発酵のぎもん

「麹」とは?「糀」と何が違うの?

発酵食品に欠かせない「麹」

「麹」とは、米・麦・大豆などの穀物に「麹菌」を繁殖させたもので、日本の発酵食品をつくるのに欠かせません。どんな食材(培地)で菌を繁殖させるかによって、できあがる麹の種類が変わり、つくる発酵食品によって使い分けされています。

米麹

蒸した米に麹菌を繁殖させたもので、「米味噌」や「甘酒」「日本酒」「塩麹」「酢」などをつくる際に用いられます。

麦麹

蒸した麦に麹菌を繁殖させたもので、主に九州・中国・四国地方でつくられる「麦味噌」「麦焼酎」に用いられます。

豆麹

蒸した豆に麹菌を繁殖させたもので、主に東海地方でつくられる「豆味噌」「八丁味噌」に用いられます。

麹菌にも種類がある!?

用途に応じて用いる麹菌にもさまざまな種類があります。麹菌を培養してできた胞子を乾燥させた「種麹(たねこうじ)」は、麹づくりのスターターとして使用されています。種麹は別名“もやし”と呼ばれ、それをつくるメーカーのことを「もやし屋」と呼んだりもします。

黄(き)麹菌

昔から日本で用いられている代表的な麹菌。緑がかった黄褐色をしており、主に「味噌」「醤油」「清酒」づくりに用いられます。でんぷんやたんぱく質の分解能力が高いのが特徴です。

黒(くろ)麹菌

沖縄の「泡盛」をつくるのに用いられる黒色をした麹菌。現在では「焼酎」づくりに用いられることもあります。クエン酸を生み出すという特徴があります。

白(しろ)麹菌

黒麹から突然変異して生まれた麹菌。黒麹よりも明るい褐色のため、白麹と名づけられ、主に「焼酎」づくりに用いられます。黒麹と同様、クエン酸を生成します。

紅(べに)麹菌

中国や台湾で古くから用いられている麹菌。小豆のような紅色をしており、「豆腐よう」台湾でつくられる「紅酒(アンチュウ)」づくりなどに用いられます。

カツオブシ菌

「かつお節」づくりに用いられる麹菌。かつお節内部の水分を吸収し、旨みを引き出します。

「麹」と「糀」

そんな麹を示す漢字には、「麹」と「糀」の2種類があります。どちらも読み方は“こうじ”ですが、一体何が違うのでしょうか?

ひと言でいうと「麹」は中国から伝わった漢字で、「糀」は明治時代に日本でつくられた国字です。

“麦”偏に米(粒)を勹(包む)と書く「麹」。かつて中国では麹をつくるのに主に“麦”を用いていたことから、麦などの穀物の粒が麹菌などのカビによって包まれている様子を表しているといわれています。一方、“米”偏に花と書く「糀」。日本では麹をつくるのに主に“米”を用いてきました。蒸した米に麹菌の白いふわふわの菌糸が生えている様子が、米に花が咲いているように見え、生まれた漢字だといわれています。

ちなみに麹のつくり方も異なり、日本では蒸してほぐした穀物に麹菌を散布して繁殖させます。バラバラとした粒ごとの形状なので「散麹(ばらこうじ)」と呼ばれています。一方の中国では、穀物を粉にして水を加え練り固め、置いておくことで自然に麹菌が繁殖していきます。団子や切り餅のような形状なので「餅麹(もちこうじ)」と呼ばれています。日本で用いられる麹菌は「コウジカビ」と呼ばれるカビで、中国では「クモノスカビ」と呼ばれるカビが主体です。

「麹」と「糀」、明確に意図が定められているわけではないため、どちらを使っても間違えではありません。ただ、一般的に「麹」と書くと麦・豆・米など穀物でつくられた“こうじ全般”のことを表し、「糀」と書くと‟米こうじ“のことを表していることが多いようです。

監修:小泉武夫(こいずみたけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。食にまつわる著書は140冊以上。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。発酵文化の推進ならびにその技術の普及を通じてさまざまな発展に寄与することを目的とした「発酵文化推進機構」の理事長も務める。 発酵文化推進機構公式サイト