夢の中の祭囃子が聴こえる──DE DE MOUSE、新EPをハイレゾ配信
昨年末アルバム『farewell holiday!』をリリースしたDE DE MOUSE、あれから半年のスパンをおいてここに新作EP『summer twilight』を緊急リリース。彼らしいカットアップ感にあふれたシンセ、ポップなエレクトロ・ビートとともに、ときに“和”な祭囃子も遠くからこだまする8曲。もともと劇伴曲として作られたそうなのだが、しっかりと彼のオリジナル楽曲としての強度を持ち、「祭、夏、夜、朝、森、女、夢」といったテーマを携えたDE DE MOUSE流のサマー・アンセム集といったところだ。本作をOTOTOYではハイレゾ配信するとともに、ここにインタヴューをおとどけしよう。
DE DE MOUSE / summer twilight(24bit/48kHz)
【Track List】
01. remember night
02. summer twilight
03. night voice
04. come on morning
05. tree chattering
06. inside woman
07. candy stab
08. phantom rewind
【配信形態】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
【配信価格】
アルバム 1,050円(税込) / 単曲 257円(税込)
INTERVIEW : DE DE MOUSE
DE DE MOUSEが新作EP『summer twilight』をリリースする。劇団「柿喰う客」新作公演の劇伴という側面を持ってはいるが、今作はれっきとした彼の新作である。与えられたお題やキーワードから「夢のなかの夏祭り」というひとつの世界を築き上げ、彼がイメージする夏祭りをひとつの形にした。そこで鳴る音楽はDE DE MOUSE流のクラブ・ミュージック、サンプリング・ヴォイス、海外で流行するトラップ・サウンドから、盆踊りやお囃子まで、さまざまな要素で構成されている。
彼のサウンドや構想と外からもたらされたテーマが上手く絡み合ったものとなっており、「僕にしかできないひとつの新しい境地の作品ができた」と語ってくれた。DE DE MOUSE自身、いまは積極的に自分の外にあるものを取り入れようとしているモードのようだ。今回のインタヴューは『summer twilight』について、また音楽と他のカルチャーとの関わり合いにも話は及んだ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文・構成 : 鶯巣大介
写真 : 大橋祐希
夏祭りのイメージをそのまま形に
──今回のEPはそもそも劇団に提供した楽曲を収めた作品ですよね。ですがサウンド・トラックという形ではなく、あくまでDE DE MOUSEの新作としてリリースされると。まずはその辺りの経緯を教えてください。
このアルバムを作るにあたって、劇団「柿喰う客」から劇伴を作ってくれないかっていう依頼があって。話を聞いてみると、夏祭りを舞台にしたシェイクスピアの作品を上演するから、夏祭りっぽさのある音楽を作ってほしいってことだったんですね。そのときにすごくちょうどいいなと思って。
──ちょうどいいっていうのは?
僕は毎年4月、5月になるとなぜか川に行きたくなるんですよ。だからわざわざ電車で多摩川に行って、夕方くらいに特に何も考えずにぼんやり河川敷の景色を眺めていて。そうしているうちに日本の夏というか、夏を思い出させるようなものを作りたいなぁなんて思っていたんですね。新緑が綺麗で、風がなびいている。それを見ていて、こんな空気を音にできたらいいなって。ずっとそういう音を作ってなかったから。だから今回はすごいタイミングが良くて。話を聞いてみたら「自由に作ってください」と言われたので、自分がやりたいことができるなと。なので実は『summer twilight』はあまり劇伴ってことを意識しないで、僕自身の夏祭りのイメージをそのまま形にしたっていう感じですね。
──じゃあ『summer twilight』は劇団に提供したサウンドではあるけれど、DE DE MOUSE流の「夏祭り」を表現した作品であると。
そうですね。劇伴としてきた話ではあるけど、今回のEPを作るうえで僕は僕でひとつのストーリー作っていて。それは「夢のなかの夏祭り」っていうものなんですね。明晰夢ってあるじゃないですか。自分が夢を見ているって自覚している夢のことなんですけど。明晰夢を見れる人は自分で夢の内容をコントロールできるそうなんですよ。それで『summer twilight』は明晰夢を見ている女の子の話なんですけど、夢のなかで自分の理想の夏祭りを作って遊んでいるうちに現実に帰れなくなっちゃうっていう内容なんですね。でも女の子は別にそこから帰りたくないんです。
──そのコンセプトを採用したのにはなにかきっかけが?
それのヒントは大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」って曲です。曲の最後は「大好きな絵のなかに閉じ込められた」ってところで終わるんですよ。これを怖いって感じる人がたくさんいたらしいんですけど、僕は別にそうは思ったことがなくて。好きなもののなかにずっといられるってことは、それはそれで幸せなんじゃないかなと。だから彼女は自分にとってすごく楽しい夏祭りのなかで一生遊んで暮らせる。それはちょっと怖いことかもしれないけど、でも不思議で心地いいなって。
──かなり自由に制作したんだなという印象なんですが、逆に劇に寄せた部分などはなかったんでしょうか。
柿喰う客の脚本を作ってる代表の仲屋敷紀仁さんが1曲ごとにキーワードを出してくれていて。それが8個あって、そのイメージに合わせて曲を作ってくれっていうお題があったんです。そのキーワードはタイトルのなかに大体入れてるんですけど、1曲目から「夏祭り」「夏」「夜」「朝」「森」「女」「恋」「夢」ですね。その1曲ごとのお題をもらいつつ曲を作っていくうちに、自分でもひとつの全体のストーリーを作っていきました。それが「夢の中の夏祭り」。
──なるほど。
例えば「come on morning」っていう曲は「朝よ、来てみろ」っていうイメージで作っていて。普通は朝が来ると目が覚めるものだけど、この子は帰りたくないから「朝になっても私はここにいるからね!」と(笑)。最後の「phantom」はこれはキーワードが「夢」だったんですけど、それよりも少しひねって「幻」のほうがいいかなと思って。この曲を最後にしたのは、朝が来て夢が覚めると思いつつ、また夢の始まりに戻されてしまう。“rewind”つまり、巻き戻すという言葉で終わらせたんですね。これはループものの話なんですよ。
──話を聞く限り、ちゃんとお題に答えつつ、DE DE MOUSEとしてのオリジナリティを発揮していて、かなりいいコラボレーションだったんですね。
そうですね。制作期間は1ヶ月だったんですけど、僕にしかできないひとつ新しい境地の作品ができたなと思っているんです。例えば1曲目の「remember night」は盆踊りの形式なんだけど、エレクトロニックなサウンドだし、サンプル・ヴォイスを使って歌も入れてて、これまでのDE DE MOUSEっぽさもある。それと今回はお祭りのリズム、それはアグレッシヴな太鼓の音、お神輿の音だとかを含めてわかりやすく取り込んでいるんですね。それはやっぱり夏を感じさせることがテーマだったので。あとは今年の3月にアメリカでライヴをしたんですけど、そこで感じた要素も取り込んでいて。
──SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に行かれたんでしたっけ?
SXSWに行って、あとはニューヨークでライヴをしました。アメリカに行ってみて、僕が思った以上に向こうではトラップがすごい流行っているんだなと感じたんです。特にニューヨークなんて、そこらじゅうのカーステからものすごい音量でトラップが流れていたんです。でもそういうトラップのサウンドとお祭りの要素はすごく合うんじゃないかなと思って両方を採用しました。今回はリズムも強くしたし、夏祭りの要素も郷愁感を出すためというより、どちらかと言えばアゲるために入れてます。別にダンス・ミュージックを捨てたわけじゃないって言いたかったんですよね。
──それは前作『farewell holiday!』の反応を受けてということですか?
いままでの僕のイメージとは違って、音がすごく生寄りで、一聴するとダンス・ミュージックの要素が感じられないものになっていて。でも『farewell holiday!』は思った以上に周りから評価されてる作品なんです。自分が思っていた以上にあのサウンドを受け入れてくれる人が多かった。それに僕自身もひとつやりきった感があって、自分が本当に満足いくものが出せたと思うんです。自分の痕跡が残せたというか。でもやっぱりみんな僕に対してダンス・ミュージックの人っていうイメージは持ってると思うし、僕自身もいままでの活動でそう思わせてきたところもあるんです。なのでこれからは単純にアガったりするような、少しポップ・ミュージック的な要素を重視してやっていこうかなと思うようになったんです。『summer twilight』でみんな「あ、DE DE MOUSE帰ってきたな」って感じるんじゃないですかね。
劇伴、されどオリジナル作品
──劇伴という側面を意識して、なにかサウンドを工夫した部分はありますか?
例えばブレイクのパートはあえてストリングスの音色を使ってますね。劇盤ですよって感じさせる要素というか。あと今回は90年代にすごく流行ったPCMシンセサイザーっていう機材を使っています。これは音が細くてチープなシンセサイザーだったりするんですよ。だからこれを使って、昔のNHKの番組であったような音にあえてしてる感じはありますね。それがどこか懐かしさを感じさせたりするというか。でもその使い方はヴェイパーウェーヴっぽかったりとか、いまどきのものだと思います。人間ってある程度制限があったほうが想像力って働くじゃないですか。今回はいただいたキーワードがあったり、夏祭りのイメージとかPCMシンセサイザーしか使わないって自分で用意した約束事が上手い具合に働いたと思いますね。
──じゃあこれからもっと今回のような劇伴制作や、楽曲提供などをたくさんしていったら、DE DE MOUSEの音楽はさらにおもしろいものになるかもしれませんね。
いままでは「これはDE DE MOUSEの音楽とは違うから」っていう理由で、ちょっとお断りしてたお仕事もあったりするんですよね。でもこれからはそういう話がきたら、あんまり断らないでやってみようかなと思いますね。っていうのは今回舞台の音楽を作ることによって感じたことがあって。日本ってカルチャーとカルチャーが断絶しているというか。本当はもっとミュージカルも舞台もダンスも音楽も、お互いがもう少し近くにいなきゃいけないと思うんだけど、それが断絶されていて、そのなかに自分もいるなって思ったんです。実は僕自身、今回演劇を観たのが人生で2回目のことだったんですよ。
──なるほど。例えば大友良英さんはいろんな作品の楽曲を制作していますが、なかなかそのポジションに就く新たな音楽家が出てきていないと個人的に感じていて。キャリアも実力もあれど、なかなかそういう世界には行きにくい現実があるのかなと。
僕は演劇界の人たちのことを知らないし、ダンスをやってる人たちのことも知らない。それと一緒で多分向こうの人たちも、僕たちミュージシャンのことを知らないっていうことも、すごく大きいと思うんですよ。旧態依然としてて「こういうものを作るなら、音楽はあの人だろう」ってことで、新しいミュージシャンがチョイスされることが少ない。例えばすごく素敵な洋服をデザインして置いてるブランドなんだけど、店のなかでかかってる音楽はクソださいとかってことありますよね(笑)。
──あははは(笑)。
言い方は悪いですけど(笑)。あとは深夜になるとダンスキッズが集まって、みんなで練習をしたりとかしてますよね。そういうところでかかってる音楽っていうのは大体少し前のヒップホップだったりするんですよ。「俺イケてるぜ」って感じで踊ってるつもりなんだろうけども。でも音楽の人も新しいものを求めてはいるけれども、それ以外のものは疎かだったりするのも事実だし。自分自身もこう言いつつ舞台を観たことなかったしね(笑)。いろんなカルチャーがもう少しリンクしていけばいいなと思うし、もっとおもしろくなりますよね。
──じゃあ今後DE DE MOUSEがほかのカルチャーと交わってなにかやってみたいことってありますか?
結構何年も前からバレエ音楽をやりたいって気持ちがあるんですよね。現代バレエなんですけど。実はそのために趣味でコツコツ作っている曲もあったりして。それを実際にやってみようかっていう動きもあったんですけど、前作『farewell holiday!』を出すことになったから、そっちに集中するために一回中断したんです。なのでいいタイミングがきたらやりたいですね。ホールとかで演奏しながら、実際にバレエを踊ってもらったりとか、そういうこともしていきたいですね。だからその分野の人たちとの繋がりをもっと作らなければいけないなと。
──いまはDE DE MOUSEにとって外へ外へと目を向けていく時期なんですね。
ここで自分のブランドを守ろうっていう方向に走ると、すごくおじさんミュージシャンになっていっちゃう気がしてるんです(笑)。でもすごく幸運なことに、若いアーティストさんとかDJさんと一緒に演奏する機会も多いので、そこで交流したり、現場でそういう子たちがどんな音楽をやるのかを聞いたり。それが自分のなかですごい刺激になってるんですよ。例えば『sky was dark』を作っていたころは、自分のアイデンティティーを守ろうとしてた部分もあっただろうし、そこに刺激がいかないようにって意味で外部からの音を自分で断っていたんですよ。でもそれがいまはすごくオープンになってきて、これからはなんでも取り入れようと思っています。だから多分いまってすごいいい状況なんだろうなって。やっとこの歳になって音楽をすごく楽しめるようになってきました。
──来年は主宰レーベルも5周年を迎えますよね。そこに向けてなにか考えていることがあったら最後に教えてください。
実は7割くらい音もできているんです。詳しくはまだなんですが、みんなで踊れるとか、皆で共有しやすい、楽しめる作品を出そうかなぁって思っていて。去年の夏に出した『milkyway drive』っていうライヴ・アレンジ・アルバムなんですけど、わりとあの路線に近いものになりそうです。
PROFILE
DE DE MOUSE
遠藤大介によるソロ・プロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。また、自身の曲のプログラミングやミックス、映像もこなす。織り重なり合う、計算しつくされたメロディと再構築された「歌」としてのカットアップサンプリングヴォイス。流麗に進む和音構成と相交わりから聞こえてくるのは、きらびやかで影のある誰にも真似できない極上のポップソング。染み渡るような郊外と夜の世界の美しい響きから感じる不思議な浮遊感と孤独感は、多くのクリエイターにインスピレーションを与えている。
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