ようやく秋らしくなってきた先週のアクセスランキングには、スマートフォンゲームからレールガン研究、退職代行、闇バイトまで、さまざまな話題が入った。
その前の先々週には、漫画家の楳図かずおさんの訃報が伝わった。88歳だった。
筆者は本誌のインタビューで一度だけ面識がある。2016年、東京・吉祥寺の「まことちゃんハウス」にお邪魔してインタビューに同席し、執筆を担当した。テーマはAIだ。(当時の記事:「人工知能? 人間が人間を作ろうとしているだけの話です」 楳図かずおさん)
お会いする前は、ひょうきんなホラー漫画家というイメージだった楳図さん。実際にお話しして、冷静で哲学的な希代のクリエイターだと感じた。
伺ったのは、楳図さん(79)が1982〜86年、「ビッグコミックスピリッツ」に連載したSF漫画「わたしは真悟」の世界と、現代のAIについてだ。
作中では、主人公の小学6年生・悟(さとる)とヒロインの真鈴(まりん)が、町工場の産業用ロボットにたくさん言葉を覚えさせる。するとある日、コンピュータが意思を持ち、世界中のコンピュータとつながる。やがて知能と感情を持ち、自らを「真悟」と名付け、学習・成長していく。
真悟がネットワークとつながって知識を得て、成長していくさまは生成AIのようだ。連載当時から、楳図さんはそうした技術を予見していたのだろうか。そう尋ねると「漫画の発想として描いただけ」とさらりと言う。
工場で働いていた真悟の父は、仕事がロボットに奪われ落ちぶれる。一方で真鈴の父はエリートで、英国でリッチな生活をする……など、これもAI時代を予見しているかのような内容だ。
いま、AIの普及で人間の仕事は実際に奪われており、格差拡大が助長されているとも言われている。今後、人間はどうなってしまうのか、不安になることもある。
楳図さんはAIの進化について「人間が人間を作ろうとしている」と喝破する。そして「人間は本能の底では、進化しようと一生懸命あがいている」と。
このインタビューは2016年。ChatGPTが世界を震わせる6年も前の内容だが、2024年の今でもじゅうぶんに示唆的だ。
楳図さんの肉体は空に飛んでいってしまったが、作品とメッセージは永遠だ。
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