限度額引き上げの裏で「iDeCoステルス改悪」?
iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の拠出限度額が大幅引き上げになる、という2024年度税制改正大綱が話題となっていますが、ネットでは「iDeCo改悪」「iDeCoステルス改悪」というキーワードが散見されます。
改正によってiDeCoの限度額がどのくらい上がるのかに関しては、別の記事で解説します。
関連記事:「iDeCoの壁」撤廃!改正で限度額はどのくらい上がる?「iDeCoファースト」戦略は見直すべきか
改悪といわれているのは、確定拠出年金(DC)を一時金で受け取る際の「退職所得控除」の制度変更に関してです。
今まで、「iDeCoの一時金を退職金より先」に受け取り、「5年後に退職金などを受け取った」場合のみ、iDeCoはiDeCoの加入期間に基づく退職所得控除が利用でき、5年後の退職金については勤続期間に基づく退職所得控除を利用できる、という定めとなっていました。
今回「5年後」の間隔を「10年後」に伸ばし、その範囲内でひとつの退職所得控除を二つの受取額でシェアするというものです。
確かに別々で退職所得控除を使っていいか、そうでないかを比較すれば大きな差なので、「iDeCo改悪」といわれているわけです。
実際のところ、これは改悪というか「抜け道」あるいは「裏技」だったものがふさがれたという見直しです。
そもそもの大原則は、「iDeCoや退職金・企業年金制度、中小企業退職金共済制度や小規模企業共済などの退職所得控除はもっとも大きな控除額ひとつをシェアするもの」です。
なぜか、「iDeCoが先」「退職金を5年後」にした場合だけ、別カウントとなっているおかしな状態でした。
実際のところは「裏技」がふさがれただけだが、遅きに失した感
「iDeCoが先で退職金を5年後」を私は「裏技」という言い方をしました。その理由は、個人が選択できる余地がないからです。
iDeCoのほうは本人が60歳になったらすぐ受け取ることは可能です。しかし、退職金などは会社のルール次第なので個人の選択の余地がありません。早期退職して「早く退職金をもらう」ことは自由ですが、60歳で定年退職の会社において「遅く退職金をもらう」ことはできないわけです。
継続雇用で65歳まで働く場合も、退職金は60歳で払ってしまう会社が多く「退職金を5年後」に受け取ることはできません。
つまり、65歳で定年退職の会社であるか、企業年金について65歳から支給開始とする選択肢がある会社でなければ、そもそもの選択の余地がないわけです。そして、それは会社が決めることで個人が選ぶことではありません。
65歳で定年退職の会社員だけが退職所得控除を二重取りできる、というのもおかしな話ですから、これはいつかは修正されると予想されていました。
(ちなみに「iDeCoが先」の取り扱いは2001年の確定拠出年金法スタート時から変えていなかった)
ただし、65歳で定年退職の企業が3割近くに増えるなど、二重取りのチャンスが増えていたのも事実で、これは行政の対応の遅れが炎上を招いたといえます。
実は「退職金が先」で「iDeCoが後」の場合、最大20年後まで追いかけて退職所得控除をシェアするという規定が2年前に設けられています。これは、iDeCoは70歳から75歳まで給付を遅らせることができることになった法改正に伴う措置です。遅くとも、このときに「iDeCoが先」も修正をしておくべきだったと言えます。
「遅きに失した」というところは国のミスですが、本来のルールからすれば「抜け道」「裏技」がふさがれたといえます。
(もちろん、チャンスのあった個人からすれば改悪といえますが、法の原則を変更したというより原則に合わせた手直しだと思います)