でも、モノイド積から極端に離れているわけではなくて、プレモノイド積(premonoidal product)と呼ばれる範囲に収まっています。
デカルト作用圏が楽しいのは、純粋な射だけではなくて、不純な輩<やから>がイッパイ住んでいることです。純部分圏Cは純粋な世界ですが、その外にも広大な(かどうかはホントは分からないが)不純な汚濁した土地が広がっています。
デカルト作用圏では、純粋/不純以外に射の二項分類法があります。射の作用(effect)が定義できるので、作用があるなしで射を分類できます。[DDR2009]では、作用を持たない射をズバリ無作用(effect-free)と呼んでますが、衛生的とか清潔(sanitary, clean)と呼んだら良さそう。純粋な射はもちろん清潔です。清潔でない射は汚い(dirty)射かな? -- 悪乗りしてます。
順次積を非可換な掛け算と思って、どんな射とも可換となる射は中心射(central morphism)と呼びます。この形容詞「中心(的)」の用法は割と普通です。中心射は、純射/清潔射よりも広い概念で、作用を持つ中心射の例を作れます。中心射は、ほとんど純粋射と同じように扱えて、温厚で礼儀正しい住人ということになるでしょう。
結局、中心にいない周縁射(marginal morphism)の扱い方が問題になります。「ヒャッハー」とか叫んでいる連中です*2。
今日気がついたのですが、純部分圏に、デカルト積(直積)だけではなくてデカルト和(直和)も入れて、デカルト和を周縁部まで拡張することができます。要するに、デカルト半環構造(Cartesian semiringal structure)を作用圏の上に載せることができます。
デカルト積とは違って、デカルト和は、そのまま何もしなくても作用圏の全域に拡張できます。純粋なまま拡張できます。つまり、デカルト半環作用圏(Cartesian semiringal effect category)では、デカルト和は純粋な和であり、交替律を満たすモノイド圏を定義できます。この事実は、タプル成分が副作用を持つなら評価順序に影響されるが、場合分けには副作用の影響が及ばないことに対応します。
以上の事実から、デカルト作用圏 → デカルト半環作用圏 という拡張にはほとんどコストがかからないことになります。足し算(デカルト和)があれば便利な状況は多いので、これはラッキーだと思います。半環圏は、ステファネスク師匠の道具であり、シャイ・ハランがエフイチ(一元体)へのアタックにも使っています。意味のある構造なんじゃないかなー、と思えるのです。