Babiの音楽は気まぐれな女の子の心象風景を描いたミュージカルのようだ。エレクトロニカをベースにしたトラックに、おもちゃの楽器、そこに彼女の歌が乗る曲からは様々なイメージが飛び出してくる。そこにはいろいろなものに触れる喜びがあり、不安があり、揺れ動く気持ちがある。ファースト・アルバム『6色の鬣とリズミカル』をリリースする彼女に、どのようにしてそんな音楽ができるのか話を聞いた。
インタビュー&文 : 滝沢時朗
Babi / 6色の鬣とリズミカル まるでオモチャ箱を開いたかのような音が聞く者の想像力を刺激し、そのサウンド・デザインの裏にはしっかりとした音楽理論と感性が織り交ぜられている。ドリーミーな印象を受ける楽曲群だが、実はオモチャ箱の奥に潜む影と現実世界を表現したびっくり箱の様な作品! エレクトロニカ、トイ・ポップが好きな方にはお薦めの作品です。
【Track List】
01. Musica / 02. 22 / 03. あまのじゃく / 04. かりがね茶
05. 悪口 / 06. 真夜中
07. 6色の鬣とリズミカル(Don't Stop)※アルバム購入者のみ
アルバム購入者には特典として、Babiの世界が覗けるMVとデジタル・ブックレットが付いてくる!
Brigitte Fontaineみたいなスパイシーで深い魔女のような雰囲気になりたい
ーーアルバムを非常に楽しく聞かせていただきました。まず、どんな音楽的なルーツを持っているのか伺いたいと思うのですが。
Babi(以下、B) : 作曲は2才ぐらいの頃からしてました。曲って言っていいのかわからないですけど、トイレに行ったときに何が出たかって報告するトイレの歌とかお腹が空いた歌とかそういうのですね(笑)。それで、最初にクラシックのピアノを始めて、幼稚園の年長になった時に母からもうちょっと作曲ちゃんと習いたいかって聞かれて、やりたかったので6年ぐらい作曲を学んでました。音楽理論とか結構難しいことを教えられていたんですけど、小さかったので何を言ってるのかついていけなくて、そのまま卒業してしまいましたね。でも、なんとなくで理解できていたようで、その辺りから音を重ねて編曲するっていうことはできてはいました。だから、基礎はあるんですけど、ずっと感覚でやっています。
ーー今のようなスタイルはいつできあがったんですか?
B : 大学ではサウンド・プロデュース・コースっていう打ち込みを主にやる学科にいました。最初は歌う気はなかったんですが、楽曲を一曲提供するっていう試験で自分で歌をレコーディングして出したんですよね。それから、レコーディングが好きになって、それから宅録って感じで歌い始めるようになるようになりました。
ーー坂本龍一さんのラジオに音源を送られて取り上げられていましたよね。
B : 2年前の冬にRADIO SAKAMOTOに「Musica」という曲を最初に送って、すごく音が活き活きしているねとかクレイ・アニメが出てきそうだって言っていただきました。また曲を送ってねってラジオで言われたので、その後の夏に「あまのじゃく」っていう曲を送りましたね。それはRADIO SAKAMOTOのラジオ番組の宣伝で一ヶ月流していただきました。坂本さんに、才能を認めていただいて、期待していると言っていただいたんですけど、もっと磨かねばならぬとも言われたので、今はさらに精進してます。
ーー楽器は全部自分で演奏されているんですか?
B : 八割は自分でやっています。サックスや金管楽器を録ってもらった時は、頼んで演奏してもらいました。
ーートイ・ピアノなどのおもちゃの楽器を使おうと思ったのはなぜですか?
B : 打ち込みをやっていくうちに、生音を入れたくなってはいたんですよね。大学の同期のみんなは、パソコンの中にVIENNA SYMPHONIC LIBRARYっていう高級なソフト・ウェア音源を入れていたんですけど、私は高くて買えなかったので、一万円以内ぐらいで買える楽器を集めようと思って、最初にトイ・ピアノを買ったんです。そこから始まって、SUZKI andes 25f 鍵盤リコーダーを買ったりして、集めるのにどんどんはまってきました。安いけど音もすごく好きだし、おもちゃ楽器はすごく演奏しやすいですね。アレンジの中の位置づけとしては、曲にとって核にあるものって言うよりはスパイス的なもので、最後に曲に散りばめるっていう感じです。おもちゃ楽器の音は生っぽいけどちょっと身近な感じがして、キラキラした音でもあるのでおもしろいです。
ーーPVをご自分で作られていますが、音楽と並行して絵も勉強されていたんですか?
ーー音楽をたくさん聞きこんで、それを曲に反映させるというタイプではないんですね?
B : そうですね。母親が音楽好きだったので、色んな音楽を流していたんですが、小さい頃の私はそれを悪気はなく自分の曲だと思って作ってしまうことがあったんです。それを知った母があまり音楽を聞かせないようにしてたみたいで(笑)。そのままあまり聞かないで来てしまっていたんですが、大学に入ってから一人暮らしをはじめて、自分で色々探すようになりました。自分の好きな世界が音楽でちゃんとあるってわかって、自分が今まで見たり聞いてきたりしたけどわからないままひっかかっていたものが、つながるような感覚がありますね。もう中学生のように夢中で色々聞いてます(笑)。
ーー聞いたものの中から作曲や編曲で影響を受けたりしますか?
B : 意識しないで影響されてることはあるとは思うんですけど、もともと自分と似た作風のものを好きになりますね。あと、多分すぐにではなくて、何年後かに噛み砕かれた後には自然に影響が出てくるのかもしれないとも思います。今は研究してこれを使おうっていうよりは、もっといっぱい吸い込んで噛み砕いていこうって時期ですね。アレンジに関しては影響を受けるというよりも、もっと心の問題だったりしますね。「あまのじゃく」っていう曲はハイハットのチッチッチッチッて音で始まるんですけど、あれは糸の通っていないミシンみたいな音で心の中を表しているんです。そういう形で、アレンジが感情とからんでくるので、出来上がった後に自分はこれで悩んでたんだとかわかったりすることもあるぐらいです。でも、楽器編成に関しては、Brigitte Fontaineの楽曲から影響を受けている部分があります。ストリングスを左に振って、木琴は右っていうちょっと偏ったパンの振り方をしてるんですけど、それにすごく感動したんですよね。
ーーBrigitte Fontaineはフリー・ジャズの人たちとやったり、影があって実験的なサウンドの人ですよね。
B : そうですね。初期のちょっとクラシカルなアレンジをしているアルバムがあって、それを大学の先生ですごく尊敬している牧村憲一さんから教えてもらったんです。魔法使いみたいな素敵な先生で、いつもおもしろい音楽を教えてくれるんです。でも、Brigitte Fontaineは自分が好きだなって思ってる世界より、想像を越えたものでしたね。他にも色々と驚くようなものを教えてもらいました。
ーーRufus Wainwrightも好きなんですよね? 彼もクラシックやオペラから影響を受けている人ですね。
B : Rufus Wainwrightは自分がやってみたいことがもうそこにあったような感覚で、見つけたときにある意味少しショックでした。音楽を聞いたときにキャラクターがどんどん出てくるようで、本当に演劇みたいですよね。舞台もちょっといぶしたような匂いもすれば、キラキラした部分があったりして独特な感覚がありますし。
ーーKlimpereiやDragibusって知ってますか? どっちもフランスのトイ・ポップの第一人者で、Babiさんの曲を聞くと思い浮かぶんですが。
B : Klimpereiは知らないですけど、Dragibusは幼稚園ツアーしてる人たちですよね。そういうことするところにすごく興奮しました。ヨーロッパの音楽もさっき言った牧村先生がいっぱい貸してくださって、それでフランスの音楽も知りましたね。先生も私の曲を聞いて、そう思って貸してくれたんだろうと思います。
ーーDragibusのような子供らしくて楽しい感覚の表現に惹かれますか?
B : 私の音楽は、表面的にはふわっとして明るい感じではあるんですけど、わりとそうでもないんですよ。例えば「22」っていう曲は就職活動の悩んでる曲なんですね。歌詞の中に出てくる噂してる兎さんは近所のおばさんのことで、就職活動などが周りで始まりだして、私は音楽の道に行く!と、描くものの、近所のおばさんたちの就職しない身へ向けての噂など気になりもしたっていう描写なんですよ。子供のためのワーク・ショップを手伝ったりしていて関わるのは好きなんですけど、曲に関しては実はちょっと現実的な悩みを昇華させたりしているんですね。だから、表現してる内容としてはちょっと違います。
ーー確かにBabiさんのBrigitte FontaineやRufus Wainwrightを好まれているっていう側面も考えると、うなずけますね。
B : そうですね。絵で言うと、トーベ・ヤンソンってちょっと怪しい絵を描くじゃないですか。でも、小説を読んでると実はちょっとひねくれた人をキャラクターに写しているだけで、実際はその辺にいる人に似てるとかそういう感覚がありますよね。ああいう感覚もすごく好きですね。曲を聞いてもらった人にすごくメルヘンって言われることも多いんですが、Brigitte Fontaineみたいな魔女のような感じを出したいです。正反対過ぎて憧れるのかもしれないですけど。
ーー「22」以外の曲も現実的なテーマがあるんですか?
B : 「Musica」は自分にとってすごく大事な曲です。昔、すごく計算高く曲を作っていた良くない時期があって、そこから抜け出すきっかけになった曲なんですよ。その時は、こういう風に展開を持っていったら人にうけるとか、そのためにコード進行とかサビはこうしたらいいとか、そういうことを中心に計算で作曲していたんです。だから、すごく音楽が好きって言ってる人たちが理解できませんでした。大学になってからある時に牧村先生から「Babiの音楽は媚びてる」って言われたんですが、牧村先生に個人的にひっそり作っていた「Musica」を聞かせたら、「むしろ、こっちに行こうよ」って言ってくださって。それから、とにかく考えないで音と言葉を楽しもうっていうことにすごく集中して作っていったんですけど、作っている中で理解できなかった音楽が好きでなくては生きていけないって気持ちが、わかるようになりました。あっ! わかる! って(笑)。
ーー「かりがね茶」は面白いテーマの曲ですね。
B : 知り合いで日本茶アーティストをやっている方がいて、色々煎茶を入れてくれるんです。その方とイベントをやった時に、お茶の味からインスパイアされた曲を作ってみようとなって、かりがね茶っていうお茶を飲みながら、味と匂いから想像して作ってみました。
ーー本当にダイレクトに曲しているんですね。
B : そうですね(笑)。「真夜中」っていう曲も、本当に真夜中に散歩している時のイメージですね。前奏は、真夜中に待ち合わせ場所に行くまで怖いけど楽しみみたいな不安定な感じで、待ち合わせてた人に会って、その人と散歩をして心が踊るような気持ちになるっていう曲です。この曲のPVで、人形が夜の街を舞台に踊っているんですけど、それがハートのある胸のあたりにそのまま入っているような感じですね。なので、あの人形が直接私自身っていうよりは、普通に歩きながらも心があんな感じになってるっていうことを描いているんです。なので、結構ダイレクトですね。
ーーそんな曲たちが収録されているアルバムのタイトルは『6色の鬣とリズミカル』ですが、どういう意味なんでしょうか?
B : 6色っていうのは曲の数ですけど、また違う意味もあります。馬がすごく好きで、馬の絵を描いて鬣をいろんな色にするっていうのにはまっている時期があったんですね。それで、動物の鬣って馬に限らず前に進むたびにいろんな動きをして、すごくリズミカルじゃないですか。そんなカラフルでリズミカルな鬣みたいなアルバムならいいなと思ってつけました。その鬣がは馬じゃなくてもよくて、聞いた人がそれぞれ思い浮かべる架空の動物のものでもいいですね。色々想像して、一音一音をキャラクターとして見立てて聞いてもらえるとおもしろいと思います。
ーーリズミカルっていうのはウキウキするような感覚ですか?
B : それもあるんですけど、動物や生き物を描いている絵でも、切り取ったような静かな絵ってあるじゃないですか。でも、動きを感じる絵もありますよね。
ーー実際のリズムっていうよりはリズミカルっていう感覚なんですね。
B : そうですね。なので、自分はリズムを作るのがあんまり得意じゃない部分もあったりするんですけど、動き出すようなリズミカルな感覚は好きなんです。
ーーウッフフククという自主レーベルをやられていますが、それも含めて今後の活動はどうしていくのでしょうか?
B : 今は自分で試行錯誤したいっていうのがあるので、マイ・レーベルを作って活動しているんですけど、音楽レーベルに縛られすぎないようにしたいっていう部分はあります。展示ツアーとか影絵とか指人形とかだったり、音にインスパイアされた料理を作ってくれるとか色々と広げていきたいんです。レーベルっていうよりはウッフフククっていう"活動の仕方"みたいにしていきたいですね。
Information
2011年10月01日(土)
イラストレーター・朝倉弘平の展示会終日のパーティーにて音楽パフォーマンス予定(詳細近日発表)
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Ferri / A Broken Carousel
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üka / Lullaby for the Evil
キルクが自信をもってお届けする超大型新人!! イギリス / ブリストルより逆輸入の女性シンガー・ソングライターによる、オーケストラルなヴォーカル作品。
PROFILE
Babi
1986年 岩手生まれ。
1998年 ピアノを学び、トイレソング、空腹ソングなどを作りはじめ、5歳から6年間本格的に作曲を学ぶ。
2003年 高校の時にバンドを組みMTRを使用した多重録音に少しはまる。
2005年 昭和音楽大学作曲学科サウンド・プロデュース・コースに入学し、さらに多重録音にはまり、家にこもって自宅録音するスタイルがはじまる。
2010年 2月 J-WAVE Radio Sakamotoの番組宣伝に「あまのじゃく」という楽曲が使われる。他、企業用説明VTRの音楽、効果音、CM音楽など担当。
2011年 音楽の他、ものづくりを中心としたいろいろなモノを制作発表できる場として、マイ・レーベル「ウッフフクク」をはじめる。