日本のエレクトロニクス企業は本当に「全滅」なのか
先日もソニー新体制の発表があったりと、非常に厳しい状況にある日本のエレクトロにクス業界。ちょっと前なのですが、週刊ダイアモンドが2月21日号で「電機」全滅!瀕死のテレビ・半導体は再生できるかというショッキングなタイトルで、日本のエレクトロニクス大手9社(日立、パナソニック、ソニー、東芝、富士通、NEC、三菱電機、シャープ、三洋電機)の業績と業界の分析を行っています。現在エレクトロニクス業界で起こっていることを俯瞰するのに非常に良い記事でした(エレクトロニクス業界に身を置く私としては、まぁ手のひらを変えて、ここまでボロクソ言うかとも思いましたが。。)
この記事では、大手9社の最終利益(税引後当期純利益)を見て「電機全滅」という話をしています。確かに最終利益も大事なんですが、やはり「本業の力はどうなってるんだろう」と考えるとやはり「営業利益でも比較してみたい」と思いまして、営業利益自体は比較的容易に手に入る情報ですので、今回整理してみました。
大手9社の売上と最終利益を見る
下記のパワーポイント資料の上段が2008年度売上予想、下段が最終利益予想をグラフ化したものです。
三菱電機の最終利益100億円、三洋電機の損益トントンを除く7社が最終赤字。特に日立の7,000億円の最終赤字、これは日本経済新聞によると「我が国製造業で過去最大の赤字」とのことです。
そこで、下記が07年度と08年度の最終利益の増減を比較したグラフです。下段が最終利益額の比較、上段は08年度の対前年比増減率で示したものです。
どの企業も最終利益を悪化させているのですが、特に日立とNECが突出して最終利益を悪化させていることが分かると思います。
この最終利益のグラフだけ見ると「日立、NECは大丈夫か」「パナソニックはソニーに負けているのか」という話しになるんですが、最終利益だけではなかなか各企業の本業がどうなっているのかというのがよくわからないと思うんですね。
08年度の最終利益と営業利益を比較する
そこで、08年度の最終利益と営業利益を一つに整理したものが下記のグラフです。青部が営業利益、紫部が最終利益です。これを見るとちょっと様子が変わってきます。
9社中営業赤字はソニー、東芝、NEC、シャープの4社。残り5社はなんとか営業黒字を確保しています。上段の営業利益に営業利益率を書いておきましたが、事業の選択と集中を進める三菱電機が営業利益率3.3%でトップ。以外と(と言ったら怒られますが。。)三洋電機の営業利益率1.6%が業界2位であります。
三洋電機の第3四半期決算書からはっきりとは読み取りづらいのですが、白物家電系では洗濯機、産業用途ではショーケースや業務用厨房機器、部品系では二次電池や太陽電池が増加し、他の部門の減少をカバーし営業黒字を確保しているようです。
また、グラフから、最終利益では中位であった東芝とソニーの営業利益が突出して悪いということがわかります。
そこで、下記が2008年度最終利益と2008年度営業利益のワーストランキングを比較したものになります。最終利益の順位と営業利益の順位は相当異なるということが分かると思います。
07年度の営業利益と08年度の営業利益を比較する
そこで、先ほどの最終利益と同様、07年度と08年度の営業利益を比較してみました。下段が営業利益額の比較、上段は08年度の対前年比増減率で示したものです。
一番営業利益率を悪化させたのが東芝で、07年度2,381億円の営業黒字から一転、08年度は2,800億円の営業赤字と、対前年比-218%という大変厳しい数字です。次がソニーで、07年度3,745億円の営業黒字から08年度は2,600億円の赤字と、対前年比-169%とこれも非常に厳しい数字です。。対前年比で見ても、この2社が特に本業での損益を悪化させていることが分かります。
ここで「電機は本当に全滅なのか」という問いに対する私の回答としては下記になりますでしょうか。
一律全滅というのは誤りではないかと考える。あのトヨタが4,500億円の営業赤字に陥るほどの厳しい市場環境の中、日本のエレクトロニクス企業大手9社は5社(日立、パナソニック、富士通、三菱電機、三洋電機)は営業黒字を確保。NEC、シャープが共に300億円の営業赤字と苦しい状況であるが、大手9社の中でも東芝とソニーは特に厳しく、東芝は2,800億円の営業赤字、ソニーは2,600億円の営業赤字と本業が厳しい状況に陥っている。
東芝とソニーについて私が思うこと。。
そこで「東芝とソニーの共通点ってあるんだろうか」と考えていたんですが、これは偶然なのかもしれませんが、営業利益を大きく落としているソニーと東芝、両社の業績には韓国サムスン電子の影が大きく影響しているように思われます。
ソニーはその最大の財産であるブランド力をフルに発揮し、液晶テレビではサムスンとトップシェアを争っていますが、どれだけ売っても赤字から脱却できない状況が続いております。その原因として挙げられるのが液晶パネルの調達先問題。ソニーは自前の液晶パネル工場を持っておらず、液晶パネルをサムスン電子との合弁会社から調達しています。今日の日経でも載っておりましたが、同じパネルを使っているサムスンの液晶テレビ事業は黒字で何故ソニーは赤字続きなのか。ここにストリンガー会長が相当お怒りのご様子で、この問題が昨日発表された新体制に刷新した理由の一つのようです。
また、東芝はサムスンとNANDフラッシュメモリーで激しいシェア争いを繰り広げており、昨年まで巨額の投資を行ってきました。この投資の理由は東芝がDRAM事業でサムスンと激しくシェアをっていたいた1990年代後半の怨念までさかのぼります。DRAMの市場価格がどんどん下がる中、サムスンが巨額の投資を継続し巨大な製造キャパをバックにしたコスト競争力を武器にシェアを日本企業から奪い始めます。当時東芝はその投資競争についていくことができず、その結果DRAM事業撤退という苦渋を嘗めさせられた苦い経験があるのです。ですので「同じ轍は二度と踏まない」と誓い、サムスン同等の巨額投資を継続してきたのです。その戦略が功を奏し、昨年まではサムスン電子と互角の戦いを繰り広げ、シェア争いでじりじりとその差を詰めてきていました。日本の半導体メーカーが相次いで厳しい状態に置かれる中、唯一東芝だけが世界を舞台に戦いを続けていたのです。
そのサムスン電子ですが、決算期が違うので単純比較はできないのですが、2008年1月〜12月期の売上は対前年比15%増の4兆3,770億円、営業利益は対前年比30%減の2,378億円の黒字、最終利益は対前年比26%減の3,318億円の黒字と、対前年比では若干落ち込んでいるものの、東芝・ソニーとは比べ物にならない業績を叩きだしております。。
私が思うに、世界のテレビ市場でサムスンと伍して戦えるのは、パナソニックではなく、シャープでもなく、やはりソニーだと思います。そして日本の半導体メーカーが苦しむ中、サムスンをはじめとする世界の強敵と戦う力を持っている唯一の存在は東芝だと思います。
2008年度の数字で見る限りは特に厳しい状況にあるソニーと東芝。しかし本来は大きな力をもつ日本を代表する企業です。この苦境を乗り切り、再び世界市場でその輝きを取り戻す日がくることを私は心から祈っています。