コロナの影響から回復傾向にある今、さまざまな企業で新しいマーケティングのチャレンジが加速している。2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」名古屋講演から、MOTAの神北忠雄氏、Algoage(以下、アルゴエイジ)の成田穂高氏のセッションをクローズアップ。後発サービスを2年で18倍のCVに加速させた秘訣や、離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介する。
従来の「不」を解消する後発サービス
自動車買取事業をおこなうMOTAは、自動車買取において、不安や不便、不利など「不」の解消に取り組んでいる。同社の神北氏は、同業界では後発となるMOTAが2年で18倍のCVへと加速させたブランディング広告の手法について語った。
自動車買取というと、従来は自動車を売却したい人が査定依頼を申し込むと、大手の買取業者から即座にたくさんの電話がかかってくる仕組みだった。ユーザーは電話対応に追われることになり、査定金額の比較どころではなくなってしまううえ、電話に出ると自宅まで訪問され、まだ査定金額の比較ができていない段階で買取業者に売却してしまうということも少なくない。そこで、MOTAでは査定依頼を受け付けると大手から中小まで最大20社の買取業者による査定額をオンラインで比較し、ユーザーへ高額査定の上位3社からのみ連絡がいくような仕組みを構築。そのため、ユーザーは3社のみと対応すればよいというわけだ。自動車を売却したい人にとってストレスなく、不透明な売却プロセスなどをDX推進によって解消できるため、自動車を売却したい人にとって大変ありがたいサービスだが、既存のウェブ広告やCVRの磨きだけでは成長が鈍化し、壁にぶち当たっていたという。そこでMOTAは、ラジオとYouTubeで認知広告に取り組んだ。
認知広告により2年で18倍のCVを獲得
なぜ、認知広告にラジオとYouTubeを選んだのか。ラジオ広告は、車を運転しながら聞いている人が多く、MOTAのターゲットとマッチすることから、2021年10月から主要エリアを中心にスポット広告を展開した。また、YouTube広告を選んだのは、ターゲティングがしやすいため、自動車買取に興味関心が高い層に向けて配信できるという理由から、2022年11月より、VAC(Video Action Campaign)のターゲティングで配信を開始した。それらの広告により、2023年では2021年に比べて18倍のCVを獲得、2024年においても自動車一括査定業界TOPクラスにまで成長することができたという。
なぜ、これほどまでにCVを上げることができたのか。その秘訣について、神北氏は3つのポイントを挙げた。
認知広告で意識した3つのポイント
まず1つめは「費用対効果へのこだわり」。一般的に認知広告というと費用対効果は検証されず、投資対象として放置される傾向にある。ところがMOTAでは、申し込み数をCVとして、費用対効果を意識した。また、ブランド名の検索数がどれだけ増えたのか、ブランド名経由のCVはどれだけ増えたのか、リスティングやオーガニック経由でどれだけ増えたのか。ラジオ広告では配信したエリアとそれ以外のエリアでのCV件数を比較して効果と捉え、YouTube広告ではクリックしたCVやビュースルーCVで効果をはかった。きちんとCPAを計測し、費用対効果を意識したことで適切な広告を投資することができた。
2つめは「クリエイティブへのこだわり」。数年前、サービス名を認知してもらうためにサービス名を連呼するようなインパクト重視の広告を展開したものの、認知は上がったが申し込みにつながらなかったという失敗を教訓とした。「マーケティングプランをつくる際、プロモーション内容に目がいきがちだが、少し立ち返り、ユーザーが何を望んでいるかを考え、それに応えるプロダクトやプライスなども見直すことが重要。それらをふまえてクリエイティブを考えていくことを意識している」と神北氏は語る。まずは業界内においてのMOTAの強みと弱みを洗い出した。強みは、最大20社の比較ができる、ウェブで事前に全社の査定額がわかる、高額の最大3社のみから連絡がくる、各社が事前に競うので高額売却、といったところ。弱みは、査定額が出るまでに時間がかかるという点。そのうえで、クリエイティブの中に自社サービスの強みをしっかり入れることを意識した。
3つめは「効果検証へのこだわり」。サイトやウェブ広告では当たり前にやっているABテストだが、認知広告においてはおこなわれないケースが多い。ところがMOTAは認知広告でもABテストをおこない、ラジオ広告ではエリアや曜日でわけ、YouTube広告では視聴維持率や離脱ポイント、スキップ率なども含めて計測。例えば検索誘導する際のアクションにおいて「MOTA(=エムオーティーエー)で検索♪」と言うか、「MOTA(=モータ)で検索♪」と言うか、登場させる車種を変えるなど、さまざまな検証をおこなってきた。「最適な配信パターンやクリエイティブを磨いてくことが重要」だと神北氏。「これらの3つのポイントを意識して認知広告を展開してきたことにより、大きく成長することができた。場合によってはショート動画などで検証をしてからクリエイティブをつくることも一つの方法」と提案し、締めくくった。
デジタル広告で無駄となっている 9割こそ「宝の山」
DMMグループの子会社であるアルゴエイジの執行役員・成田穂高氏は、デジタル広告における9割の離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介した。アルゴエイジでは成果報酬型のチャットボット「DMMチャットブーストCV」を運営している。DMMチャットブーストCV は、LP離脱時にポップアップを表示してユーザーをLINEに誘導し、LINE上でコミュニケーションをとりながらインサイトなどを探り、ウェブページへ再誘導するもの。グーグルの調べ(2024年) によると、現在、デジタル広告の9割が無駄になっているという結果が出ており、そのうち動画広告が25.5%、ディスプレイ広告が28.7%、検索連動型広告が39.9%、成果報酬型広告が2.7%、その他3.2%。CVに至るのは、リスティングでは30人に1人、ディスプレイでは100人に1人という割合となっている。リスティングでの成功率はEC2.81%、教育3.39%、金融保険5.10% 、不動産2.47%、ディスプレイではEC0.59%、教育0.50%、金融保険1.19%、不動産0.80%と芳しくなく、ファーストビューの離脱率は70%以上ともいわれている。そのような状況下では、CVしていないクリックを不必要だとするか宝の山とみるかで、その後の成果が大きく変わることとなる。
「良いマーケターほど、CVしていないクリックを宝の山だと理解し、CVしていないクリックから示唆を抽出して、マーケティングのPDCAを回すビジネスに生かしている」と成田氏は語る。つまり、それまで不必要だとゴミ箱に行っていたものが、日々の活動に光を照らしてくれる存在になりうるのだ。
LINEを活用したゼロパーティデータが有効
アルゴエイジのDMMチャットブーストCVは、2つの目的を掲げている。1つは、離脱している9割のユーザーをCVにつなげること。2つめは、CVしていないユーザーを深く理解することで、新たな示唆につなげることだ。1つめの離脱している9割のユーザーに対しては、DMMチャットブーストCVの導入により5~10%程度のCV数増が見込まれ るという。また2つめのユーザー理解については、「N=1理解がすべて」だと成田氏は考えるが、それには通常、 1対1の対話でインタビューする「デプスインタビュー」や、アクセス解析ツールなどを使った「ログ分析」が必要となる。ただし、デプスインタビュー、ログ分析はそれぞれ長所・短所があり、その差は極端なことが懸念される。具体的には、デプスインタビューはユーザーのインサイトを深く探ることができるが、数を集めるのが難しかったり時間がかかったりする。ログ分析は、数を集めるのに強いため 回帰分析などがしやすく、重要アクションを把握することができる一方で、深いインサイトは掴みづらい。これらに対し 、LINEを活用したゼロパーティデータであれば、量も質も担保できるうえ、LINEに対しての回答なのでインサイトが掴みやすく、「デプスインタビューとログ分析のいいとこどりができる」と成田氏は提言する。
インサイトをもとに効果的なシナリオを作成
続いて成田氏は、「ピルの服用に関するインサイトを探る」という事例を紹介。
オンラインピル処方サービスにおいて、LP離脱ユーザーをLINEへと誘導し、コミュニケーションを図った。ピルの服用未経験者に対しては、服用の目的を「避妊」「生理トラブル改善」の2軸にわけてニーズを探ったところ、「ピルが自分の体に合っているか不安」「安心できるサービスで安く処方してほしい」などのインサイトが浮かび上がってきた。一方、服用経験者に対しては、重視する軸を「効率面」「金銭面」にわけてコミュニケーションをとる中で、効率重視派においては「手軽にピルを続けたい」という要望から、「今後もピルは継続的に飲んでいきたいが、病院に行くことがとにかく面倒。オンラインサービスなら毎月の待ち時間や予約も不要だから、手軽に続けていけそう」という インサイトを、価格重視派においては「より安い価格で処方してほしい」という要望 の奥に、「ピル切れのため、即日処方希望。隙間時間に受診 でき、最短翌日発送のオンライン診療なら自分にピッタリ」という インサイトをくみ取っていくことができた。導入した当初は、服用未経験者より服用経験者のほうが多いと想定し、服用経験者に向けたシナリオを作成する予定だったそうだが、インサイトを導き出したところ、服用未経験が6割、服用継続中が2割、過去に服用経験ありが2割という結果となり、服用未経験者が意外と多いことが判明した。 このことから、服用経験者と未経験者の両者を考慮したシナリオを、それぞれのニーズをもとに作成する という。
離脱ユーザーにさらに踏み込んだ施策を
今後について「離脱ユーザーにもう少し踏み込みたい」と話す成田氏。
現在はインサイトの掛け算でクライアントへのデータ提供を行っているが、WHO(ターゲット)とWHAT(何が必要か)をより詳細に掛け合わせた形でデータ提供ができるようにしようとしている。WHO(ターゲット)については、年齢や居住地、いつの回答結果か、流入経路などで、WHAT(何が必要か)となるのが顕在的なニーズと潜在的なインサイトだ。今後はそれぞれの掛け合わせで可視化されていく離脱ユーザーのデータを、より解像度高くクライアントに還元していくことで、DMMチャットブーストCVが日々のマーケティング活動に光を照らす存在になれればと抱負について語り、登壇を締めくくった。