※本稿は、L.A. Times編、児島修訳『OHTANI’S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
ドジャース・ファンではない。大谷翔平のファンだ
(マックス・キム 2024年10月30日)
岩手県奥州市にある美容院「Seems hair&spa」はドジャースのグッズで埋め尽くされている。しかしオーナーの菅野広宣は、自分は本物のドジャース・ファンではないと言って憚らない。
午前9時を少し回った頃、長い金髪を後ろにまとめた63歳の菅野は、ワールドシリーズ第4戦のテレビ中継にチャンネルを合わせるために、急いで店に戻ったところだった。
ドジャースのスーパースターである大谷翔平の生まれ故郷のほとんどの人と同じく、菅野も、今日、長年のライバルであるニューヨーク・ヤンキースを下して、全勝で世界一を決めてくれると固く信じていた。
それでも、菅野はドジャースよりも大谷個人を応援していることを隠さない。ここ奥州市で生まれた大谷は、MLBの選手や観客を魅了するだけではなく、地元の町ぐるみの応援も受けている。
もし明日、何かの間違いで大谷がヤンキースに移籍したら? 菅野はドジャー・ブルーのユニフォームをヤンキースのストライプに換えるだろうか?
「もちろんです」菅野はためらわずに言った。
まるで「大谷博物館」のようなコレクションの数々
菅野が決めたルールにより、ワールドシリーズの間、所属する美容師は妻も含めて全員がドジャースの青いユニフォーム姿で接客する。
店内では2人の客も試合を観ているが、野球に関心があるかはわからない。菅野が大谷の試合を見逃さないよう全席にモニターが設置されているため、自分でチャンネルを選んだわけではないからだ。
試合開始直後は、ドジャースが優勢だった。
待合スペースの大型テレビでは、フレディ・フリーマンがまたも初回からホームランを放った。妻のサツキと別の美容師のケイコが、「フリーマン!」と叫ぶ。
美容院の店内には、大谷博物館のようなスペースがある。そこは天井から床まで、菅野が11年間と10万ドル(約1500万円)近くをかけて収集した大谷関連のグッズで溢れている。サインボール、何十体ものボブルヘッド人形やフィギュア、ユニフォーム、キャップ、スパイク、バッティンググローブ、そしてドジャースのユニフォームに身を包んだ大谷の等身大ボード。