博報堂のシンクタンクである博報堂買物研究所は1月21日、新しい購買行動モデル「DREAM」を発表した。「DREAM」は、AIエージェント*¹の普及に伴いもたらされる、リアルタイムでパーソナライズされた新しい購買体験を体系化したもの。
*¹生活者の仕事や日常生活をサポートするために設計されたAIシステムを指す。
博報堂買物研究所では、昨今ECを中心にAIエージェントを活用したリコメンドなどの購買体験の変化が進んでいる背景を受け、「買物フォーキャスト2025」として生活者の買物潮流を予測・提言している。今回の「DREAM」もその一環で発表された。
同研究所では「DREAM」モデルの構築にあたり、技術や社会トレンドに関する93の未来事象を収集し、未来の兆しを分析。その後、生成AIを活用して多様な価値観を持つバーチャル生活者*²を作成。それらへのインタビューを通じて商品購入までのジャーニーを具体化し、共通点を見出した。
*²博報堂の生活者データと生成AI技術を組み合わせた独自開発の未来生活者像。
「DREAM」が示すのは、生活者とAIエージェントが協働する新しい購買体験。その購買体験は、5つのプロセスを通じて具体的に理解できるという。また、「DREAM」とは以下の5つのプロセスの頭文字を取ったもの。
■新購買モデル「DREAM」を理解するための5つプロセス
1. Dialogue(対話)
生活者はAIエージェントとの対話を通じて、自分の好みや価値観、ライフスタイルを共有する。現状は、AIエージェントが過去の購入履歴や検索履歴を基に、生活者の明確なニーズを把握し、それに基づいた情報を提供することが可能。今後さらに、技術の進化により、対話から生活者自身も気づいていない潜在的なニーズを発見するAIの能力が高まれば、さらに深くパーソナライズされた提案が実現する。
2. Recommended(推奨される)
生活者はAIエージェントから、対話で明らかになった価値観やニーズに沿って、適した選択肢の提案を受け取る。そしてAIエージェントが提示する選択肢をもとに、生活者は自分のライフスタイルや嗜好に沿った選択肢を見つけ出すようになる。このプロセスでは、AIエージェントによる的確な提案と生活者自身の直感が融合し、納得感のある最適な選択肢が選び抜かれることになる。
3. Experience(体験)
リアルな環境での試用では、商品の質感や操作性を直接確認することができ、実際の使用感を体験できていた。これに加え、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)といった、拡張された体験が一般に広がれば、「リアル+バーチャル」が融合した購買体験が可能になる。さらに技術進化により、触覚や嗅覚といった視聴覚以外の感覚域でも高精度化が進めば、商品選びがより具体的で豊かな体験となり、生活シーンとの適合性をイメージしやすくなる。
4. Assurance(確信/承認)
生活者は、リアルな環境での試用とVRやARを活用した仮想体験を一定期間試用しながら行き来することで、商品の特性や生活シーンへの適合性を多角的に検証するようになる。これにより、十分な試用経験を経て確信が得られた段階で、AIエージェントを通じて商品やサービスを購入します。この「リアル+バーチャル」の融合した体験プロセスが、安心感を高め、後悔のない選択を可能にする。
5. Management(管理)
生活者はAIエージェントを通じて商品の使い方を確認したり、メンテナンスを依頼したりすることができる。また近未来では、Experience(体験)中の心拍数や視線データなどの生体情報、さらに購入後の商品使用履歴や感想をAIエージェントに共有することで、自分の嗜好や傾向をより深く理解してもらえるようになると予想される。これにより、AIが生活者の嗜好や長期的なニーズをさらに学習し続け、次回のDialogue(対話)フェーズで活用され、よりパーソナライズされた提案につながる。
この5つのプロセスを踏まえ、同研究所は「DREAM」について以下のように分析している。
「現在、生活者は自身で情報を収集し、比較・検討した上で選択するプロセスを経ることが一般的だが、生成AIの進化により、生活者の購買体験は劇的な変革の時代を迎えようとしている。しかし、「DREAM」モデルでは、AIエージェントが嗜好や行動データをもとに生活者の潜在的なニーズを予測・提案し、効率的かつ直感的に選択を行えるようになると、VRやARを活用した仮想体験によって購買満足度が一層向上する可能性がある。また、AIエージェントの的確な提案により、選択ミスや購入後の後悔といった『失敗のリスク』が軽減され、時間や手間を大幅に削減する効果も見込まれる。こうした購買体験の進化を通じて、従来の購買プロセスには見られなかった以下の4つの顕著な変化が生まれる可能性がある。これらの変化は、生活者と商品の新たなつながり方を提示するものだ」。
また、同研究所は、前述の「4つの顕著変化」における具体的な予測も発表した。「DREAM」モデルから導かれる、近未来に起こり得る「4つの変化」は以下のとおり。
■「DREAM」モデルから導かれる、近未来に起こり得る「4つの変化」
1. 商品の探し方は「検索」から「対話」へ
購買プロセスの出発点が「情報を探す」から「対話を通じてニーズを引き出す」へと変わる。AIエージェントとの対話を通じて、生活者の顕在的なニーズだけでなく、潜在的なニーズまで自然に拾い上げることが可能になり、生活者自身が気づいていない新たな発見や満足感を提供できるようになる。
2. 選択の仕方は「自分で決める」から「AIエージェントと決める」へ
膨大な情報を自分で比較・選択する負担が軽減され、AIエージェントが嗜好や行動データをもとに的確な提案を行うようになる。これにより、商品選びの効率が格段に向上し、特に高額商品においても短期間で購入決定が可能になる。このプロセスは、選択のストレスを軽減し、より直感的で満足感の高い購買体験を実現する。
3. 商品試用は「リアル」+「バーチャル」での体験へ
商品体験が、実店舗での試用に加え、VRやARを活用した仮想体験へと拡大する。視覚や触覚だけでなく、嗅覚なども仮想的に体験できるため、購入前に商品の適合性をより深く確認できるようになる。
4. 顧客の声は「一部」から「みんな」へ
購入後の感想は一部の口コミ投稿者の意見が中心だったが、AIエージェントへのフィードバックを通じて、多くの顧客の意見が反映される仕組みへと変わる。顧客が意見をフィードバックすることでAIエージェントが学習・蓄積し、嗜好や傾向をより深く理解できるようになる。その結果、自分の意見が反映される価値を感じた人々が積極的にフィードバックを行い、提案精度がさらに向上する。
以上の予測を踏まえ、同研究所は「AIエージェントは生活者の価値観やライフスタイルを理解し、最適な選択を提案するパートナー。『どんな商品が欲しいか』だけでなく、『どんなAIエージェントからの提案が欲しいか』が購買プロセスにおける重要な要素となりつつある。今後、生活者とAIエージェントが共存していくことで、これまで以上に豊かで充実した購買体験が実現する」と考察している。