「ウーパールーパー」の名でおなじみの両生類、メキシコサラマンダーが絶滅の危機にさらされている。
数世紀にわたる開発と汚染が原因で、このユニークな生物は現在、メキシコの首都メキシコシティのいくつかの運河にしか生息していない。ナショナル ジオグラフィックのラテンアメリカ版2016年9月号の特集記事によると、このままでは2020年までに絶滅するおそれがあると科学者たちが警告している。
アステカ時代は崇拝の対象だった
メキシコサラマンダーは、大きな外鰓(外側に飛び出したえら)を残したまま成熟する珍しいサラマンダーで、体の一部を失っても再生できる素晴らしい能力を持つ。(参考記事:「メスしかいないサラマンダー、驚きの利点判明」)
15~16世紀のメキシコ中央に栄えたアステカ帝国では崇拝の対象であり、首都テノチティトラン(現在のメキシコシティの原型)の盆地に散らばる複数の湖に生息していた。(参考記事:「アステカ 解明される王国の謎」)
しかし、それから数百年の間に多くの湖や運河で埋め立てや流路変更がなされ、汚染物質が流れ込んで水質も悪化した。さらにティラピアやパーチなどの外来魚も持ち込まれ、メキシコサラマンダーを含む固有種を脅かすようになった。
そこで、メキシコ政府は1992年、残されたメキシコサラマンダーの生息地を守るため、「ソチミルコ、サン・グラゴリオ・アトラプルコ自然保護区」を設置した。一帯はユネスコの世界遺産や、ラムサール条約登録湿地にもなっている。
それでも、メキシコサラマンダーの個体数はいまだ減少している。1平方マイル(約2.5平方キロ)当たり数千匹だったのが、今や数えるほどしかいない。汚染と外来種の問題が解決していないためだ。
個体数を回復させるため、メキシコサラマンダーを飼育し、繁殖する取り組みも行われている。この生物の繁殖力は比較的高いが、劣化した生息環境に戻してからが本当の意味での挑戦となる。
地元の人々は、メキシコサラマンダーを重要な文化遺産の一つと考えている。農家を営むペドロ・メンデスさんは、ナショナル ジオグラフィックの取材に応え、「言い伝えによれば、メキシコサラマンダーが絶滅したとき、私たちも一緒に絶滅するそうです」と話している。「メキシコサラマンダーを守り続ける限り、私たちは生きながらえることができます。彼らがいなくなれば、私たちも終わりです」(参考記事:「市街の今と昔、アステカの大量生贄」)
伝統農法が生息地の保全に
メキシコサラマンダーの生息地を拡大するため、科学者たちは地元の人々とともに、伝統のチナンパ農法を復活させようと取り組んでいる。沼地に水生植物と丸太、湖底の泥で作った構造物を浮かべ、作物を育てる。この有機的な農法はメキシコサラマンダーの生息地を生み出し、同時に、都市で使用する水を浄化してくれる。
しかし、この農法への回帰は容易ではない。農業、そして古い農法に興味を示す若者がほとんどいないのだ。農薬を使用したり、温室をつくったり、水路をせき止めたりする農業従事者もいる。
「メキシコサラマンダーを守ることは、彼らが暮らす環境を守るということです。美しい水を取り戻し、メキシコサラマンダーと共生する種を保護し、チナンパ、自然、木を守らなければなりません」とメンデスさんは話す。「私たち自身を守らなければ、メキシコサラマンダーを守ることなどできません」(参考記事:「素顔のオオサンショウウオ」)