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新たな学びの場“バーチャル学校”とは

「距離感もちょうどいいし、バーチャルのほうが安心感がある」
「ひとりじゃないって思えた」
「自分らしさを出せる学校で良かった」


不登校の小中学生が過去最多となる中で注目を集めている、新たな学びの場があります。“バーチャル学校”と呼ばれています。子どもたちが自宅からオンラインで参加。デジタル空間に作られた校舎に集って1日を過ごします。悩みを抱える子どもたちの新たな学びの場にと、いま全国的に開校が相次いでいます。

さらに子どもが在籍する地域の学校と連携して、ここで学んだ日を「出席扱い」とする制度も。

どんな場所なの? 何ができるの? 「出席扱い」って?

バーチャル学校に通う子どもたちを取材してきました。

“バーチャル学校”ってどんなところ?

今回お邪魔したのは、小学4年生のはるみさんのお宅。

バーチャル学校で過ごす1日がどんなものなのか、見せてもらいました。

こちらが1週間の時間割です。

「学校側が用意したスケジュールに沿って、規則正しい生活を目標に1日を過ごしているそうです。

“登校”するのは、デジタル空間に作られた校舎。

小学1年生から中学3年生まで、およそ120人が参加しています。

8人ほどのクラスに分かれていて、それぞれに担任の先生がいます。

午前10時

担任の先生

「10時になりました。皆さんおはようございます。ではこれから朝のホームルームを始めたいと思います」

朝のホームルームから1日が始まります。はるみさんもチャットや「いいね」などのリアクションボタンで先生の話にたくさん反応しながら、ホームルームに参加します。

朝の時間帯、ホームルームが始まる前から、教室に続々とアイコン姿の子どもたちが集まってきて、お互いのアイコンをクリックしてあいさつしたり、チャットや音声通話でやりとりしたりしていました。「きのうの放課後は何したの?」など、楽しそうにおしゃべりしていたのが印象的で、通常の学校と変わらない朝の風景だと感じました。

午前10時半

朝のホームルームが終わると、はるみさんはバタバタと大急ぎでリビングへ。

今度は、体を動かす“ホーム体育”の時間です。

家にいながらも、側転や縄跳び、逆立ちなど、毎日のメニューを決めて、健康のためにしっかりと体を動かすことにしています。

午前11時

次は自習の時間。再び、勉強机に戻ります。

在籍する小学校の授業の進度に合わせた教材に取り組みました。

デジタル空間の校舎にいる講師に分からないことを質問したり、過去の授業の録画を参考にしたりすることもできます。

午後2時

午後は授業の時間です。

教員免許を持つ講師が7教科の指導にあたっています。

この日は国語で、旧暦の月の名前を学んでいました。

国語の講師

「今回のテーマは『和風月名』。辞書がある人は辞書で、インターネットで調べてもOKです。早速調べてみましょう」

はるみさんは辞書で「和風月名」について調べたことをパソコン上のノートに書き込んでいきます。

ノートに書いた内容は講師にリアルタイムで共有されます。

そうすることで、子どもたちが授業の進度についてこられているか進捗状況を確認しながら進めることができます。

はるみさんは手を挙げて発表にも挑戦。

2月の和風月名「如月」の由来について、調べたことを発表しました。

はるみさん

「和風月名『如月(きさらぎ)』

由来、重ねて着る『衣更着(きさらぎ)』

気候が陽気になる『気更来(きさらぎ)』

草木が生える、『生更木(きさらぎ)』

なんとすべて『きさらぎ』と読むことから、きさらぎと付けられた」

講師

「そう、『きさらぎ』ってね、いろんなことばで由来があるんですよね。びっくりしますね」

オンラインながらも、講師と子どもたちとがコミュニケーションをたくさんとりながら授業が進められ、双方向性を意識していることが伝わってきました。

すべての子どもたちに安全・安心な学びの場を

はるみさんが不登校になったのは2年生のころでした。

大きな音が苦手で、周囲のペースに合わせて行動するのが難しく、登校を続けられなくなりました。

はるみさん

「ちょっと学校が合わなかったので。手を挙げるときって、他の人も挙げる場合があるから『はい』の声がたくさん重なって聞こえてつらかった。不安でしんどかったです、正直。行かなきゃ行かなきゃって・・・」

ぐったりと疲れて学校から帰宅するはるみさんの様子から、親も担任も「はるみさんにとっては学校に毎日行くことが正解ではない」と一致し、自宅で過ごす選択をしました。ところが……

はるみさんのお母さん

「何をしていいか分からなかったり、学校に行けないことへの罪悪感だったりでイライラしている様子が日に日にひどくなってきたんです」

どのように過ごしていけばいいのか。対面のフリースクールも検討しましたが、ハードルは高かったといいます。

はるみさんのお母さん

「通うとなると、まだしんどくて。そうすると行き場所がないなと。もう少し大きくなったら、いろんな学校があって本人が選ぶ選択肢が増えると思うんですけど。小学生って選べないんだな、どうしようかなって、当時はすごく悩んでいました」

情報を集める中で見つけたのが、バーチャル学校でした。

音に敏感なはるみさんにとっては、突然誰かが大声を出すことがないバーチャル学校の環境が適していました。カメラやマイクをオンにするのかを選べることもあり、「ここなら通える」と感じたといいます。

はるみさん

「距離感もちょうどいいし、大きな音も流れないし、バーチャルのほうが安心感ありますね」

次第にクラスメートや担任ともなじんだことで、カメラやマイクをオンにして参加することが増えています。

はるみさんのように、すべての子どもたちが安心して学ぶことができる、新しい学びの場を作りたいという思いから、このバーチャル学校は誕生しました。元教員や教員志望の大学院生ら、約30人のスタッフによって運営されています。小学校の教員だった代表の星野達郎さんが、不登校の子どもが参加しやすい場を作りたいと、2023年9月に開校しました。

バーチャル学校の代表 星野達郎さん

「対面で人に会えるようになるためには、人って安全なんだ、自分を認めてくれる人っているんだと感じられる安心・安全な環境が絶対に必要です。新しい学び方や新しい過ごし方で、その子がハッピーになれる場所が絶対に必要だという思いで取り組んでいます」

「出席扱い」となる国の制度も

子どもが在籍する地域の学校と連携して、バーチャル学校で学んだ日を「出席扱い」とする制度も活用されています。

こちらはバーチャル学校側で作成した、1週間の学習活動の記録。

何の授業を受けたか、自習の時間には何の教材に取り組んだかなどが分かるようになっていて、担任の先生からのコメントや、子ども本人のコメントが書き込まれています。

この記録を保護者や子どもから、小学校に提出します。

その内容を学校長が確認して、適切と判断されると「出席扱い」として認定されて、成果が通知表などの評価に反映される仕組みです。

はるみさんも、この制度があることを知って活用するようになりました。定期的にみずから小学校に行き、担任の先生に手渡しで提出しています。

内容を確認された結果、はるみさんがバーチャル学校で学んだ日は「出席扱い」と認められることになりました。通知表では「フリースクールで意欲的に学習に取り組んだ」と評価されました。

はるみさん

「認められてる気がしてちょっとうれしい。家で頑張っているのに通知表の成績が悪いみたいな、そういうのはなんかちょっと変だから」

部活や対面イベントでコミュニケーションの経験も

このバーチャル学校では、クラスメートと楽しみながらコミュニケーションをとる経験もたくさんしてほしいと、さまざまな交流の場を用意しています。

部活動

例えば放課後。子どもたちが主体となっての部活動の時間です。友だちと好きなことでつながり、交流を楽しんでいます。

はるみさんは大好きな将棋を一緒に楽しむ仲間を作りたいと将棋サークルを結成し、部長として活躍中です。

画面の向こうには、10人ほどの仲間たち。はるみさんが司会進行し、サークルのメンバーたちの対戦表を作ってオンラインの将棋ゲームで対戦していきます。

部員

「はるみくん、勝ったよ~、きょうはなんか運がいい!」

はるみさん

「運がいい!」

みずから積極的に友人と関わるようになったはるみさんの様子をお母さんもうれしそうに見つめていました。

はるみさんのお母さん

「やっぱり前よりは格段に生き生きと過ごしていると思います。学校に行けなくなった子にとっては貴重な選択肢というか、自分のペースで家にいながらも、お友だちや先生と交流していろんな学びを深めていってもらえたらなと思っています」

対面イベント

さらに、対面でのイベントもあります。このバーチャル学校では、ピクニックやマラソン大会、修学旅行などが月に1度ほど用意され、クラスメートや先生に直接会う機会になっています。

ピクニックの様子

3月に都内で開かれた、卒業や進級を祝う会の様子を取材しました。
全国から20人ほどの子どもたちや保護者、先生たちが集まりました。

開会前からにぎやかにおしゃべりする子どもたち。ふだんはバーチャルでやりとりしているからこそ、直接会えるこの日を楽しみにしていた様子でした。

賞状を受け取っているのは、小学校の卒業を迎えたけいとさん。

5年生から不登校でしたが、バーチャル学校で過ごすことで自信をつけた1人です。対面のイベントにも積極的に参加して、クラスメートや先生と人間関係を築いてきました。

この日は先生や保護者の前でスピーチに挑戦しました。

けいとさん

「まさか半年前はこんなすてきなところにいる自分が想像できませんでした。自分はいったいメタバース上の学校で何ができるんだろうと、不安でいっぱいでしたが、いざ始まってみると驚きの毎日でした。ここには学校に行けない子や学校が合わない子、いろいろな特性の子がいてみんなで支え合っています。びっくりするほど温かくて、今では私の居場所となりました」

ほかの子どもたちが、「うんうん」とうなずきながら聞いている様子が印象的でした。

けいとさんは、今後もバーチャル学校に通いながら、中学校に登校する日も増やしていきたいと考えているそうです。

けいとさん

「最初はバーチャルだからこその良さというか、話しやすさがあって。それからイベントで実際に会えるので、すごく友だちもできやすいし、ひとりじゃないと思えて。こうやって自分らしさを出せる学校で良かったなと思います」

あなたの身近な場所でも

こうしたバーチャル学校は、いま全国で開校が相次いでいます。

●民間が運営するフリースクールとしてのバーチャル学校 のほか
●自治体の教育委員会が設置するところも増えてきています。

NHKが調べたところ、以下の自治体で取り組みが始まっています。

※取り組みの内容は、それぞれ異なります。また、開設している自治体もこの限りではないため、興味のある方はお住まいの自治体の教育委員会などに問い合わせてみてください。

利用料は、
●民間が設置しているところは月2~3万円ほど
●自治体が設置しているところは無償 
で利用できます。

取材後記

初めて取材に行った日、「ここに来て、生きる喜びを生まれて初めて感じた」と涙ながらに話してくれたお子さんがいました。それだけの気持ちにさせるバーチャル学校とは、どんな場所なのだろう……そんな思いで取材を始めました。

学校が合わないという子もいる中で、必ずしも通常の学校に復帰することが目的ではなく、すべての子どもたちがさまざまな選択肢の中から自分に合った学びの場を選ぶことができる。そんな社会の実現に向けて、重要な取り組みのひとつだと感じました。

「『不登校の子は暗く、家に引きこもっている』というイメージを変えたい」「悩んでいる同世代にこんな場所もあると伝えたい」。取材を受けるかどうか悩んだ末、そう決意しバーチャル学校での日々を取材させてくれた子どもたちに心から感謝しています。

「バーチャル学校の卒業生でうらやましいと言われるような学校にしたい」と話してくれた子もいました。これからも進化を続けるバーチャル学校を引き続き取材したいと思っています。

この記事の執筆者

報道局おはよう日本 ディレクター
澤本 快

2023年入局、現部署が初任地。
教育や戦争のテーマを取材。

みんなのコメント(1件)

提言
シオドア
30代 男性
2024年8月23日
そもそも集団に馴染めない子も一定数いる以上、こういう教育もすべきだと思う。日本は既に先進国なので、教育も量でなく質を大事にすべき。
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