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「空賊ハックと蒸気の姫」どこかジブリを感じさせる、大人が心躍るスチームパンク×ジュブナイル
2025年2月10日 12:00 PR井上智徳「空賊ハックと蒸気の姫」
物語の舞台は、謎の鉱石から発される蒸気の力を利用し、人々の生活の場が空へと移った世界。落ちぶれた実家の復興を目指し、トレジャーハントで一攫千金を狙う空賊の青年・ハックは、仲間たちとともにまだ見ぬ宝を探しながら万年金欠の旅を送っていた。そんなある日、ハックたちは人狼に追われる少女と出会ったことで、空の時代を揺るがす大きな事件に巻き込まれていく。マグコミで連載中。単行本最新2巻が2月10日に発売された。
文
スチームパンクと青春・冒険という幸福な融合
スチームパンクというやつは、冒険物語やジュブナイルとやたらに相性がいい。それは、日本の場合、宮崎駿監督作品、ジブリ作品などが植え付けたイメージも大きいだろうが、本質的にもつながる部分があるのだと思う。
スチームパンク的な想像力の核には、産業革命の原動力である蒸気機関がある。文芸評論家・三浦雅士が「青春」という概念は産業革命に伴う産業資本主義の伝播とともに広がっていったと指摘しているが、産業革命時代自体が現代から見ると社会の青春時代だったようにも思える。新しい科学技術が新しい時代を切り拓いていく革新と拡張のイメージは、若者の未知への挑戦や冒険心と重なり合う。
若き空賊の冒険を描くジュブナイルファンタジー「空賊ハックと蒸気の姫」には、そういうスチームパンクとジュブナイルのワクワクが詰め込まれている。蒸気を放つ謎の鉱石発見から飛行船はもちろん、街自体も空に浮かび上がるようになった世界、むき出しの配管に鉄とレンガと木の街並み、レトロなエレベーターに、雲から水をつくる機械……。作者の
もちろん物語も活劇的な魅力に溢れている。特に第1巻は、若き空賊・ハックたちが1人の少女と出会い、そこから世界の運命にもつながりそうな冒険が始まる過程が、日常の物語とともに描かれていく。1冊かけて壮大な映画の幕開けを見せられるような構成だ。
少年少女だけでなく、大人も奮い立たせるジュブナイル
さて、ジュブナイルは少年少女の成長を描いた物語であると同時に、ときにティーン向けの作品と定義されることもある。だが、本作は大人になったからこそ胸を打つ物語にもなっている。
もちろん、ハックたち一味の冒険が年齢を問わず胸弾むものになっていることもある。貧乏暮らしだけど、一攫千金を夢見て冒険とお宝探しに明け暮れる若者の物語は、大人たちにとって懐かしくもあり、まばゆく心を動かす。高いところから落下しても「ドーン!」「いてて」で済まされる、グッドオールドデイズな活劇の嘘も心地よい。
だが、本作が大人をくすぐるのはそれだけではない。例えば、発売されたばかりの2巻収録のエピソードがわかりやすい。
お宝探しのなかで、ハックはかつて自身が所属していた空賊ギルドの本拠地へ向かうことになるのだが、そこは昔とは大きく様子が変わっており、世話になっていた親分、ドン・ベリーニもレジスタンスのような存在になってしまっていた。そんなドンに、ハックたちが手を貸すことになる。
ここには2つの物語がある。ひとつはもちろんハックたち若者の物語。大事なものを壊していく敵を倒し、取り戻すという気持ちいい「獲得」の活劇だ。
そして、その裏にあるのがドン・ベリーニたち、ロートルの物語だ。
物語におけるロートルにはいろんな役割がある。乗り越えるべき壁になることもあれば、若者を導く存在として機能することもある。
では、ドン・ベリーニの場合はどうか。彼は若者を導く側面もあるが、逆にハックたち若者に触発され、導かれるように再起する存在だ。「錆びついた」「自分たちの時代は終わった」と言うドンに、ハックは「鉄なら…錆びたって磨けば元に戻るぜ」と語りかける。その一言から、ドンたちは再び立ち上がり、新しい時代、新しい世代ともう一度向き合う決心をする。2巻のもう1人の主役は、このドンなのだ。
ジュブナイルは若者のロマンだが、本作はそれが若者だけの特権でないこと、大人にも求められることを思い出させてくれる。少年少女だけでなく、大人も奮い立たせる物語になっているのだ。
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