トランプで台湾は2030年代に向けて野党に傾くか 支持率拮抗でチキンレースに陥る台湾の与野党

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アメリカで第2次トランプ政権が発足した。台湾では与野党が激しく対立し、社会の分断が進み、内政上の余裕はあまりない。対米関係につまずけば台湾与党は苦しい立場に追い込まれる。

台湾の頼清徳総統
少数与党で厳しい内政運営を迫られている頼清徳総統だが、外部環境もますます厳しくなっている(写真:Bloomberg)

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※来週1月30日は台湾が春節(旧正月)期間に入るため本連載はお休みです。次回は2月6日配信です。

「もちろん党の利益(党利党略)のためだよ」

台湾の最大野党・国民党の立法委員(国会議員)は、記者との電話で声を潜めながらもはっきりそう発した。

与党の成果奪う予算削減案が野党主導で成立

2024年1月の選挙で野党が多数派を占めた台湾議会。国民党と、第2野党である台湾民衆党が、少数与党の民進党へ攻勢を強めている。

2024年末には議場での乱闘の末、野党の賛成多数により、立法委員や地方首長のリコール(失職)要件を厳格化する法案、中央政府の財源の地方政府への移転を増やす法案などが通過した。

2025年に入ってからは中央政府予算案の審議が紛糾。政府与党は3兆1325億元(約15兆円)を2025年度の総予算案として提出したが、野党が予算削減を主導。結局、2077億元(約1兆円)ほど削減された2兆9248億元で1月21日に通過した。このほかに2698億元(約1兆3000億円)の予算が「凍結」された。凍結予算は政府機関の報告を受けて立法院が同意すれば使用できるもので、野党が多数派のため事実上の「人質」である。

各種法案や予算削減案の正当性について、国民党などの野党は「立法機関として政府を監督するためだ」とする。

しかし、本音が冒頭の立法委員の発言どおり党利党略に基づくものであることは疑いようがない。

たとえば地方政府への財源移転増は、地方での行政サービスを強化し、2026年の統一地方選を野党有利の形で戦いたいとの思惑が透けて見える。現在、台湾の地方自治体22県市の首長ポストのうち与党は5つしかもっていない。地方財政の強化は野党に有利だ。

中央政府の予算の削減・凍結も同様だ。削減・凍結された対象は、国産潜水艦の建造費や対外発信など国防や外交に関わる支出のほか、民進党政権が設立したデジタル発展省(数位発展部)の予算、政府機関の光熱費など。同党の強みや看板政策が含まれ、政権与党のアピールを阻害し、イメージの悪化を図っているとみられる。

民衆党を率いる黄国昌・立法委員は「削減しても2.9兆元(約13.5兆円)の予算だ。(前政権の)蔡英文政権の最終年度はほぼ同額の予算だったが、それでしっかり政権運営できた。それなのに、なぜ頼清徳(現総統)はできないというのだ」と声を荒らげた。

国民党の院内総務である傅崐萁(ふ・こんき)立法委員も予算案通過後に「国民が血と汗を流して稼いだ金を守る」と予算削減を正当化した。

財政を無駄遣いさせないという一見わかりやすい議論だ。ただ、台湾財政は半導体産業などの好況に伴う堅調なマクロ経済環境の後押しを受けて大幅な歳入増が見込まれている。財政赤字は数年前から縮小傾向にあり、健全な状態だ。

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