私たち人間は日頃から意識はしていないが、体を動かす際にいろいろな制約を感じている。例えば、手でなにかをつかむ場合は、必ず手のひらを内側にしないといけないし、真後ろを振り向く場合は、上半身ごと動かさないといけない。もし、人間の手首や首が360度回転できる構造だったら、いろんな動作がもっと効率的になるだろう。ロボットならばそういう構造にすることも可能だが、実はいろいろと複雑なメカニズムが必要になる。そこで、ロボットだけでなくさまざまな機械構造を単純化する歯車が注目されている。
3方向に回転できるモーターを実現する球状歯車
歯車は、さまざまな機械構造を実現するために不可欠な部品の1つだ。特に、ロボットのように複数の関節を持つ機械の場合、多数の歯車が使われている。ほとんどの歯車は平たい円盤状だが、山形大学大学院理工学研究科 准教授の多田隈理一郎氏が開発した「球状歯車」は、丸いボールの形をしている(動画1)。このように、球体の表面に突起を設けた歯車が、XYZの3方向に自由に回転できる「回転3自由度」を有するモーターを実現した。
回転3自由度を実現する方法は、すでにいくつかある。例えば、一般的なモーターを3台組み合わせて回転3自由度を実現することもできるが、その場合は装置が大型化し、さらに質量も大きくなるため慣性力が増してしまう。これに対して、球状歯車を利用して作られたモーターならば1台で回転3自由度を実現できるため、従来の装置を小型・軽量化できる(動画2)。
また、通常の球体を摩擦の力を使って回転させ、回転3自由度を実現する方法もあるが、その場合は球体表面の滑りによる伝達ロスが生じやすい。それに対して球状歯車は、歯がかみ合うことで確実に動力を伝えられる。
球状歯車と鞍状歯車を組み合わせてモーターを開発
球状歯車は、通常の歯車のように全周に同じ形の歯を付けることは難しい。球状歯車を作る際は、表面に「インボリュート曲線」と呼ばれる歯車の形状を回転させながら全周に描いていく(図1)。だが、この方法で作られた球状歯車には、地球の北極や南極にあたる部分とそれをつなぐ部分は、他の部分とは異なる歯の形状ができてしまう。そのため、球状歯車にかみ合わせて回転させる歯車にも、通常の歯車とは異なる特殊な構造が必要になる。
そこで、多田隈氏のチームが特殊なアルゴリズムを使って設計したのが、球状歯車が持つ極構造と常に接してかみ合う極構造を持つ「鞍状歯車」だ(図2)。これらの歯車を使うことで、初めてXYZの3方向に自由に回転できる球体モーターが開発できた(図3)。